FISHMANSが挑んだAR拡張現実化ライブ ディープな夜に示した「INVISIBILITY」

FISHMANSの完全無観客ライブ「FISHMANS AR LIVE INVISIBILITY」が、2020年6月14日に生配信された。

このライブは、ライブストリーミングスタジオ「DOMMUNE」とau 5G (KDDI)が、渋谷パルコ内にオープンさせた最先端テクノロジーを活用した5G時代の配信型スタジオ「SUPER DOMMUNE tuned by au5G」から生配信されたもの。渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト(au 5G)のAR技術を導入してFISHMANSのライブを拡張現実と融合させて届けようというものだ。

ライブのテーマは「INVISIBILITY」=「みえないもの」。時代を越えて今なお進化を続けるFISHMANSにとって、1999年に惜しくもこの世を去ったヴォーカリスト・佐藤伸治の存在は、肉体は見えないものの精神的支柱として常にその音楽と共にある。「この世のものすべてには実体がなく、同時に、その実体のないものが縁によって、目に見える存在になっている」(※DOMMUNEのイベント詳細より引用)ということで、メンバーは円になり、全員が中央を向いての演奏を敢行。スタジオでFISHMANSが生み出すグルーヴがオンライン上で視聴者との大きなサークルとなり人々のエネルギーになっていく……。そんな、最新の技術の導入と明確なテーマの元に行われたライブは、コロナ禍の中で続々と開催されている無観客ライブ配信とは一線を画すものだ。

今回試みられたAR演出システムは、1番背面にバーチャルセットのレイヤー、真ん中に演者がいるステージの物理的なレイヤー、その手前にもう1レイヤーを重ねることで、より世界観を拡張することが特徴的なもの。カメラマンが近くにいなくても遠隔操作可能な4K60p撮影対応のPTZカメラを使うことで、ネットワーク越しにカメラのズーム、パン、チルなどリアルタイムにレンズデータを取得し、ARレイヤーをカメラが撮影する映像に描画するという画期的な演出方法だ。渋谷のランドマークであるPARCOという現実世界に、バーチャルな空間をインストールしてエンターテイメントの演出に活かすかを研究した結果生み出された、ポストコロナ禍におけるライブのあり方を提示するような挑戦的な取り組みとなった。



茂木欣一(Vo.Dr)、柏原譲(Ba)、HAKASE-SUN(Key)、木暮晋也(Gt)、原田郁子(Vo)、dARTs(Gt)、そしてエンジニアを務めるZAKが円になり、ライブは22時に「チャンス」からスタート。万華鏡のような映像の前でドラムを叩く茂木。映像の中のメンバーたちの頭上にはAR演出システムによって丸い球がフワフワと行き交っている。長い間奏でたっぷりと空間と音の魅力を提示した「チャンス」から、「いなごが飛んでいる」へ。軽快に疾走するこの曲は、「このメンバーで初めてやった」(茂木)というレア選曲。dARTsが強烈なギターソロを披露して、一方のギタリスト木暮が「留守番電話―ー!」と大声でシャウトするとどこからか思わず笑い声が聞こえてきた。デビュー曲「ひこうき」、「なんてったの」と、1stアルバム『Chappie, Dont Cry』からのリラックスしたナンバーが続く。茂木のメインボーカルに原田のハーモニーが小気味良く重なった「ひこうき」では、画面上に巨大なトマトが赤く光ったり緑色に光ったりしながら浮かんでいた。「なんてったの」の終わりには、円になって演奏しているバンドの真ん中に、ARによる「柱」が浮かび上がった。耳に残る印象的なシンセのフレーズをリフレインする「Just Thing」では、淡々としたリズムでバンドが徐々に熱くなり1つになっていく。続く「頼りない天使」は中央に天使の像が姿を現す中、原田がメインボーカルを取り、感動的な歌唱を聴かせて、前半のハイライトとなった。

「25年振りぐらい、久しぶりにやる曲」との茂木のMCからも歌い出したのは、「MY LIFE」。どこか初々しいような少年のような歌声で、微笑ましさすら感じる、長年のファンにとって最高のプレゼントだった。続いてライブ感満点のアッパーチューン「MELODY」へ。中盤からサビを原田が担当して、茂木がサビメロを追いかける。間奏でスタジオ録音ではギターカッティングで聴かせる箇所をシンセで聴かせて、ステージに合わせたより幻想的なアレンジとなっていた。ピアノのリフにギターがユニゾンしてラストへとバンドが高まって行く流れの高揚感はたまらないものがあった。

ここで、換気タイムと称してしばし休憩が取られて、ライブは23時から再スタート。ZAKが、「配信なんでローが聴こえないと思います。ヘッドフォンやスピーカーから出して聴いてみてください」と推奨すると、茂木も「そうね。ローを感じてください」とコメントして、原田のボーカルによるバラード「救われる気持ち」でしっとりと後半がスタート。タイのコムローイが多数舞い上がるノスタルジックな演出は、続く木暮のギター1本で茂木が歌った「IN THE FLIGHT」の蛍が飛び交うような光景へと叙情性たっぷりにバトンを渡した。



ライブ後半、「土曜日の夜」で幻想的なムードを創り上げ、バンドは「I DUB FISH」でますますディープなダブで深い夜へと手招きする。HAKASE-SUNのピアニカに合わせて茂木のドラムが縦横無尽に暴れ出す。気が付けば、実際の時刻も23:30をすぎ、予定を遥かに越えてナイトクルージングに誘われる。終盤に差し掛かり、「もう少し初期の曲を」との紹介から「いかれたBaby」が歌われた。儚いメロディを切々と歌い上げる茂木のメインボーカルと、中央まで出てハーモニーをつける原田の歌声。頭上には惑星が太陽を囲んで回っている。続けて繊細なギターの単音フレーズが聴こえてきた。演奏されたのは「ナイトクルージング」だ。茂木と原田の声が重なると、曲の後半、画面の中には次々とAR演出による花火が打ち上げられ、現実世界の夜空を埋め尽くしていった。感動的な光景がバンドを包み込む中、ライブはラストナンバー「夜の想い」でエンディングを迎えた。茂木が「ずっと待ってるぜ」と繰り返し歌い、メンバーがコーラスする。その声が、佐藤伸治へと捧げられたものであることは配信終了後のタイトルに「Dedicate to SHINJI SATO」と加えられていたことからも明らかだった。

茂木がライブ中のMCで、この日のセットリストには「無邪気」というテーマがあったと話していたように、初期から佐藤伸治と創り上げてきたFISHMANSの歴史を順に辿っていくピュアなセットリストが、AR技術を駆使した映像の中でより一層人間味を持って伝わってきた。会場で同じ空間を共有していなくても、音楽で心を1つにする喜びと興奮は感じることができる。そして、そこに姿はなくとも、音楽を通していつでも誰かの存在を感じることができる。FISHMANSのライブが拡張現実と融合し、配信ライブという枠を超越した、感動を与えてくれた素晴らしいライブだった。


<ライブ情報>

FISHMANS
SUPER DOMMUNE tuned by au5G AR LIVE「INVISIBILITY」

開催日:2020年6月14日(日)

=セットリスト=
1. チャンス
2. いなごが飛んでいる
3. ひこうき
4. なんてったの
5. Thank You
6. Just Thing
7. 頼りない天使
8. MY LIFE
9. MELODY
10. 救われる気持ち
11.IN THE FLIGHT
12. FUTURE
13. 忘れちゃうひととき
14. 土曜日の夜
15. I DUB FISH
16. いかれた Baby
17. ナイトクルージング
18. 夜の想い