6月27日~29日にかけて中国・上海で開催された半導体製造装置・材料の展示会「SEMICON China 2020」において、2日間にわたって「パワーおよび化合物半導体国際会議」が併催された。

同会議では、オプトエレクトロニクス、通信における化合物半導体、新興のパワーデバイス・プロセステクノロジーなどのトピックが取り上げられ、中国製造2025のもと、中国におけるインフラ整備に必須であるパワー半導体の強化策として、SiCやGaNを扱う新興半導体企業が中国内に次々と誕生していること、今後の発展には製造装置、材料、高度なプロセスなどに対する強力なサポートが必要であることなどが浮き彫りにされた。

今回はそうした次世代パワー半導体の1つ、SiCに対する同会議におけるトピックスをお届けしたい。

  • パワーおよび化合物半導体国際フォーラム

    SEMICON China 2020で開催された「パワーおよび化合物半導体国際会議」の会場風景 (提供:SEMI China)

化合物半導体が自動車や家電や通信へ浸透

ドイツAIXTRONの中国シニアマネージャーであるFang Ziwen氏は、「ワイドバンドギャップ半導体材料の大規模生産のためのソリューション」と題した講演を行い、化合物半導体は世界的需要に牽引されて将来に向かって急成長していると語った。

パワーエレクトロニクスは現在、シリコンからSiCやGaNへの大きな移行期にあるといえる。同氏は、SiCは自動車を中心に採用が拡大しており、GaNもコンシューマエレクトロニクスを中心に浸透し始めていると指摘し、「パワーエレクトロニクスの分野で持続可能な主流のソリューションになるために、デバイスレベルでのパフォーマンス、信頼性、およびコストの要件を満たさなければならない」と述べた。

中国の成都海偉華新技術有限公司の副総経理(副社長)である李春江氏は、「化合物半導体のミリ波通信アプリケーション」をテーマに、中波帯での5G通信の実用化に伴い、モバイル通信に広帯域化が可能なミリ波通信の早急な登場を提案した。

これまで低軌道の衛星通信は目覚ましい進歩を遂げてきたが、ミリ波通信デバイスの最近の市場には、マイクロ波通信と衛星通信が含まれている。長期的には、ミリ波通信デバイスは、マイクロ波通信、衛星通信、および5G通信市場でも使用されるようになり、そこで化合物半導体が真価を発揮するとの見方を示した。

EVの普及が車載向けSiCの市場拡大を後押し

中国北京のSiC基板サプライヤであるTanke Blue Semiconfuctorの副社長兼テクニカルディレクターの劉春順(Liu Chunjun)氏は、「ワイドバンドギャップ半導体SiC基板の研究と産業の進歩」と題して講演し、「SiC基板材料メーカーの観点からSiC産業と基板の開発動向を分析したところ、SiCの主な応用分野は、パワーデバイスや高周波デバイスなどであり、近年の電気自動車(EV)の普及により、急速な成長期を迎えている。こうした背景からSiC産業への世界的な投資熱は高く、中国の産業チェーンも基本的に成熟に近づいている。しかし、SiC基板材料の主な生産量は依然として米国に依存しており、生産量の80%を超えている。中国にはまだまだ参入の余地がある。業界は依然として需要と供給の不均衡の状態にあり、6インチ製品を提供できる企業は少ない」と述べた。

また、技術の進歩に伴い、SiC基板の価格は徐々に低下している一方で品質は向上してきている。性能の向上にともなって、市場シェアを巡る競争力は激しくなっていくとの見方も示した。

中Tyco Tianrun Semiconductor Technology(Beijing)のゼネラルマネージャーであるChen Tong氏は、「SiCアプリケーションソリューションはどれほど安くできるのか」について講演した。

同氏によると、パワーデバイスとして比較すると、シリコンIGBTおよびシリコンMOSFETに比べてSiC MOSFETの技術的性能の利点は、放熱部品の削減、容量性インダクタンスの削減、高い動作温度、製品重量の削減、変換効率、信頼性と安定性のアプリケーションだという。

また、同氏は、パワーエレクトロニクスの分野における最大の破壊的な変化として、シリコンIGBTをSiC MOSFETに置き換えることであるとの考えを示し、SiCパワー半導体の価格が高いのは材料、プロセス、アプリケーション技術のしきいたが高いためであり、かつサプライチェーンも長すぎるため上流と下流のフィードバックループに時間がかかり、手間もかかっていると指摘。これを解決するためには業界の上流と下流が協力していくことが必要であるとした。

STMicroelectronicsの化合物半導体実装担当のFilippo Di Giovanni(フィリッポ・ディ・ジョバンニ)氏は、「最新のパッケージング開発がSiCパワーデバイスの性能を高める」と題した講演を行った。

同氏は「DC-DCコンバーターや車載充電器などの自動車向けだけではなく、太陽光発電やUPS、エネルギー貯蔵、PSU(Power Supply Unit)などの産業セクターでも、この新規材料を導入できるようになった。SiCテクノロジーの加速は市場の予想よりはるかに速く、カギを握るEVアプリケーション(OBC、DC-DC、インバーター)を最適化するために新しいパッケージとモジュールが市場に投入されている」と述べた。

中Zhongdian Guoji Southの上級エンジニアであるBai Song氏は、「SiCパワーMOSFETの技術的問題と研究の進展」について講演し、SiC MOSFET製品の技術が第3世代に発展し、新しいゲート酸化膜、トレンチ構造などを採用することで性能向上を果たしたことを説明した。

国際的なSiCパワーデバイス技術は、急速な成長期にあり、車載用途を中心に用途が拡大している。同社はSiC MOSFET技術が確立され、供給能力の向上を目指して1200V製品の販促を進めているとしており、次のステップでは、2025年までに高電圧SiC DMOSFET 6.5kV-15kVを実現する計画だと述べた。

ON Semiconductorのプロダクトマーケッティングマネージャーである王利民氏は、「ソーラーインバーターの電源やEVの充電用途へのSiC」について講演を行った。

「近年、5G通信、EV、太陽光エネルギーといった成長市場により、SiC製品の需要が増加。その背景にはSiC製品が、従来のシリコン半導体に比べて高い効率と電力密度というパフォーマンスの進歩がある」とし、市場におけるSiCの典型的なアプリケーショントレンドと、同社のSiC製品を紹介し、今後もSiCの需要は高い状況が続くだろうとした。

  • SiCトランジスタウェハとSiCダイオードウェハ

    SiCトランジスタウェハとSiCダイオードウェハ (編集部撮影)