中国半導体業界で人事上の異変が起きている。Samsung ElectronicsのLCD事業部長(同社ではPresidentとよばれる地位)やSamsung Chinaの社長を務めたChang Won-kie氏が中国の新興半導体企業Beijing ESWIN Technology Group(ESWIN)のVice Chairman(副会長)に就任し韓国半導体業界に衝撃を与えている。その一方で、Armが中国子会社のCEOを解任したと海外メディアが報じているが、同CEOは解任無効を訴えて居座り英国本社と対決しており内紛に発展しているといった報道も出ており、事態が混乱している。

元Samsungの経営幹部が競合企業の副会長に就任

Chang氏は、1981年にSamsung Electronics半導体事業部に入社。2009年1月から2011年6月まで同社LCD事業部長(プレジデント)を務めた後、2011年から2017年までSamsung China社長とSamsung本社の中国戦略協力室長などを務めてきた。

ESWINは2016年に設立された新興企業で、ディスプレイドライバICやコンピュータ周辺チップなどの半導体デバイスの設計に加え、300mmシリコンウェハの結晶成長・製造や半導体の実装・テスト事業などの新規事業にも乗り出して急成長している。中国最大のディスプレイメーカーであるBOEの創業者である王東升(Wang Dongsheng)氏が、2019年にBOEの会長を辞任後、ESWINに総経理(社長)として入社、経営多角化に対応するため組織を再編を進め、2020年2月に現在の社名に変更をしているおり、Chang氏の名前はこの2月の再編の際に確認することができる。

ESWINは6月8日付で、中国地元ファンドから20億元の資金調達を行ったと発表している。この資金調達はLenovoの投資部門であるLegend CapitalとIDG Capitalがリードし、Riverhead Capital Investment Management、Lighthouse Capital、海寧市、浙江省などが参加しており、ESWINでは、こうして得た資金を元手にさらに広範囲の半導体デバイス開発を行っていくとしている。

  • ESWIN

    ESWINの中国西安工場 (出所:ESWIN Webサイト)

ESWINがSamsungのライバルになる可能性

ESWINは有機ELドライバIC分野に新規参入をしており、BOEなどに納入を始めているという。この分野はSamsungが過半のシェアを握っているが、有機EL分野でのキャッチアップを急ぐ中国FPDメーカーがこぞってESWINのドライバICを採用すれば、いずれはSamsungに脅威を与える可能性もでてくる。そのため、Chang氏のようなSamsungの経営トップだった人物が、こうした競合になりかねない中国半導体企業の経営陣に加わったことに対し、韓国半導体業界からは非難と動揺が広がっている模様だ。韓国半導体業界関係者の間では、同氏は、現業をしばらく離れていたこともあり、Samsungの最新技術についての情報は有していない、とする見方が有力であるが、同氏を通じて、Samsungの有力技術者がESWINに引き抜かれるのではないか、と心配する向きもあるという。

Arm本社が中国法人のCEOを解任するも現地はそれを認めず内紛に

半導体IPベンダ大手のArmは6月9日、中国法人Arm ChinaのAllen Wu最高経営責任者(CEO)を、従業員規則に反する不適切な行為が確認されたとして解任したと多数の海外メディアが伝えている。後任には、暫定的に2名のCEOが任命されたという。これに対し、Arm China側は10日付でSNS上にて、Wu氏の解任を否定する声明を発表。「すべての業務は通常通りで、中国の顧客企業にサービスを提供する」とアナウンスを出すなど、情報が錯綜する状態となっており、中国内のビジネスに関して内紛が生じているとの見方が取りざたされている。

Armはもともと中国に100%子会社を有していたが、2018年に51%を現地の政府系ファンドなど中国資本に売却したこともあり、現在、Armの持ち分比率は49%に留まっている。この変更は中国政府の意向と言われている。

現在、Arm Chinaにとってのダントツで最大の顧客は華為技術(Huawei)傘下の半導体メーカーHiSiliconである。欧米の先端技術の中国への流出の可能性に関して欧州のEU委員会や米国の対米外国投資委員会(CFIUS)がかねてより懸念を示しており、米中貿易戦争が激化する中においては、米国政府がArmに対してHuaweiとの取引を中止するよう要請あるいは禁止する可能性もあるのではないかと業界関係者は見ているが、今回の人事紛争との関連は不明である。