「傾聴力」という言葉をご存知ですか? 心理学用語の一つですが、ビジネスにおいても役立つ力とされており、近年はこの傾聴をテーマにした関連書籍が多数出版されています。

本稿では、ビジネスシーンで大いに役立つこの傾聴力を身につけるための手法や、傾聴力を高めるメリットなどについて詳しく紹介していきます。

  • 笑顔の女性

    傾聴力を向上させることで、相手の話をしっかりと聞き込み、内容を詳しく理解できるようになります

傾聴力とは

「傾聴」とは、相手の話に耳を傾けて相手の心情をより深く理解しようとすることを指します。英語で「Active Listening」(アクティブ・リスニング)などと表現されていることからもわかるように、相手が本当に話したいことを「引き出して理解する」という行為も傾聴に含まれます。

傾聴力は、この傾聴のスキルの度合いを示した言葉ととらえるとよいでしょう。

>>参考記事:自分に「聞く力」あると思う人は41.4% -「仕事の基本」「要点を聞き返す」

傾聴力がある人の特徴

傾聴力ががある人にはいくつか共通事項があると考えられています。傾聴力に優れる人の特徴をみてみましょう。

  • 相づちやジェスチャーの種類が豊富
  • 自分が理解できないときは、質問してわかろうとする
  • 相手の話を途中でさえぎらない

相手の会話に相づちを入れながら最後までしっかりとその内容を聞き取り、真意がわかりにくかったり聞き取れなかったりした場所に関しては、「さっきの●●とはつまり▲▲ということですか?」などと質問を入れて正確に理解しようと努める――。このような特徴を兼ね備えた人は、確かに傾聴力が高いと言えそうです。

傾聴力がない人の特徴

反対に「傾聴力がない」とみなされてしまう人の特徴をみていきましょう。

  • 話題の主役を自分にしてしまう
  • 相手の意見を否定してしまう
  • 相手を説得しようとしてしまう

悩み事を相談している最中に「俺(私)ならばこういう風に対応するけどなぁ」「その考え方っておかしいと思うよ」などと口をはさんできたり、ひとしきり話し終えた後に「その言い分もわかるけど、実際のところは●●みたいにした方が効率的でいいと思わない?」などと言ってきたりする人に、今後も積極的に相談したいと思うでしょうか?

相手の意見をくむことなく、自分の意見を主張したいだけの人は傾聴力がないと言えそうです。

傾聴力を高めることのメリット

ではなぜ、傾聴力を高めるとビジネスにおいて役立つのでしょうか。ここでは傾聴力を高めることにより得られるメリットについて紹介していきます。

相手の境遇を把握しやすくなる

まず、傾聴力を高めると、表面的な情報ではなく、相手の置かれている立場や状況を把握したうえで、話の内容の判断ができるようになります。これは、相手の話を詳しく理解しながら集中して聞けるので、誤解や思い込みをなくすことができるためです。傾聴力を意識した会話を続けていると、「互いを深く知りたい」という気持ちが芽生え、踏み込んだ内容さえも話し合えるようになり、親近感が生まれます。

良好な信頼関係を築ける

また、傾聴力を高めると、「話を遮らずに、きちんと聞いてくれる人」というイメージを持たれ、信頼感を得られやすくなります。ビジネスシーンでは、ビジネスパートナーとの良好な信頼関係を構築していくことが重要。傾聴力は、相手に良い印象を持ってもらうために、重要な力というわけです。

自分自身への理解が深まる

さらに、傾聴を通じて自分自身の考えの癖も理解できるようになっていき、自身を客観的に判断できるようになることもメリットのひとつ。自分のことを詳しく知ることができれば、いざというときに、自らの正確に合った冷静な対処ができる人間になれるでしょう。

情報を正確に伝達できる

傾聴力を高めていれば、バイアスをかけずに相手の発言の背景までしっかり分析してから返答するようになり、「認識のズレ」が少なくなります。情報を正確に伝達できるビジネスパーソンは、仕事上のミスがなく信頼できる人材として重宝されます。

傾聴力を高めるトレーニング方法

次に、傾聴力を高めるトレーニングの方法を紹介していきます。高い傾聴力を持つためには、さまざまなテクニックが必要です。そしてそれらは、すぐに身につくものではありません。頭で理解できても、すでに癖になってしまっている習慣は、なかなかなおすことができませんからね。

傾聴力を高めるために、まずはこれまでの聞く姿勢や態度を見直していきましょう。すぐに実践できるのが、「前傾姿勢」。前傾姿勢になることで、熱心に傾聴していることが相手に伝わります。一方で腕を組む・腕時計やスマホを頻繁に見る……といった行動は、相手に警戒心を与える可能性があります。お互いがリラックスして、自然な雰囲気になれるような体勢を作っていくようにしましょう。

以下の項目を何度も思い出し、日常生活の中で忍耐強く試していくことをおすすめします。

相手の目を見て話す

人と話すときには、しっかりと相手に体を向け、顔や目を見るようにします。目は正面から相手をまっすぐ見るようにし、視線をあちこちに逸らすのはやめましょう。

温和な表情を保つ

表情は意識的に柔らかくしましょう。特に、普段から「目が怖い」「笑っていない」と言われるような人はご注意を。

当たり前の話ですが、日頃から柔和な表情が作れていると、相手に好感を持たれやすいです。柔和な表情は、話を聞きたい相手に、心を開いてもらうための有効な一手となることでしょう。

適度に相づちを打つ

「はい」「えーっ! 」「そうなんですか」など、話の合間に適切な相づちを打つことも重要です。相づちを打つことで、「話をきちんと聞いていますよ」という安心感を相手に与え、相手にリラックスして話してもらえます。

話を途中で遮らない

傾聴力を鍛えるためには、思いついたことがあっても、まずは相手に最後まで話をさせることが重要です。会話は大切なコミュニケーションツール。相手の話を全部受け入れることが礼儀です。

人の話を途中で遮る人は短気で自己中心的な人物だと思われて警戒される可能性があります。最後まで聞かなくても内容がわかる話だったとしても、焦らず、その人の言葉をしっかりと全部受けとめてあげましょう。

ミラーリング

「ミラーリング」とは、鏡のように話し相手と同じポーズを取る手法です。

親しい者同士によく起こる現象で、相手が腕を組んだらこちらも腕を組む、手を振ったら自分も手を動かす――など、相手と同じ仕草をすると親近感が湧くといわれています。

バックトラッキング

「バックトラッキング」とは、オウム返しという意味です。

話し相手の話を繰り返して、「ちゃんと聞いていますよ」という合図を送る手法です。話し相手は、話を理解してもらえていると感じることで、安心して会話を続けることができるようになります。

ただし、バックトラッキングを何度も繰り返していると、相手は馬鹿にされたような気分になる恐れがあるので、慎重に。

相手の発言を言い換える

相手の発言を自分の言葉で言い換えて返すのも大事です。たとえば、困りごとの相談を受けた際に、「つまり、~~ができれば解決なんだね」などと、相手の発言を要約して、ポジティブに返答してあげることがおすすめです。

「パラフレーズ」と呼ばれるこの方法は、話が伝わっていることを相手に知らせると同時に、会話の内容に対するお互いの認識が間違っていないことを確認する意味があります。

質問するときは5W1Hを意識する

より具体的な情報を引き出すために、質問時は5W1Hを意識することが重要です。ビジネスパーソンの心得として、5W1Hを意識して報告することは常識です。そしてそれは、傾聴力も一緒です。

傾聴力を低下させる行為

最後に、傾聴力を低下させるNGな振る舞いについて紹介していきます。

傾聴力を磨くことは大切ですが、傾聴力を低下させるような行為をしてしまうと、せっかく得られた信頼が、その場で失われることになります。できるだけ実行しないように。

  • 口論する男

    以下の行動には気をつけましょう!

NG行為1:沈黙に耐えられない

相手には相手のペースがあるので、沈黙があってもイライラしてはいけません。相手が何を話そうか、どんな風に表現しようとかと考えているときに話を遮らないようにしましょう。

まだ何も言ってないのに、「それはつまりこういうことでは? 」と決めつけて話を続けてしまうと、傾聴力が育たないうえに、相手に不快感を与えてしまいます。人の話を最後まで忍耐強く聞く努力をしましょう。

NG行為2:助言や説得に注力する

はじめから「説得しよう」などと考えないようにしましょう。説得することが目的で話を始めるのは、相手に失礼です。まずは傾聴力を発揮して、相手の話をじっくり聞いてあげましょう。話を聞いて、説得が必要だと感じられれば、そこから説得に移れば十分です。

相手の立場や気持ちを理解せず、自分の都合だけ押しつけていたら、傾聴力は育ちません。説得するのであればなおのこと、相手の話を深い理解とともに傾聴しましょう。

NG行為3:決めつけや頭ごなしの否定

「ダメ出し」を避けましょう。普通の話をしているだけなのに、頭ごなしに否定されたり、思ってもみない解釈で決めつけられたりするのは、相手にとって不快でしょう。

自分の感情や個人的な意見はひとまず置いておき、相手の話にじっくりと耳を傾けることが大事なのです。

NG行為4:自分ばかり話す

話を聞くはずが、いつのまにか自分ばかり話している――なんてことは避けましょう。傾聴力の基本は聞くことです。言葉を発するのは相づち程度にしておきましょう。

話が長い人は、たとえ内容が面白かったとしても良い印象を与えません。相手の話が聞きたくて話しているのに、話を取ってしまっては、会話の目的がぶれてしまいます。あなた自身の話は、必要最低限にとどめておきましょう。

傾聴力を向上させてビジネスに活用しよう

傾聴力はコミュニケーションツールのひとつ。傾聴力を使うことにより、相手への理解を深め、自分自身も信頼を得て、社会から高い評価を向けられる社会人になれることでしょう。

この機会に傾聴力を高める努力をして、優秀なビジネスパーソンとしての能力に磨きをかけていきましょう。