科学コミュニケーターの山本です。

相変わらず専門家にも“わかんない”ことばっかりの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ですが、徐々にわかってきたことがあったり、逆に謎が深まったり、新しい問題が浮上したりしていますね。
そんな状況の中で、私たちにできること、やらなくていいこと、やらない方がいいことなどを、感染症対策のプロに直接聞いちゃう『わかんないよね新型コロナ』という番組をニコニコ生放送でインターネット配信しています。

画面左が感染症対策のプロ、堀成美さん(国立国際医療研究センター 国際感染症センター)
視聴者の堀さんへの愛を感じるコメント付き

未来館が休館中だった4月・5月は月曜~金曜まで連日配信したりもしていたんですが、再開館後は頻度を下げ、7月は月末(7月31日)に視聴者の皆様からの質問をまとめてスペシャルを配信します(その予定で準備中です)。

とはいえ、状況はものすごい勢いで変わっていきます。「状況が大きく変わるようなら臨時の配信も考えよう」と身構えていた7月の初旬。

WHOが「やっぱり空気感染も否定できないかも」と見解を示したことでメディアがざわついたりとか、「その情報必要?」と思えるほどに詳細な感染者の情報が報道されて感染者が困っていたりとか・・・あれ?
「大きく変わった」というよりも「思いのほか状況が変わっていない」ような?

ともあれそういう状況なので、月の真ん中の7月14日に臨時で配信をしちゃいました。

このブログでは、臨時配信の内容を一部ピックアップしてお伝えします。配信後の視聴も、ニコニコ生放送を運営するドワンゴさんのご厚意で、アカウント登録不要&無料でご覧いただけますので、まだの方はぜひ。

番組URL https://live2.nicovideo.jp/watch/lv326989540


今回は、主に以下のような内容です(詳細な内容一覧は、文末を参照してください)。

  1. WHOの「空気感染も否定できない」という見解について
  2. 災害時、避難所での感染症対策は?
  3. 最近のデータをどう見る?
  4. 差別や偏見について
タイムシフトで見てくださった方、突然の臨時配信に時間を合わせてくださった方、ありがとうございます!

1.WHOの「空気感染も否定できない」という見解について

WHO(世界保健機関)は7月10日、「新型コロナウイルスの感染経路として、空気感染の可能性も否定できない」という見解を示しました。


新型コロナウイルスの主な感染経路は、以下の2つだと言われています。

  • 1~2m離れれば足元に落下するようなしぶき(に含まれるウイルス)を浴びたり吸い込んだりする「飛沫感染」
  • 手に着いたウイルスが目や口から入り込む「接触感染」


今回の見解でも、「飛沫」と「接触」が主な感染経路だという部分は変わっていません。ただ、「これは空気感染かも?」という疑いの晴れないケースもある、ということのようです。

「空気感染」という用語は、重力で足元に落ちずに風に舞うような小さなしぶき「エアロゾル」による感染をさすこともあれば、しぶきが乾燥したものが宙を舞う「飛沫核」による感染のこともあれば、という曖昧な使われ方をしています。いずれにしても、「飛沫感染」よりも小さくて、空中に暫く漂っている(状況次第では遠くまで届く)ような粒子による感染のことを指しているようです。

新型コロナウイルスの主な感染経路は①の飛沫感染と②の接触感染。
③の“空気感染”も主要ではないにしても「否定はできない」というのがWHOの新しい見解。(髙橋明子作成)

飛沫感染は、マスクでしぶきを飛ばさないようにしたり、距離をとったりすることが有効だと言われています。また、積極的な手洗いが勧められているのは、接触感染を防ぐためです。

新型コロナの感染経路として、「空気感染」が加わるとしたら、私たちはどうやって感染の拡大を抑えたら良いのでしょうか?

堀さんの答えは、「今までと変わらない」、でした。

感染している人がマスクをしていれば、周辺に広がるウイルスは減るはずです。クシャミやセキをするとマスクだけでは抑えきれないので、肘で抑えたりする「咳エチケット」も大事ということになります。
すでに日本ではある程度普及していることですね。

さらに、避けた方が良い「3つの密」の1つに、「密閉」が入っています。密閉空間ではエアロゾルも長く部屋の中に漂うことになります。風通しの良い場所を選んだり、換気をしたりが大切ということで、これもすでに言われてきたとおりです。

ある意味、日本は先回りしていたともいえるかもしれません。堀さんからも、「日本は対策のレベルが高いので」というコメントがありました。
そういう意味で、「今までと変わらない」ということでした。

2.災害時、避難所での感染症対策は?

新型コロナも心配ですが、もともと洪水や地震などの自然災害も多いのが日本という国です。この記事の執筆段階でも、西日本を中心に豪雨の被害で避難所生活を強いられている方がいらっしゃいます。1日も早い落ち着いた生活が戻ることを祈っております。

もし避難所生活をすることになったら、自宅よりも3密の回避が難しくなることも多そうです。手洗いも十分にできるかは分かりません。避難所では、新型コロナの感染対策はどうすれば良いのでしょうか?

堀さんのお話では、できる中で対策を足し算して、リスクを引き算していくという考え方は変わらない、ということでした。

すでに4月頃から、避難所での感染対策の相談も堀さんのところにたくさん来ているのだそうです。万一の備えが充実していっているのだとすると、心強いですね。私たちも、地域のコミュニティの一員として今のうちに考えておく時期とも言えそうです。

今後は、極端な(集中的に降ったり長く降らなかったり)降水事情になるという予測も。
予測が外れることを祈りつつも、万一への備えは必要かも?
(日本国内における気候変動予測の不確実性を考慮した結果について(別添資料)(環境省)https://www.env.go.jp/press/files/jp/25593.pdfをもとに筆者作成)

また、堀さんからは、避難所には「静かに休む場所とは別に、お話して良いスペースを設けられたらよいのでは」という提案がありました。静かにしていることで安心するという方もいれば、会話することで不安を解消したい方もいます。両方を選べるように場所が分けられれば、確かに良さそうです。なお、お話しスペースでも、向き合って近くで話さないなど、できる中からリスクの引き算をするとベターとのこと。

直接被災していない場合でも、大事なことがあるそうです。避難所の現場では、その時々の情報や物資の中でできる工夫をしています。対策が十分ではないと外野からむやみに理想論で責めたりすることのないように気を付けることも大切とのこと。

私も2011年の東日本大震災の際、仙台避難所を経験しましたが、確かにそんな感じでした。電気もなく、物資も情報も限られ、最適化して動くことも難しい中、譲りあいながら身を寄せ合う場だったのを記憶しています。そこに理想論を持ち出されても困ったと思います。

現地の状況も想像しながら、見守ったり、できる支援(現金が良いそうですよ)を検討したりしたいですね。

3.最近のデータをどう見る?

新型コロナの感染者数が連日ニュースになっています。数が増えていけば不安になりますし、「新規」「累計」「重症」など種類もたくさんあって分かりにくい気がします。

どのようにデータを見れば良いのかの参考として、感染症対策のプロの堀さんがどうやってデータを見ているのかを聞いてみました。
たくさん情報をいただいたので、ここでは箇条書きでまとめます(詳しくは放送をご覧ください)。

自分にとって重要でない情報は気にしない
  • 今までの感染者数(累計の数)よりも、その時点で感染している“コロナなう”な人たちの数字(アクティブケース)を見る
  • 医療現場のひっ迫を見る意味で、重症者数が増えてこないかを日々観察する
アクティブケースを見るには、治った人や亡くなってしまった方の数字も大事です。
「死亡者数」はときどき報道されますが、退院者数」が報道されない不思議
(新型コロナウイルス感染症対策サイト(東京都)https://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp/をもとに堀成美さん作成)
数字を絶対視しない
  • 数字は暫定値なので、遅れて把握された数字が足されたりする前提でみる
  • 検査を受けた人しか数字には表れないので、実際にはもっと多いことを前提でみる
単純な比較はしない
  • 調査対象や調査体制が違うので、他国や過去と比べて「多い」「少ない」と慌てない
6~7月に陽性者数がまた増えてきていますが、3~4月の第1波の頃に比べて検査数の実施数(オレンジの破線)も増えています。
検査体制が整ってきたというのはありがたいことです。
(東京都 新型コロナウイルス感染症対策サイトhttps://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp/cards/positive-rate/をもとに筆者作成)

プロではない私たちが堀さんと同じように見る必要はありませんが、データやニュースに触れる時の基準として参考になると思います。
速報値に一喜一憂せず、冷静に推移を見守りましょう。

4.差別や偏見について

感染者が自分の生活圏内で発生した場合、みなさんはどのくらいの情報を知りたいですか?

都道府県レベル? 市町村? 地区名? 感染者のピンポイントな住所?
感染者の年代? 性別? 職業? 行動履歴? 個人名?

番組で、視聴者の皆様に伺いました
細かく知って対策したいという意見も、聞いても別に・・・という意見も

感染症対策の意味で、身近な感染者発生の情報に、私たちはどのように対応すればよいのか、堀さんに確認しました。

この問題も、これまでと同じで「(細かくわかっても)私たちができる対策は変わらない」。

「感染者が出ました」という防災無線のある地域もあるそうですね。
「だから?」と、無線を聞いた状況を演じる堀さん(なぜか畑を耕しながら)。

逆に、出された情報から個人が特定されてしまって、様々な弊害が出た事例もあるそうです。
そんなデメリットがあるとなれば、体調が悪くても検査を受けようと思わない人が増えたり、調査に協力しない人が増えたりするのではないでしょうか。感染症対策には逆効果です。
個人情報の保護のためには、名前を言わなければ良いわけではなく、特定につながらないような配慮をお願いしたいですね。

個人のレベルでも、つい気になって感染者の特定を試みたり、SNSで拡散したくなるかもしれませんが、やめておきましょう。もちろん、感染者を責めたり吊るし上げたりも、感染症対策の意味では良くないそうです。

なお、感染者が発生すると、その行動履歴は調査の対象になります(国や自治体がきちんと状況を把握することは、対策上とても大事なことです)。感染者との濃厚接触の疑いがある場合、保健所などから検査をした方が良いという連絡が来ることになっています。もちろん調査も完璧ではありませんが、連絡が来ないことを「良い報せ」と考えるのも一手ではないでしょうか。

感染者発生の情報発信として参考になる(情報を受ける時にも、万一情報を出す側になった時にも)、都立病院のフォーマットをご紹介いただきました。リンクを貼っておきますのでご確認ください。確かに、感染者の職種、どんな対応をとったか(消毒など)、診療(提供されるサービス)が止まるかどうかが伝われば十分という気がします。

報道発表 2020年7月13日(東京都新型コロナウイルス感染症対策本部)
https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2020/07/13/11.html?fbclid=IwAR2npAWdk-2-hgISiVOgvXgWo_meAiOs_3tnwssFIRfCC_7ERircyMjkcSg

感染者の特定に走るよりも、感染した方の回復を祈りつつ、今まで通りにそれぞれ対策を続けていきましょう。


1時間の配信に内容をいろいろと詰め込んでしまいました。その割に、振り返ってみれば「冷静に感染対策を続けましょう」という結論ばかりだった臨時配信でした。
情報に触れて一瞬ギョッとすることもありますが、そんな時には冷静に対策を見直す機会にするのも良いかも、と個人的に思ったりもします(職場の休憩室の窓を意識的に開けたりしつつ)。

ウイルスの科学的・医学的な情報よりも人間模様の方が気になって来た感もありつつ、冷静にうまいこと乗り切っていけるように対話と情報の発信を続けていきたいと思っています。
また状況を見ながら臨時配信をやるとなったら、公式サイトやtwitterなどでお知らせをします。ぜひチェックしておいてください。

公式twitterアカウント:わかんないよね新型コロナ@ニコ生(@channel_covid)
https://twitter.com/channel_covid

日本科学未来館新型コロナウイルス関連情報
https://www.miraikan.jst.go.jp/resources/COVID-19/

日本科学未来館チャンネル(ニコニコ生放送)
https://ch.nicovideo.jp/miraikan

7月14日 臨時配信のトピック一覧

各項目の後の( )内の数字は、ニコニコ生放送の開始時刻からの経過時間です。

WHOの「空気感染も否定できない」という見解について
  • 今までとやることは変わらない(05:27~)
  • ウイルスを含む小さな粒子(エアロゾル)、 医療現場だけ気を付ければいい?(06:05~)
  • マスクと咳エチケット、拭き掃除、換気(08:04~)
災害時、避難所での感染症対策は?
  • いつも通りの対策をできる範囲で(11:09~)
  • 不安で話をしたい人も、話をしたくない人もいる。ゾーニングとして、おしゃべりスペース設営のすすめ(11:51~)
最近のデータをどう見る?
  • いろいろな数字、どう見るべき?(15:08~)
  • 高齢者施設などハイリスクな場所への対策はどうなった?(25:50~)
差別や偏見について
  • 「夜の街」を悪者にすることの危険性(29:21~)
  • 問題はマスクを外して近距離で会話をする状況(32:02~)
  • 感染対策は個々の現場で実行可能なものを(36:40~)
  • 感染者のこと、どこまで追跡したい?(38:43~)
  • 名前を出さなくても個人を特定できることがある(41:26~)
  • 感染者情報がわかってもやるべきことは変わらない(42:38~)
  • 誰でも感染する、感染者は悪くない(52:23~)
  • 濃厚接触している場合は保健所が連絡をくれる(54:55~)
視聴者からの質問
  • 感染者の数は、検査した場所と居住地のどちらでカウントされる?(56:19~)


Author
執筆: 山本 朋範(日本科学未来館 科学コミュニケーター)
物心つく前は「抱き上げるときには気が抜けなかった」とは親の談。さすがに今は不思議だからって人の目を突っついたりしませんが、サンショウウオを研究したり、フィリピンの田舎に住み着いたりと、相変わらず好奇心で生きています。今度は皆さんの好奇心を突っつく仕事をしたいと未来館にやってきました。