日本放送協会(NHK)は8月4日、2021〜2023年度にかけての3カ年の中期経営計画案を発表。この中で、衛星波(BS放送)を現在の右旋 3波から2波へ、ラジオも3波から2波へと整理・削減する方針などを明らかにした。また、NHKの前田晃伸会長は今後の受信料の在り方についても言及した。

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NHKは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で社会・経済環境が一変する中、正確な情報や学びの機会、娯楽などを多様な伝送路を通じて広く提供する「NHKが公共メディアとして果たす役割」が再認識された、としたうえで、国内の人口・世帯数の減少やテレビ保有率の低下、公共に対する社会的な意識の変化、技術革新の加速化により、「今後も私たちの予想を上回る速さでメディア環境・視聴者行動の変化が進むことが想定される」と分析。

受信料収入が長期的に減収していくことを踏まえ、NHKならではのコンテンツやサービスに経営資源を集中させるため、BS放送の整理・削減を実施。新しいNHKらしさの追求と、事業の再構築によるコスト構造の改革を同時に推進することで、「スリムで強靭なNHK」へ変わることを目指す。

そして、将来にわたって持続可能な業務体制のもと、「視聴者・国民のみなさまに、受信料で支えられるNHKでしか創り出せない価値を提供する」としている。

BS放送は4K・2Kの2波へ整理・削減。BS8Kも「在り方を検討」

BS放送の整理・削減は段階的に実施。NHKのBS放送は現在、右旋波でBS1/BSプレミアム/BS4Kの3波と、左旋波でBS8Kの1波を提供しているが、右旋波については「4K」と「2K」の2波に整理。具体的な実施時期等については、視聴者に対する意向調査等を踏まえて検討を進め、2021年の本計画の議決の際に公表するという。

将来的には4Kの普及状況などを見極め、右旋のBS放送については1波への整理・削減に向けた検討も進めるとしている。

BS8K放送については、効率的な番組制作や設備投資の抑制を徹底し、「東京オリンピック・パラリンピック後に、在り方に関する検討を進める」という。

ラジオはAM・FM各1波への整理・削減に向けて検討

ラジオは、AM放送2波(R1・R2)、FM放送1波という現在の3波体制から、AM・FM各1波への整理・削減に向けた検討を行う。民間放送のAM放送からFM放送への転換の動きや、聴取者の意向などを考慮しつつ、インターネットの活用を前提に検討を進め、計画期間内に具体案を示すという。

「NHKらしさ」を具現化する5つのキーフレーム

新しい「NHKらしさの追求」の柱として、5つのキーフレーム(充填投資先)も公表。

「安全・安心を支える」

地震や台風などの災害、COVID-19などの疫病、インターネットの弊害など、様々な脅威から“命と暮らしを守る”ため、専門分野に知見を持つ取材者などによる信頼できるコンテンツを「NHKプラス」、「NHKニュース・防災アプリ」など、放送による一斉同報とデジタル技術を効果的に連動させ、よりパーソナルな形で提供する報道・サービスを強化。

また、放送・サービス機能を維持するため、老朽化した各地の放送会館の建て替えなども計画的に実施する。

「新時代へのチャレンジ」

高い専門性に裏打ちされ、深く奥行きのある「NHKらしく」見応えのある大型シリーズ番組として、自然・科学分野などのコンテンツを、放送・デジタルそれぞれの特性に最適化しながら提供。

3DやAR/VR、インターネットを活用したコンテンツ配信技術などを活用し、リアルな視聴体験をもたらす未来のメディア技術の研究・開発を進めるとしている。

「あまねく伝える」

ジャンル別管理の徹底による編成や、インターネット配信を含むポートフォリオ管理の最適化などを実施。

AI技術を活用した音声認識字幕システムや、リアルタイムで生成する手話CGなどの最新技術を駆使し、最先端のユニバーサル・サービスなどの研究・開発を推進するという。

「社会への貢献」

人口減少が進む地域を支えるため、地域発の情報発信の割合を増やす。また、NHKが取材・分析したデータや知見などを活かした取り組みを進めるなど、全国ネットワークを最大限に活かし、地域の発展への貢献を目指す。

NHKの高品質・高画質な映像制作技術を使い、日本各地に残る伝統的な文化や芸術、歴史遺産を記録して未来に伝えるなど、NHKの持つ知見・技術も広く提供するという。

「NHKらしさ」を実現するための人事制度改革

職員の創造性を最大化するため、採用から退職まで、人事制度を抜本的に改革。各現場やマネジメント層も、「プロフェッショナルとしての能力評価・登用を徹底」し、人材育成・開発を強化するとしている。

受信料は「安くなる方がいいに決まっている」

NHKの前田晃伸会長は記者会見の中で、3カ年の収支計画について「2022年度までに6,000億円台の規模に抑える」という考えを示した。コスト構造の改革で3年間で630億円規模の支出削減を行う一方で、上記の5つの充填投資先には同期間で130億円規模の投資を行い、メリハリをつけて対応するという。

受信料については、現時点では現行の料額を維持。受信料の支払率は8割を維持しながら、衛星契約の割合を引き続き向上させたい考えだ。前田会長は、現行の受信料制度の問題点についてのさまざまな指摘を念頭に置いた上で、「できれば受信料は安くなる方がいいに決まっているわけなので、サービスを落とさずに受信料をいかにして下げていくかというのは経営の課題」とコメント。

「いろいろなクレームも含めてNHKそのものには沢山の意見をいただいている。受信料だけのことではなく公共放送としての意味だと思う。もう少し時間をいただきたいが、検討は着手したい」(前田会長)。いわゆる地上波と衛星放送の受信料を一本化する総合受信料についても「ひとつの考え方として当然あると思う。検討の中にも入っている」とした。

2020年4月にスタートした、スマートフォンやPCでNHK総合テレビとEテレ(教育テレビ)の番組を見られる「NHKプラス」の24時間化については、「24時間化した方が良いと思っているが、本当に24時間ニーズがあるか調べたい。来年度以降についてはできるだけサービスの質を上げていきたい」と回答している。