パリ近郊にできた日本酒の蔵 WAKAZEを訪ねて

日本では、"海外で日本酒がブーム"という報道を時々耳にする。しかしヨーロッパにいるとそんなブームは気配もない。日本酒を楽しみたければ、それを専門にしているレストランに行くくらいしか手はない。それも数が限られており、”酒”はブームという現象は起きていないのだ。その代わり、日本製ウィスキーは流行を超えて、すでに定着しておりスーパーの特売品の目玉に持ってくるほど。それに反して日本酒はヨーロッパではほとんどなじみがないというのが現状だ。
 
そんな状況の中、パリ近郊に昨年日本酒の蔵が出来た。何を血迷ったのか?あるいは日本酒を広めるために国の後押しなどもあってのことなのか?そんな疑問もあってその蔵を訪れてみることにした。その名はWAKAZE。

2016年にWAKAZEを設立したのが稲川琢磨社長。日本酒を守るという所から酒税法で新規で日本酒を0から造るのが厳しい世界であり、逆にこれが日本酒を低迷させていることに気がつく。そこで委託醸造という道を選んでスタートさせた。醸造所から1万本を買い取るという条件で作られた”ORBIA”はその1万本を小売店、イベントなどで完売。その狙いは的中し成功を収めた。2018年には念願の醸造所を開設。「WAKAZE三軒茶屋醸造所」を2018年にオープン。


和の風をフランスに吹き込む稲川社長。

ここで向かい入れた杜氏の今井氏。今井氏は橙の酒造の家に生まれ秋田の新政酒造などで蔵人として修行を積んだ。今井氏はフランスで日本酒を造ることを考えていた。稲川社長の日本酒世界戦略と重なりその方向は稲川社長自身フランスに留学していたこともありフランスへと出向いたのだった。三軒茶屋からわずか1年でフランス進出を決意。投資家などから1.9億円の資金調達をうけパリ醸造所「KURA GRAND PARIS」をオープンさせた。


夏のバカンス前なのでいつもよりも多めの米が蒸されている。
 
稲川社長の日本酒戦略は既存の日本酒を売り込むのではなく”日本酒文化”を海外に売り込んでいくというものだ。そのためフランスに醸造所を開くということは、その国の材料から伝統の日本酒製造方法で日本酒を造っていくというもの。この醸造所はパリの南世界最大の青果市場ランジスにも近い位置にある。そこにはパリの水源ともなるランジスの湧き水が使えるからだ。



かつて、ルイ13世がパリ市民においしいお水をとこの源泉からパリへ水を引くほど良質な水がここにあるのだ。日本とは違いミネラル豊富で硬質な水をそれに併せた製法で今井氏が仕込んでいく。使用される米もフランス製。フランスに住む多くの日本人、日本食レストランで使われる日本の米はイタリア製がほとんどなのでフランスで日本のお米が作られていること自体が驚きだったが、塩で有名なカマルグで栽培されるジャポニカ米を使用している。


温度を下げながらお米が固まってダマが出来ないように広げていくもみ上げ作業。

麹菌は日本にしかないので、日本からのものを使用しているが酵母菌に関してはフランスのワイン造りにも使われるものを使用している。訪れたこの日蒸した米を職人達が手で温度を冷ましながらほぐし、そしてタンクにその米と水を追加していく仕込みを撮影させていただいた。この日蒸した米は、ワイン用の樽に移して熟成される酒になる。樽の香りに負けない味付け、香り付けをしていくというものだった。

フランスはバカンスシーズンに入るのでそれに併せてこの夏前の最後の仕込みということで230kgのお米が使用された。蒸したお米を運び出し、それを冷ましながらダマにならないように手で広げていく。工房はお米の甘い香りに包まれここがパリ近郊だということを忘れてしまう光景となる。


米と水を加えて混ぜていく。

2500リットルのタンクが12基ある蔵。ここで造られた日本酒は毎月4000本以上を出荷。まだ1年もたたずしてその名をフランスに知らしめている。一部は日本に出荷されておりフランス製の日本酒を楽しむことができる。以前、ある日本の酒蔵がフランスに日本酒を売り込むためにワインに似た味の日本酒を造っていた。ここWAKAZEで作られる酒はそういった偏ったものではなく、日本酒の伝統を守り、その土地、今はここフランスの土壌に併せた原料を日本酒製造の技をうまく生かしてきちんとしたフラン製の日本酒を楽しませてくれる。ブランド名のようにきっと「和」の風を吹き込んでいるのである。


”CEST LA VIE”(それが人生さ)という甘口のお酒。コンテチーズとよく合う。フランスに併せてボトルはコルクで栓をしている。


https://www.wakaze-sake.com