音楽業界が嫌う著作権裁判の敏腕弁護士、リチャード・ブッシュが闘う理由

エド・シーランのなどの大物アーティストを相手に訴訟を起こし、ファレル・ウィリアムスとロビン・シックを訴え物議を醸した有名な「ブラード・ラインズ」裁判に勝訴した米敏腕弁護士のリチャード・ブッシュ。著作権裁判のスペシャリストとして音楽業界から忌み嫌われる闘う弁護士だ。そんな彼にとって正義とは? なぜ闘うのか? ローリングストーン誌のコラムニストが直撃した。

リチャード・ブッシュ氏とはなるべく関わりたくない——。
すべての音楽会社は、例外なくこう思っている。ブッシュ氏は、その事実をむしろ喜んでいる。

著作権侵害を専門に活動する弁護士のブッシュ氏は、テネシー州ナッシュビルが拠点の法律事務所「キング&バロー」のエンターテイメント部門のトップを務めており、盗みを働く人々相手に訴訟を起こすことで生計を立てている。故マーヴィン・ゲイの1977年のヒット曲「ガット・トゥ・ギヴ・イット・アップ」の一部をスマッシュヒット曲「ブラード・ラインズ~今夜はヘイ・ヘイ・ヘイ♪」に盗用したとしてファレル・ウィリアムスとロビン・シックを訴えた事件はもっとも有名だ。2018年にカリフォルニア州の連邦地裁は、ゲイの遺族に約530万ドル(約5億6700万円)を損害賠償として支払うようウィリアムスとシックに命じた。音楽業界関係者の多くは、この「ブラード・ラインズ」裁判の判決によって盗作訴訟が次々と持ち上がる時代の幕が上がったと語る一方、ブッシュ氏はソングライターのためになることをしたと主張する。

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「(多くの音楽業界関係者の主張と)まさに真逆のことが言えます。判決のおかげで、他人の作品に頼るのではなく、オリジナルの作品を生み出すためのやる気をソングライターに起こさせることができたのですから」とブッシュ氏は語った。「ファレル(・ウィリアムス)、ロビン(・シック)、ゲイの遺族のようなことは誰だって経験したくありません。訴訟の開始から終了まで、5年近い年月を要したのですから。それに、多くに金額が費やされました(そのうちのかなりの金額は、最終的にブッシュ氏のポケットに収まった)。

ブッシュ氏と彼の顧客たちは、これまでにユニバーサル ミュージック グループ、ソニー・ミュージックエンタテインメント、ワーナー・ミュージック・グループ、ソニーATVミュージックパブリッシング、BMG、Kobalt Musicのみならず、十数名のアーティストやソングライターを相手に訴訟を起こしてきた。そしていま、ブッシュ氏はさらに2件の物議を醸しているケースにかかりきりだ。ひとつは、トラヴィス・スコットのナンバー1シングルの件で3人のプロデューサーの代理人として、もうひとつは2019年にこの世を去ったラッパーのジュース・ワールドの件でパンクバンドのイエローカードの代理人として。


ブッシュ氏絡みの訴訟で泥沼に引きずり込まれるのは、大体ソングライターと決まっている。テキサス州ダラス出身のソングライター兼プロデューサーのスティーヴン・ソロモン氏に聞いてみればいい。ソロモン氏は、イギリスのスターシンガー、ジェイムス・アーサーの2016年の世界的ヒット曲「Say You Wont Let Go」がザ・スクリプトの「The Man Who Cant Be Moved」を盗用していると訴えた、ブッシュ氏のキャリアのなかでも一際目を引くケースの被告人のひとりだった。裁判は2018年に終了したものの、ブッシュ氏は前にアーサーが「常軌を逸した行動」が原因で所属レコードレーベルから解雇されていたことを指摘して相手の急所を突いた。彼が言う「常軌を逸した行動」には、2013年のラップ・バトルでの同性愛嫌悪的な発言も含まれる。

ソロモン氏は、現在も著作権侵害が一切なかったと主張している。筆者がブッシュ氏のインタビューをすることになったと語ると、ソロモン氏は次のように語った。「強欲弁護士たちは、ヒット曲のソングライターたちをエサにすることで一大ビジネスを築き上げました。裁判のコストと弁論に要する長い時間の消耗を避けるため、ソングライターは自らの利益を考えず、とりあえず事態の収束を望むだろうという点につけ込むのです。日和見主義の弁護士たちは、我こそが著作権を守るヒーローだと自画自賛しているようですが、実際には彼らこそが侵略者であり、真の悪者なんです」。

ブッシュ氏も、この相反するレガシーを潔いほど理解している。彼は、元ソングライターの顧客がいつも彼に言っていた言葉をうれしそうに語った。「ソングライターたちが私を非難するのは不思議ですね。もし彼らの作品が同じ目に合えば、真っ先に訴訟を起こすのは彼らなのに」。

20年前のニューヨークでの偶然のタクシー移動がなければ、ブッシュ氏の名が世間に知れ渡ることはなかったかもしれない。ニューヨーク・シティで恐喝をめぐる裁判に勝訴したばかりの若きブッシュ氏は、ブリッジポート・ミュージックで著作権の管理を担当していた女性の夫と同じタクシーに乗り合わせた。ブリッジポート・ミュージックはミシガン州を拠点とする独立系の音楽出版社で、ファンク・ミュージシャンによる膨大なレコーディング音源を抱えていた。ブッシュ氏いはく、彼とブリッジポート・ミュージックは「全ラップ・ミュージック業界」を相手に訴訟を起こす計画を練りはじめたのだ。いまや有名な2001年の「ブリッジポート・ミュージック対ディメンション・フィルムズ」裁判をはじめとする500ほどの訴訟が持ち上がった。「我々は、担当したすべてのケースに勝訴しましたし、そのほとんどを解決へと導いたのです」とブッシュ氏は振り返った。

音楽学の専門家は、「ブリッジポート・ミュージック」裁判の判決は、ヒップホップのサンプリング音源の使用にとって「極めて恐ろしい」ものだと語った。さらにブリッジポート・ミュージックは、メディアから「サンプル・トロール(小人)」と揶揄された。しかし、ブッシュ氏にとってこの勝利は正義そのものであった。このケースをきっかけに、ブッシュ氏は巨人ゴリアテを倒したダビデの快感を味わってしまったのだ。

2007年には、音楽業界におけるブッシュ氏の知名度はさらなる高みに達した。ブッシュ氏は、エミネムのプロデューサーであるFBTプロダクションの代理人としてユニバーサル ミュージック グループを起訴したのだ。歴史的と呼ぶにふさわしいこの訴訟において、ブッシュ氏と彼のチームは、FBTはiTunesによる売り上げとして、いままでFBTが受け取っていた12〜20%のロイヤリティではなく、売り上げの50%を手に入れる権利があると主張した。ダウンロード販売は”売り上げ”ではなく”著作権(レコーディングアーティストはここから50%の取り分をもらう)”として扱われるべきであるというのがブッシュ氏の主な論点だ。5年にわたる法廷争いの末、両者は法廷の外で事態を収束させた。だが、その前にFBTが連邦第9巡回区控訴裁判所において決定的な勝利を収め、アーティストがレコードレーベルを起訴するという類似の訴訟が多発する事態になっていた。


「結果として、事態を収束するため、レコードレーベルにはおそらく何十億ドルものコストがかかったでしょう」とブッシュ氏は誇らしげに語った。「そのために、彼らは契約まで修正するはめになった。我々は、多くの成果を得ることができました」。

「ブラード・ラインズ」裁判に勝利した2015年以来、ブッシュ氏は標的をスーパースターに絞ってきた。2016年、ブッシュ氏はマーティン・ハリントン氏とトーマス・レナード氏というソングライターの代理人となった。両氏は、エド・シーランの「Photograph」に彼らが人気オーディション番組『Xファクター』の優勝者マット・カードルのために作曲した「Amazing」が盗用されていると主張した。盗作の疑いで2000万ドル(約21億円)を求めた訴訟はようやく終了し、シーランの楽曲のクレジットには、作曲者としてハリントン氏とレナード氏の名が入った。それにもかかわらずシーラン側の弁護士は、ブッシュ氏の訴訟内容には「スキャンダラスかつ侮辱的な非難があふれており、それらは被告人を辱め、名声を失墜させようとする内容である」と抗議した。

多くの人は、ブッシュ氏が音楽ビジネスで活動するクリエイターたちを不当に傷つけていると思ってやまない。このことを指摘すると、ブッシュ氏は次のように反論した。彼は「弱者」の見方であり、「顧客が正しくて、相手に問題があると感じたときしか依頼を引き受けない」と述べた。さらに同氏は次のように言い添えた。「我々が依頼される90%のケースを拒否している事実をすべての人に理解していただきたいですね。我々は、重大なメリットがあると信じない限り、依頼は引き受けません」。

読者がこの記事を読んでいるあいだも、ブッシュ氏は著名なソングライターに関する訴訟を2件こなしている。そのうちのひとつでは、トラヴィス・スコットのナンバー1ヒット曲「Highest in the Room」が「Cartier」という楽曲の盗作であると主張する3人のプロデューサー(オリヴァー・バッシル氏・ベンジャミン・ラニエ氏・ルーカス・ベンジャミン・レス氏)の代理人を務めている。

もうひとつのケースは、さらに物議を醸している。ブッシュ氏は、故ジュース・ワールドの2018年のヒット曲がパンクバンド、イエローカードが2006年にリリースした「Holly Wood Died」の著作権を侵害しているという訴訟を進めている(盗作の疑いで1500万ドルが求められているこの訴訟は、ワールドが亡くなる前に提出された。若くして亡くなったラッパーの遺産管理人が決定するまで裁判は中断)。

さらにブッシュ氏は、エミネムの作品の版権を管理している音楽出版会社エイト・マイル・スタイルの代理人として、Spotify相手に著作権侵害を訴えている(メカニカルライセンシングを専門とするハリー・フォックス・エージェンシーと共同)。ブッシュ氏は、この訴訟はダニエル・エクの会社とさらには音楽ストリーミングビジネス全体に「巨大な」インパクトを与えると信じている。ここ最近のポップスのソングライターたちのあいだでSpotifyはかならずしも高く評価されているわけではないため、Spotify起訴のニュースは一部のソングライターコミュニティに歓迎されるだろう。それでも、ブッシュ氏と彼にインスパイアされた盗作疑惑に飢えた弁護士たちには真逆の評価が与えられるべきだと主張する人もいる。

カリフォルニア州ロサンゼルスを拠点とする、ソングライターとプロデューサーのマネジメントを行う人気グループ、ミルク&ハニーの創業者であるルーカス・ケラー氏は、次のように語った。「ロサンゼルスの裁判所が作った法的前例は、著作権法のガイドラインをもはや理解できず、本当の意味での著作権侵害が何かをわからないクリエイターたちの未来を不安なものにしています」。ケラー氏は、ブッシュ氏の訴訟について次のように言い添えた。「私のクライアントの頭のなかにこうした恐怖が植え込まれるのは感心できません。短期的にはバトルに勝つかもしれませんが、最終的にこの戦争はクリエイターとソングライターの勝利によって終わると信じています」。ソングライター、マネージャー、レコードレーベル幹部は、レコーディングされた楽曲がリリースされる前に入念な検査を行う音楽学の専門家を雇うケースが増えてきたと指摘する。それは、ブッシュ氏のような弁護士がふっかけてくるコストのかさむ恥ずかしい訴訟を避けるためだ。

「ブラード・ラインズ」裁判から5年が経ったいま、著作権をめぐる流れは変わりつつあるのかもしれない。今年の3月、ケイティ・ペリーは所属レコードレーベルのキャピトル・レコードとともにペリーの「Dark Horse」はクリスチャン・ラッパー、フレイムの「Joyful Noise.」の盗作であると主張し、280万ドル(約2億9000万円)が求められていた判決をみごとに覆したのだ。カリフォルニア州の裁判所によるこの判決は、レッド・ツェッペリンの「天国の階段」に「トーラス」を盗用されたという米ロックバンド、スピリットの訴えを裁判所が退けたわずか1週間後に下された。

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さらには、リゾのケースもある。ジャスティンとジェレマイアのライセン兄弟がアトランティック・レコードと契約を交わしているトップアーティスト、リゾのヒット曲「Truth Hurts」の歌詞が盗作だと10月に訴えると、リゾは激しく反撃した。ライセン兄弟を永遠に葬り去ることを前提とした訴訟において、リゾの法務専門チームは「ライセン兄弟は、問題となっている素材のいかなる部分も執筆していません。未発表のデモにこの歌詞を入れるというアイデアは彼らのものでもなければ、未発表のデモの歌い方を決める際、リゾを支援したわけでもありません。彼らは、この作品の共同所有者ではありません」と書面で発表した。

訴えられた側が勝訴したこれらのケースにブッシュ氏はかかわっていないものの、こうしたケースの勢いからは、訴訟によってソングライターをみごとボコボコにされたあと、音楽業界がいまになって同程度の激しさでブッシュ氏に反撃しようとする姿勢がうかがえる。互いに許し合って生きていくときが来たのだろうか?

「互いに許し合って生きていくというのは、面白い表現ですね」とブッシュ氏はコメントした。「マーヴィン・ゲイのご遺族のような高齢者は、生きるためにマーヴィンのロイヤリティが必要です。しかし、誰かが他人の作品を利用して大金を稼いでいるのに、適切な支払いをしてくれないと思い込むのは、別の問題です。生きるためにロイヤリティが必要な人から奪う、対価を払わずにただ盗む、これも正しいことではありません」。

著者のティム・インガムは、Music Business Worldwideの創業者兼発行人。2015年の創業以来、世界の音楽業界の最新ニュース、データ分析、雇用情報などを提供している。ローリングストーン誌に毎週コラムを連載中。