誰しもが満足できた│クレマーがレストアしたポルシェ934の仕上がり

この記事は『栄光への帰還│クレマーがレストアしたポルシェ934がサーキットへ』の続きです。

新たにターボチャージャーを装着したエンジンのスロットルレスポンスについて聞いてみると「とてもデジタルです」と意外な答えが返ってきた。一般的に、この手の古いクルマのターボチャージャー装着車両の場合、低速域ではトルクが薄く、回転数を上げていくと盛り盛りとトルキーな加速をしがちである。

「低速域ではまるでブレーキをかけているかの走りっぷりで、ひとたびアクセルペダルを踏むと全トルクを一気に発生させて加速するように感じさせてくれます。端的に言えば凶暴で、おバカで、楽しいのです。リニアな加速感…、そうした上品さとは無縁です」
 
デジタルとは…、つまりはオンとオフしかない雰囲気なのだろう。ホッケンハイムでは冷却ファンに軽いトラブルが発生し、同乗走行は残念ながら叶わなかった。しかし、934の仕上がりに誰しもが満足できた一日となった。


 
テクノ・クラシカ・エッセン開催の直前、ニュルブルクリンクのGPコースにて、私に同乗走行の機会が与えられることになった。934を載せたクレマーの積載車が到着すると、サーキットにいるドライバーたちがざわつき始めた。モナコブルーをまとったこのポルシェが、単にボディキットを装着したものではないことに誰しもが気づいたのだろう。センターロック式のBBSホイール、ホイールアーチの張り出し具合、グループ5仕様のリアウィングなどが只者ならぬ雰囲気を放っていたからだ。エンジンを始動させると、アイドリングが安定するまでしばらく時間がかかる。まるで動物が唸りながら威嚇しているようで、現代のクルマではないことが明らかだ。
 
パドック周辺にいた人々は、爆音を轟かせながらピットレーンからコースへ向かう934の姿を目で追っていた。約2分後、ストレートの入り口に再び934の姿が現れた。フロントが若干、浮き上がったことでファルディーニがアクセルペダルを踏み込んだことが分かる。現代のスポーツカーがサーキット走行しているなか、70年台のアイコンが駆け抜ける姿はノスタルジックであり新鮮でもあった。


 
数ラップこなしたファルディーニがピットレーンに戻ってきた。いよいよ筆者の同乗走行の機会がやってきた。助手席に腰を下ろすと、想像以上に大きなエンジン音に驚かされた。ファルディーニの声はほとんど聞き取れなかったが「準備はOK?」と聞かれたようだったので、頷いてみた。走りだした途端に気付かされたのは、強烈な加速力とグリップ力だった。ホッケンハイムで聞いた、ファルディーニの印象のままだ。1981年に乗ったときはNAのRSR用エンジンで、ウェットコンディションのなかスリックタイヤを履いていたという違いを考慮しても物凄い違いだ。"凶暴"と評していた加速力は、決してオーバーな表現ではなかった。そしてオン・オフの加速を"デジタル"と表現していたファルディーニに心底、納得した。加速、減速を繰り返すうちにネックブレースを持参しなかったことが悔やまれてならなかった。


いよいよノルドルフシュライフを走る!次回へ続く