加熱する音楽著作権訴訟、ストリーミング各社とソングライターたちの全面戦争

全米著作権使用料委員会(CRB)公認の法定レートの引き下げにともない、音楽出版社はここ2年〜2年半にわたってデジタルサービスから得た収益を払い戻さないといけないかもしれないという状況に置かれている。「我々が勝つか負けるかはさておき、Spotifyの行いは極めて侮辱的で、決して忘れられることはないと断言します」と全米音楽出版社協会(NMPA)のデイビット・イズラライト会長兼CEOは語る。賃上げを求めて闘争中の作詞作曲家たちを待ち受ける、2021年のはるかに壮絶な戦いとは?

プロのソングライター(作詞作曲家)はいま、アメリカで得られる収入をめぐってSpotifyやAmazonのような企業との訴訟合戦の渦中にいる。2021年には、全面戦争へと発展しかねない状況だ。

このような戦いが繰り広げられている背景には、ソングライターのメカニカルロイヤルティ(訳注:販売に対して支払われる著作権使用料)の引き上げを不服として音楽ストリーミングサービス各社が控訴したという経緯がある。いままで音楽ストリーミングサービス会社は、音楽ストリーミングによって得られた米国内の年間収益の10.5%を法定レートとしてソングライターや音楽出版社に支払ってきた。この”全部込み”のレートは、メカニカルロイヤルティとパフォーマンスロイヤルティ(訳注:ラジオなどでの再生に対して支払われる著作権使用料)の両方を対象とする。2018年11月、米政府肝いりの全米著作権使用料委員会(CRB)は、2018年から5年にかけてこの”全部込み”のレートが毎年約1%ずつ上がり、2020年には約15.1%に達すると発言していた。

(さらに紛らわしいことに、CRBは次のようなルールまで設けている。音楽ストリーミングサービス会社は、ソングライターのレコードと出版物に対して法定レート分を支払う、あるいは最終的な金額が法定レートを超えた場合は、最大26.2%までを「トータルコンテンツ費」として支払わなければならない。)

著作権保護を活動の中心とする全米音楽出版社協会(NMPA)のデイビット・イズラライト会長兼CEOは、SpotifyやAmazonなどの音楽ストリーミングサービス会社の訴えに対し、音楽出版社やソングライターのために全面的に戦う姿勢をとってきた。3月に首都ワシントンの控訴裁判所で行われた関係者全員による口頭弁論に続き、通常であれば今年の夏には最終的な判断が下されるはずだった。だが、新型コロナウイルスの感染爆発によって「すべてがスローダウンしてしまった」とイズラライト会長は述べた。




【表タイトル】2018〜2022年の”全部込み”著作権使用料
【左の項目:上】収益の比率
【左の項目:下】トータルコンテンツ費
出典元:全米著作権使用料委員会(CRB)

いまソングライターにとって考えられる最悪のケースは、控訴裁判所がSpotifyやAmazon(イズラライト会長は、この2社が控訴の主犯とにらんでいる)の肩を持つことだろう。CRB公認の法定レート(2018年から適応)が引き下げられることはソングライターの今後の収入が減るだけでなく、音楽出版社はこの2年〜2年半にわたってデジタルサービスから得た収益を事実上払い戻すはめになるかもしれないのだ。

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それだけでなく、まもなくしてイズラライト会長とNMPAはさらに重大な課題に取り組まなければならない。現在議論の的となっているロイヤルティ率は、3度目のCRBヒアリングの結果である。4度目となるヒアリングは——音楽出版社はこれをいかにもロッキーふうに”CRB IV”と呼ぶ——2021年1月5月に行われる予定だ。イズラライト会長は、”CRB IV”を「我々が経験したなかでももっとも重要なCRB裁判」と表現した。会長は、音楽ストリーミングサービスとの戦いが熾烈になると踏んでいる。今後長きにわたってソングライターに支払われる金額という重大な結果が待ち受けているのだから。

”CRB IV”がソングライターにとってここまで重大である理由は、音楽現代化法(MMA)の可決にある。MMAとは、2018年10月に制定された米司法史に名を残す法律である。MMAが定めたところによると、CRBはソングライターの音楽ストリーミングのロイヤルティ(2023〜2027年分)を次回算定するうえで「willing seller, willing buyer(満足な売り手、満足な買い手)」という法定レートを使用しなければならない。要するに、CRBの3人の審査員は、自らがレートを主導するのではなく、CRBが存在しなかった場合——音楽出版社とソングライターが自らレートを設定しなければならない場合——、どのようなレートになるかを反映させなければならないのだ。


音楽出版社側のプランは、故意的に途方もなく高いレートを狙うことだ。イズラライト会長曰く、すべてが同期化された現在のアメリカのライセンス費は、音楽出版社(ならびにソングライター)とレコードレーベル(ならびにアーティスト)によって大まかに折半されている。だが音楽ストリーミングとなると、この数式は大きく変わってくるのだ。音楽出版社とソングライターに支払われる金額がSpotifyの収益(市場シェアで割る)の10〜15%という法定レートであるのに対し、大手レコードレーベルの取り分(市場シェアで割る)は52%と言われている。

大まかに言うなら、大手レーベルと所属アーティストの懐には現在、アメリカの音楽出版社がSpotifyのような音楽ストリーミングサービス会社から支払われる4〜5倍の金額が入っているのだ。だがそもそも、Spotifyの収益の50%以上を音楽出版社が手に入れるというアイデアは、この数年に実現可能なのだろうか?

イズラライト会長は、レコードレーベルにSpotifyの収益の52%がすでに入っているなか、音楽出版社にも50%以上が入るようでは計算が合わない点も十分承知している。それでも、音楽出版関係者やソングライターが音楽業界の反対側にいるレーベルやアーティストといった同業者たちと最低でも同額を主張する権利はあると語る。

「我々が50/50であるべきだと言っても、それが一夜に実現するなんてことはあり得ません」と会長は続けた。「レコードレーベルをはじめ、誰かが許容できる変化としては大きすぎますから。でも、少なくとも釣り合いを取っていくうえでの原動力にはなります。レコードレーベルに52%が入るなら、(音楽出版社およびソングライターの)15%から折半にまで引き上げる余地はあります。最終的にどのような結果になるかはわかりませんが、15%ではなく52%に近い数値になればいいと期待しています」。

会長は次のように言葉を加えた。「我々は何も、レコードレーベルの取り分を減らせと言っているのではありません。そこは我々の関心事ではありません。我々の関心事は、楽曲のしかるべきビジネス対価を得ることです。楽曲はレコードと同じくらい重要だと自由市場で言われるように、それを証明する例がいくつもありますから」。

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レコードレーベルの社長たちは、音楽出版社が音楽ストリーミングによる収益というパイの特大スライスを求めている状況を快く思わないかもしれない。なぜなら、音楽出版社に入る金額が飛躍的にアップすれば、レコードレーベルに入る金額が減る可能性もあるからだ。世界3大音楽出版社が世界3大レコード会社と同じ親会社の傘下にある点を踏まえると、レコードレーベル側の予測はとくに興味深い。

誰がどれくらいの大きさのスライスのパイを手に入れるかという議論は、イズラライト会長に言わせれば、不平等というひとつの理由に起因している。レコードレーベルはアメリカの音楽ストリーミングサービス会社とロイヤルティ率について自由に交渉できる一方、音楽出版社はレートに支配されている。音楽ストリーミングサービスから音楽出版社とソングライターが得るメカニカルロイヤルティを決めるのはCRBだが、Spotifyなどから両者に支払われるパフォーマンスロイヤルティというもうひとつの著作権使用料は、”同意判決(訳注:当事者間の合意による判決で、独占禁止法などの違反についての是正の約束を取りつけたうえでなされる公訴の取下げ)”という別の制度に縛られている。その結果、音楽出版社はブロードキャストミュージック(BMI)と米国作曲家作詞家出版者協会(ASCAP)という2つの実演権団体にSpotifyなどとのパフォーマンスロイヤルティの権利交渉を頼らざるを得ず、デジタル権利を部分的に除外して自ら交渉の場に立てない状況に置かれているのだ。

今後12カ月にわたってアメリカのソングライターが置かれる状況をさらにドラマチックにするかのように、この”同意判決”はいま、米司法省の調査対象となっている。予測される結果としては現状維持、良くてもマイナー変更と言ったところだろう。それでも、司法省がいっそ”同意判決”を取り下げるという可能性もわずかにある。実現すれば、イズラライト会長と音楽出版社関係者は大喜びするだろう。

イズラライト会長は次のように語る。「現代のストリーミングの仕組みについて我々がもっとも不服に感じているのは、レコードレーベルの著作権が完全なる自由市場で交渉されていることです。規制もなければ、政府による価格コントロールもありません。レコードをSpotifyに使ってほしくない場合、レコードレーベルはNOと言えますが、音楽出版社は言えません」。会長はさらに続ける。「(音楽ストリーミングサービス)は我々が好むか好まざるかは別として、BMIやASCAPを通じてパフォーマンスライセンスがもらえます。それだけでなく、これも我々が好むか好まざるかは別として、CRBを通じてメカニカルライセンスまでもらえるんです。我々は、こうした状況に甘んじなければならないのです」。

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現時点でイズラライト会長とNMPAは、”CRB III”が定めたロイヤルティ引き上げに対するSpotify、Amazon、Google、Pandora(Appleは含まれていない点に注目)の控訴という差し迫った課題に集中するよう、ソングライターに呼びかけている。その一方、今回の騒動の結果が何であれ、来年”CRB VI”がはじまるまでその記憶は音楽出版社とソングライターの記憶にずっと刻まれると語った。

「(Spotify側が)目立った行動さえとらなければ我々の熱りもやがては覚め、なんとなく忘れ去られるだろうとSpotifyのある幹部が言うのを直接耳にしました」とイズラライト会長は言った。「我々が勝つか負けるかはさておき、Spotifyの行いは極め
て侮辱的で、決して忘れられることはないと断言します」。

「ソングライターにとって重要なのは、誰が味方かを見極めることです。SpotifyとAmazonが音楽業界フレンドリーであることを謳うような振る舞いはすべて、ソングライターの収入を1/3削減しようという試みに優先度を奪われてしまったのです」。

言葉を入念に選んだうえで、Spotifyは昨年CRBが定めたレート引き上げに控訴した理由を解説しながら次のように警告した。「より大きな取り分をほしがるのは当然だ。だからといって、音楽業界の成長のために音楽ストリーミングが犠牲になってはいけない」。

これはつまり、回るカネにも限度があり、Spotify自身の取り分が大きくなればすでに赤字の業界が崩壊するおそれがあるという意味である。単純計算だが、レコードレーベルが収益の52%を持っていき、音楽出版社に15%が渡るなら、アメリカでのSpotifyの取り分は33%となる。数十億ドル規模のテクノロジー会社を運営するには不十分だというSpotify側の言い訳は、イズラライト会長にとって受け入れ難いものである。

会長は次のようにも語った。「音楽出版にSpotifyが支払える以上の価値があると判断するなら、Spotifyはビジネスオペレーション全体を見直すべきです。レコードレーベルと音楽出版社がそれぞれ要求する金額を支払えない、そんなビジネスには価値がないというなら、いっそビジネスから手を引けばいいのです。ほかの誰かが解決してくれますから。市場とはそういうものです」。

会長はさらに続ける。「Spotifyから全レコードレーベルがエクイティを受け取ったときのことを覚えていますか? Spotifyが株式を公開したとき、Spotifyの上級幹部とレコードレーベルはバリューを手に入れました。彼らは、何十億ドルという大きな釜を分かち合ったんです。それに対し、ソングライターと音楽出版社には何も入らなかった。収入の15%を楽曲そのものに対して支払うことにブツブツ文句を言うSpotifyにあまり同情的ではないのをどうか許してください。でも、その楽曲こそが彼らのビジネスを支えているのです。Spotifyは、我々の商品を消費者に提供しています。それなのに我々の取り分が15%であるのに対し、彼らは30%近くを手に入れています。おそらくSpotifyは、自分たちの役割がソングライターの2倍重要だと考えているのでしょう。そんなのどうかしています」。

著者のティム・イングハムは、2015年以来グローバルなニュース、分析、雇用情報を提供してきたMusic Business Worldwideの創業者および発行者。同氏は米ローリングストーン誌のために毎週コラムを執筆している。

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