マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話します。今回は、いまの情勢やコロナ禍での市場について語っていただきます。


米ドル実効レートは2年ぶり安値

7月に入って米ドルが軟調です。貿易量で加重平均した米ドルの実効レートは、3月の「コロナ・ショック」で急騰したものの、その後は軟化し、7月30日には約2年ぶりの安値をつけました。

  • 米ドル実効レート(日足、2018.1.2-)

7月1日から30日までの騰落率をみると、米ドルはBloombergが定義する主要通貨17の中で南アフリカランドと並んで最弱、同拡大主要通貨32の中で上から23番目でした(*)。

  • 7月1日から30日までの騰落率

米ドルのショート・ポジションが拡大

CFTC(米商品先物取引委員会)によれば、投機筋による米ドルのポジション(主要5通貨の対米ドルポジションから算出)は7月24日時点で2018年5月以来の最大のショート(売り越し)になっています。

  • 米ドルポジション(CFTC)(主要5通貨のポジションから試算)

足もとの米ドル安の背景は、「コロナ」の感染拡大による「経済再開」の遅れ、その結果として強力な金融緩和の長期化、そして香港問題もからんで米国と中国との間で緊張が高まっていることなどでしょう。

米国は「経済再開」に遅れ

米国における「コロナ」の感染拡大は、主要な先進国の中で最もハイペースです。そのため、経済活動の回復は欧州や日本に比べて遅れている模様です。欧州各国は3月の早い段階でロックダウン(都市封鎖)に踏み切ったことでその後の感染拡大が抑制されており、「経済再開」が比較的スムーズに進んでいます。

また、7月中旬のEUサミット(首脳会議)が欧州復興基金に関して合意したことも、欧州に対する投資家の心理改善につながっているのでしょう。そうした状況を踏まえて、足もとで通貨ユーロは堅調に推移しています(その反対側で米ドルが軟調)。

  • 日次経済活動指数

金融緩和の長期化とマイナス金利

7月29日、米FOMC(連邦公開市場委員会)は金融政策の現状維持を決定しました。声明の冒頭では、前回同様に「FRB(連邦準備制度理事会)は厳しい状況下であらゆるツールを用いて経済をサポートすることにコミットする」との強い決意が述べられました。政策金利について、「経済が危機を乗り越え、最大雇用と物価安定の目標を達成する軌道に乗るまで」ゼロ金利を継続するとし、QE(量的緩和)についても、「今後数カ月は現行のペースを続ける」と表明されました。

市場で導入観測が一時高まったYCC(イールドカーブ・コントロール=市場金利に目標を設定して誘導すること)について、今回のFOMCでは特に言及はありませんでした。ただ、前回のFOMC議事録によれば、引き続き内部で検討はするものの、現状では否定的・懐疑的な見方が多かったようです。

市場金利は短期も長期も低位で安定しており、また金融機関の収益に貢献しやすい右肩上がり(長い期間の金利ほど高い状態)なので、市場金利を敢えてコントロールする必要は乏しそうです。ただし、ほとんどの金利がインフレ率(物価上昇率)を下回る、いわゆるマイナス金利の状態になっているため、米ドルの足を引っ張る材料かもしれません(他国の金利状況にもよりますが)。

  • 米国債のイールド・カーブ(利回り曲線)

米中間で資本戦争も!?

米中間の緊張は拡大・深化しているようにみえます。両国間の貿易戦争、ハイテク戦争、軍事的緊張(南シナ海など)に加えて、香港問題にからんでイデオロギーの対立の面が強まっています。さらには、両国間の資本戦争を懸念する声もあるようです。両国間の対立が資本戦争に発展すれば、大量の米国債を保有する中国にとって有利(=米ドル安要因)かもしれません。

今後、米中間の緊張の一層の高まりが懸念されます。一方で、米国での「コロナ」感染拡大や「経済再開」の状況、議会で審議中の追加「コロナ」対策の行方などが、経済見通しや金融政策見通しの変化を通じて、米ドルの先安感に変化を生じさせるか。注目されるところでしょう。