納屋に眠っていた謎のクラシックカーの正体は?│ルーフに厚く積もるほこりが物語る年月

価値ある車がひっそりと納屋に眠っている姿を見掛けることがある。英語ではそれを文字通り「Barn Find Condition」と表現するらしい。雨風にさらされていなければ、ボディの傷みは少ないが、出来れば修復再現を施して、自動車らしく走行可能な姿に戻してあげたい。我々オクタン日本版編集部は不動車の情報を聞き、神戸の山を訪ねた。

港町神戸を眼下に見下ろす六甲山系。名水百選にも選ばれた日本三大神滝のひとつ『布引の滝』が流れる新神戸の山間を、くねくねと登りきった先に巨大な門扉が現れた。そこに住まう紳士は相当な車好きで、希少なクラシックカーを複数台所有するという。ひっそりと静まりかえった森の中に共鳴する、エンジンノイズと童心にかえった大人たちの笑い声。離れのガレージや納屋を巡ると、人の気配を感じない空虚な場所に、日常で目にすることのない車が、誰を待つでもなく整然と並べられていた。
 
和の風情漂う竹で覆われたガレージに収まっていたのは、ジェンセン・インターセプター。英国製高級GTでありながら、心臓部にはクライスラー製V8ユニットを備え、ボディデザインとパネル生産はイタリア、組み立てをジェンセンが受け持った異端の混血児だ。
 
1966年から10年間生産されたインターセプターは、新車当時日本ではコーンズ・アンド・カンパニーがインポーターを務めたが、それほど多くの台数が国内に現存しているわけではないだろう。オーナー紳士が1972年に2年落ちの中古で購入したというシルバーの車体は、とても手入れが行き届いており、内外装も機関も申し分のないコンディション。エンジンは一発始動で軽やかに唸り声をあげる。さらに隣のガレージにはもう1台、白いボディのインターセプターがカバーをかけて保管されていた。こちらは今後部品取りにされるのだろうか、手元に来てから一度も動かしたことはないらしい。 

一方で、動態保存されているシルバーのシリーズⅢは、飽きることなく所有されてきた、とびっきりのお気に入り。もちろん筋金入りのエンスージアスト、過去の愛車遍歴は錚錚たるものだが、今も一番愛着があって手放せずにいるのは、このインターセプターだけなのだ。これからも誰の手に渡ることもなく、一身に愛情を注がれることになるのだろう。
 


さて、そうしたオーナー紳士が実は長年気に掛けながらも手をつけていない、謎のクラシックカーが納屋にあるという。その納屋は昔、能の舞台としても使われた、厳かな扉に覆われた豪奢な建物。今は雑然とした物置になっており、不要になった家財品が積み上げられていた。その奥の奥、荷物を掻き分けて進んだ先に、黒く鈍く光る大きな車体が見えた。約30年間、一度も動かされることなく保管されてきたというだけあって、ルーフに積もったほこりの厚みは見事なものだ。欧米のオークションなら、倉庫保管の証として高い評価を得ることになるだろう。

謎のクラシックカー

車台番号から調べたところ、その正体はW136型のメルセデス・ベンツ170Sであることが判明した。1936年から55年まで、第二次世界大戦前後に生産されたモデルで、木骨に鋼板という構造が、生まれた時代を感じさせる。オーナー紳士いわく、この車体は1970年頃に先代がブローカーから手に入れて、会社のコマーシャルカーとして走らせていたらしく、この納屋に収まるまでは実動車だったという。

エンジンルームを覗くと、ディーゼル車であることはわかる。しかし、我々取材班もあまり目にしたことがなく、興味津々。一方で、その価値を理解できているのかというと、実に怪しい。その歴史を手繰りながら、レストレーションなどして、実動車として平成の道に復活させるなんて計画が実現できれば、素晴らしい事この上なし…。ただただ、妄想だけが膨らんでしまった。