コロナ陰謀論はなぜ拡散されるのか? 認知科学の専門家が語る

陰謀論にまつわる人々の思考について著書『The Conspiracy Theory Handbook』を出したステファン・ルワンドウスキー氏は、英ブリストル大学で認知科学を研究している。

新型コロナウイルスのパンデミックに関連した陰謀論はあちこちで拡散されており、なかにはすっかり定着しているものもある。そこで今回は、ルワンドウスキー氏が陰謀論をどのように見分け、どう捉えているのか、また情報のるつぼの中から真実を見極めるにはどうすればいいか話を伺った。イ

ー真の陰謀と陰謀論の違いは何でしょう?

真の陰謀というものは確かに存在します。それはジャーナリストや内部告発者、企業や政府のゴミの山から発覚したり、あるいは政府機関によって明るみになるのが一般的です。例えばフォルクスワーゲン社の排気ガス騒動は、一部のエンジニアが報告書に異常な点を見つけたという、ありきたりな方法で発覚しました。ごく普通の人々が、データに基づいてごく普通に観察して、「ちょっと待って、ここがちょっとおかしいぞ」と言うところから明るみになりました。同じことはイラン・コントラ事件にも言えます。あの事件が発覚したのはレバノンの新聞がきっかけでした。真の陰謀はしばしばメディアを通して暴かれます。ウォーターゲートを暴いたのも、反対を押し切ったジャーナリストでした。

一方陰謀論は、生粋のジャーナリストでも政府職員でもなく、組織の内部告発者でも取り締まり調査委員会でもない人々が、インターネットで長々と主張するものです。彼らは情報源を明さず、真実を握っていると自ら主張し、名乗り出た人々です。原則的には真実である可能性もあります。ですが、こうした人々の思考や話し方、伝達方法を見てみると、彼らの認識は、私が従来の認識と呼ぶものとは違っていることがわかります。

ー従来の考え方と、陰謀論的な考え方はどこが違うのでしょう?

科学者である私は明らかに懐疑的です。世間の言うことにまず疑問を呈します。自分のデータと他人のデータに疑いの目を向けます。陰謀論者はこの「疑念」が極端なのです。彼らの疑念はとどまることを知らない。公式な説明に関するものはなんでも疑ってかかる、底なし沼の疑念です。さらにそうした疑念には、陰謀に関するものはなんでも鵜呑みにするという極度の騙されやすさがついて回ります。公式筋がいうことはなんでも疑い、インターネットで無作為に投稿されるツィートは丸ごと鵜呑みにするという、アンバランスな状態です。そうしたアンバランスさが、陰謀論的な思考と標準的な認識を隔てています。

陰謀論的な思考は、証拠に対して拒否作用を示します。コロナを陰謀だと語る研究者の動画『Plandemic』では、証拠がないことが理論を裏付ける証拠だと曲解されていました。隠蔽があまりにも完璧なので、痕跡が何ひとつ見つからないのだと言うのです。これは理性的な思考とは正反対です。ふつうは仮説を立てたら、証拠を考えます。もし証拠がひとつもなかったら、諦めるか、または裏付ける証拠はないと言うでしょう。

【動画】パンデミックは仕組まれたものだと主張する研究者を検証

また陰謀論者は、矛盾する複数の事柄を同時に信じる場合があります。例えば『Plandemic』でも、COID-19は武漢の実験室が発生源だと言いながら、我々はみなワクチンによって感染させられると、も主張しています。2つの説を同時に主張していますが、それではつじつまが合いません。

もっと言うなら、陰謀論者はこうした相反する考えを提示する際、自らを被害者と英雄の両方ととらえます。自分たちは真実をつきとめた英雄であり、同時に被害者でもあるとみなします。自分たちは悪の組織だとかディープステートだとか、そういうものから迫害されていると感じているのです。



陰謀論者が人気を集める理由

ー一部の陰謀論者がこれほど人気を集めている理由は何だと思いますか?

手も足も出ないと感じたり、誰も手の下しようがない大惨事に直面したりすると、陰謀論にすがることで安らぎを見出す人がいるのです。ですから今後アメリカで銃の乱射事件が起きれば、必ずそれに関する陰謀論が持ち上がることでしょう。

ですから、パンデミックに関する陰謀論が出てくるのも当然です。だからといって、害がなくなるわけではありません。ここイギリスでは、新型コロナの原因に5Gが絡んでいるという過激な思想のせいで、5Gの電波塔が燃やされています。これまでに70以上の電波塔が炎に包まれましたが、こうした陰謀論が原因です。

ー陰謀論的な思考は、これまで以上に高まっているのでしょうか?

歴史的な記録によれば、疫病がヨーロッパを襲った中世時代には陰謀論がそこら中に横行していました。当時の場合は反ユダヤ思想でした。こうした傾向はパンデミックとは切り離せません。人々が陥るのは、ある種の「差別化」をともなう陰謀です。過去のパンデミックでは、医者に責任があると考えられたため、医者狩りが行われました。現在のヨーロッパでは、パンデミックが中国から発生したことから、多くの反感がアジア人に向けられています。インターネットが陰謀論の拡散を助長し、30年前よりも簡単に広まるようになりましたが、昔より増えたかとは言い難いですね。

ー保守派と革新派、どちらのほうが陰謀論的思考に陥りやすいのでしょうか?

この点に関しては多くの研究がなされています。政治的な陰謀論は、右派であれ左派であれ、たいがいは過激な政治思考と関連する傾向にあります。ですが量的に見れば、左派よりも右派のほうが多いようですね。

ー身近にいる陰謀論者を説得するには、どんな風に話をすればいいでしょう?

それは極めて難しいですね。戦略として言うなら、まずは陰謀論者でない人々に向けて話をするのが最適です。大多数の人々は真実が暴かれることに感謝し、受け止めてくれます。もし選択の余地があるなら、そういった人々に的を絞ってコミュニケーションするべきでしょう。ハードコアな陰謀論者は、自分の意見を曲げようとはしません。こちらの意見を持ち出しても、創造性をフルに発揮してそれを曲解し、それを武器に攻撃してきます。私はTwitterではそうした意見を即座にブロックしています。理性ある会話をする技能を大事にしたいですし、その権利を他人に犯されたくもありませんから。



陰謀論者が正しかった、というケースはあるのか?

ー陰謀論の拡散を防ぐにはどうすればいいでしょう?

一般市民に、陰謀論に対する免疫をつけておくことです。一般市民に事前にこう呼びかけるのです。「いいですか、陰謀論というものを信じている人がいます。彼らはこういうことをでっちあげます。彼らのでっちあげには、これこれこういう誤った認識の特徴がみられます」。一貫性のなさ、証拠に対する拒否反応、極度の疑念、無作為に点と点をつないでパターンを読み取ろうとするなど……陰謀論の見分け方や陰謀論からの身の守り方を啓発することが最善の方法です。

ー実は陰謀論者が正しかった、というケースはありましたか?

世の中には陰謀論がごまんとありますから、私も全てをチェックしたわけではありません。ですが現実の陰謀を見てみると、フォルクスワーゲンやイラン・コントラ、ウォーターゲートなど――真の陰謀は従来の認識によって暴かれました。証拠がないのが何よりの証拠だと言ったり、矛盾する証拠をいいように解釈して自説を裏付けたりする人々によってではないのです。私が知る限り、何かを突き止めた陰謀論者がのちのち正しいことが判明した、という話は聞いたことがありませんね。