映画「のぼる小寺さん」で主演を務める工藤遥さん

 元「モーニング娘。」のメンバーで女優の工藤遥さんが主演を務める映画「のぼる小寺(こてら)さん」(古厩智之=ふるまや・ともゆき=監督)が公開中だ。同作はボルダリングをテーマに、若者たちが自分の夢に向かって一歩踏み出す瞬間を描いた青春ストーリーで、工藤さんはボルダリングに夢中な女子高生・小寺さんを演じている。今作が映画初主演となる工藤さんはボルダリングも初挑戦というが、約4カ月の特訓を経て、劇中では見事なボルダリング姿を披露している。工藤さんにボルダリングの楽しさや苦労、初主演の感想を聞くとともに、女優としてのこれまでや今後についても聞いた。

 ◇特訓では「心が折れる音」も…    映画は、2014年からマンガ誌「good!アフタヌーン」(講談社)で連載された珈琲さんの同名マンガが原作。クライミング部に所属する、一見クールでミステリアスだが、心優しい小寺さんを主人公に、青春のきらめきや切ない恋心を描く。小寺さんの隣で練習する卓球部の近藤(伊藤健太郎さん)は、小寺さんから、なぜか目が離せない。小寺さんとしゃべれるとうれしくて、いつしか引かれていく。しかし、小寺さんを見つめているのは近藤だけではなく……というストーリーだ。

 映画初主演の大役を果たした工藤さん。話を聞いたときは「とにかくびっくりした」といい、「『えー、何事?』って思いました。プレッシャーよりも喜びが大きかったです。驚きが隠せなくて、何度もマネジャーさんに聞き返しました(笑い)」と当時の思いを振り返る。

 撮影期間を含め、約4カ月にわたってボルダリングのトレーニングを受けた。臨むにあたっては筋トレにも励み、手の指や腹筋を鍛えたという。「『ホールド(壁についた突起物)で1回、懸垂できるようになれ』と言われて。できるようになるまでは、しごかれていましたね(笑い)」と赤裸々に明かす工藤さん。斜めの壁についたホールドでの懸垂は簡単ではなかったが、それでも3カ月を費やし、クランクイン直前に達成。「ギリギリクリア、という感じでした。(課題は)クライマーとしての筋肉をつけるためだったんだな、と思います」としみじみと語る。

 とはいえ、難しさのあまりくじけそうになったこともあったという。「聞こえるんですよ、心が折れる音が。『パキッ』って。その音に気づいてしまったら、もう登れなくて……。やる気も出なくなるんです」。ただ、同じクライミング部の津田役を演じた田中偉登さんら、工藤さんの「負けず嫌いな精神」をかき立てる存在が周囲に多かったことがプラスになった。「あおられるんですよ。『おうおう登れねーのか』と。それでなにくそ、と思って、折れた心をなんとかテープでくっつけながら登って(笑い)。でも、同情されたり優しくされたらできなかったなと思うので、周りのみなさんとの関係性もすごくいい現場だったなと思います」と語る。

 そんなボルダリングのトレーニングや撮影は、振り返ってみると「楽しかった」という思いが残った。「撮影する大変さももちろんありましたけど、それ以上にボルダリングをしていた楽しさが大きかったので、小寺さんみたいにただただボルダリングしていただけ、という感覚が大きいです」と充実の時間だったようだ。そんな好きなことに没頭する姿勢は、演じた小寺さんとも重なる。「彼女はすごく強い信念をもってボルダリングをしている。そういうブレない芯の強さは尊敬する部分であり、分かる気がするな、と思う。彼女ほど強くはいられないですけど、共感できる部分です」とほほ笑む。

 ◇「モー娘。」時代の経験が生きている

 今作で、全身全霊で目の前に立ちはだかる“壁”を登る主人公を演じた。そんな工藤さん自身には、今、乗り越えるべき“壁”はあるのだろうか。そう聞くと、工藤さんは即答で「壁まみれだと思います」と苦笑する。

 「今回、映画を初主演で演じさせていただいて。作品を見て、反省するところや自分の力不足も感じます。ただ、あのときどきでは精いっぱいだったな、という気持ちもあって……。『これから女優としてどんなふうになっていくべきなんだろう』とか『こういうお芝居がしてみたい、こういう作品に出てみたい』とか、一個一個の小さな目標を登り続けないといけない。大きい壁を登っている、というよりも、何個もの壁を……作品に出てくるクライミングウォールの半分ぐらいのサイズの壁を、200個ぐらい越えないといけないんだなと、感じるときがあります」

 とはいえ、「モーニング娘。」を2017年12月に卒業して以来、特撮ドラマ「快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー」では早見初美花/ルパンイエロー役を務め、舞台「魔法使いの嫁」でも主人公を演じるなど、順調にキャリアを積み重ねているように見える。「最近は、自分が思っているより、もしかしたら順調に見えるのかもしれない、と思っています」と工藤さん。

 女優業には、これまでに培った経験が生きているといい、「『モーニング娘。』として6年半ぐらい活動して培ったものって、根性だったり精神的な部分だったり、すごくたくさんある。戦隊モノも1年間経験して、お芝居の世界の面白さや大変さを感じ、技術的な部分などが生きていて。いろんな経験があったからこそ、今につながっているんだなと思いました」と力を込める。    ◇ステイホームで改めて実感した「お芝居への思い」

 今後も女優としての活躍が期待される工藤さん。ステイホーム期間中には、自身と向き合う時間が持てたことで、改めて実感した思いもあった。「今をどう過ごすかでこの先変わるな、と思っていました。自分自身と淡々と向き合う時間が増えて、『自分ってこうなんだな』とか『お芝居したいな』と思う瞬間があって……。やっぱりお芝居が好きなんだな、と感じました」としみじみ語り、「自分は何が好きで、何が面白くて、何が響くのかということを見直せる時間だったと思います」と振り返る。    そんな工藤さんのこれからの目標は、伊藤さんら今作の共演者たちに成長を感じてもらうことだという。「次にお会いしたときに、こいつ変わったな、人としても女優としても“壁”を越えてきたな、と思ってもらいたい。今回、良くも悪くも無力さも感じたので、次にお会いしたときにそう思ってもらうことが目標かなと思います」と柔らかな笑顔を浮かべながら、力強く語ってくれた。