【「益子Web陶器市」成功の立役者に聞く】準備期間3週間で想定の4倍の売上獲得

栃木県益子町で春と秋に開催している「陶器市」は今春、新型コロナウイルスの影響で1966年の開始以来初めて中止となった。楽しみにしている顧客や、陶器作家、販売店のために、急遽オンラインでの開催を決断。企画から販売開始まで3週間しかなかったものの、4月29日から5月20日までの期間中に6000件弱の注文を獲得。想定の4倍となる4700万円以上の売り上げ、55万件のアクセス数があったという。「益子Web陶器市」を影で支えた益子町・地域おこし協力隊の水野大人氏と、ECサイトの構築支援を行うStoreHeroの黒瀬淳一CEOに、開催までの苦労や反響、成功のポイントについて聞いた。

50年超続く陶器市が初の中止
――ウェブ開催に至った経緯は。

水野:1966年から毎年開催していた陶器市が中止になるのは、史上初でした。春の陶器市だけで40万人ぐらいが参加します。このお客さまに何も手を打てない事態は避けたいと考えたのと同時に、益子焼など陶器作家さんの作品が世に出る機会がなくなってしまうのも防ぎたいと考え、ウェブ開催に至りました。陶器市は作品販売だけではなく、作家さんとお客さまがつながれる場でもあったのです。


1966年から毎年開催している「益子陶器市」

――開催までにはどんな苦労があったのですか。

水野:ウェブに明るい人が少なく、チーム作りに苦労しました。作品情報や作成や、写真を集める作業も大変でした。町役場や観光協会、商工会の方がバックアップしてくれました。作家さんや販売店さんなど益子で窯業を営んでいる方、町民の方たちなど、かなり多くの人に協力していただけました。

陶器の写真については、撮影できる場所を作り、必要なカットを決めて撮影を急ぎました。私がもともと、アクセサリーのECを手掛けた経験があったので、どういうカットがあれば購入を判断できるかが最低限は分かっていたので、撮影のルールを決めて、取り組むことができました。

サイトの構成を考えるにも時間が少なく、凝ったことはできません。リアルで開催した際の導線を意識して、作家の作品が集まるテント村をウェブで再現したりしました。


「益子Web陶器市」のサイト

――サイト構築に「Shopify(ショッピファイ)」を採用した理由は。

水野:リアルでも開始と同時にお客さまが一気に会場に来られます。瞬間的にトラフィック(流入数)がどのぐらい跳ね上がるか読めないこともあり、大きなトラフィックに耐えられるプラットフォームを選びました。

「Shopify」のパートナーでもあるStoreHeroの黒瀬さんと以前から知り合いだったこともあり、今回の開催に協力してもらいました。「Shopify」でのサイト構築に明るい方にサポートしていただけたことも後押しになりました。


益子町 産業建設部観光商工課 タウンプロモーション係 地域おこし協力隊 水野大人氏

黒瀬:サイトの構築や商品データの作成は、水野さんや益子の方たちが手掛け、私の方ではテクニカル面のサポートや、個別の相談に応じたり、一部コーディングを支援しました。コロナで大変な方々を支援している一環で、無償で支援させていただいたのですが、水野さんとならば、この短期間でもできるだろうと思い、参加させていただきました。

システムについては、トラフィックに耐えられ、短期間でサイト構築から販売開始まで持っていける仕組みとして、「Shopify」一択だったかなと思っています。



初日に注文2000件
――サイト開設後の反響は。

水野:想定の4倍以上の売り上げ、アクセス数などの反響がありました。当初は陶器をウェブで売るのは難しいという見解もあり、お客さまがサイトに来ていただけても、そこまで売れないのではないかと懸念していました。しかし、ふたを開けるとお客さまは来ていただけるし、ちゃんと購入もしていただけました。

期間中の売り上げは4700万円以上となり、アクセス数は55万件、注文件数は6000件弱となりました。初日に2000件以上の注文が入りましたので、思っていた以上にアクセスや注文が集中しました。

黒瀬:販売を開始して1、2時間でとんでもない注文が来て、こんなに売れるんだと思ったのが正直な感想です。

水野:事務局だけで情報発信しているだけでは、こんなに大きな反響は得られなかったと思います。作家さんが自らウェブ陶器市に出品していることなどを発信していただけたことで、お客さまにも届き、応援しようと来ていただくことができました。

黒瀬:お客さまにも「益子陶器市がウェブでやっているよ」とSNSなどで拡散していただけたことも大きかったと思います。商品カテゴリーでの分類だけでなく、リアルの陶器市を再現したテント村などの見せ方が、SNSを見ていても好評でした。リアルのファンの方たちがウェブ陶器市も楽しまれているのが分かりました。改めて益子陶器市のファンがたくさんいて、コミュニティーができているんだと感じました。


StoreHero 黒瀬淳一CEO

――注文が殺到したことでバックヤードは大変だったのではないですか。

水野:初日に2000件以上の注文が入ると誰も思っていなかったので、集配センターの設備や出荷のオペレーションにおいて詰めきれていない部分はありました。それでも益子町の販売店さんに協力いただき、助かりました。プロの方たちに梱包していただくことができ、現在(5月27日)までに5700件以上出荷していますが、陶器が割れているというクレームは5件以下に抑えられています。配送を委託しているヤマト運輸から見ても、驚異的な数字だと聞きました。優秀な方たちに協力を得られたおかげです。

――今回のウェブ陶器市は今後にどうつながると思いますか。
 
水野:コロナの状況がどうなるか読めないこともあり、今後に関しては何も決まっていません。ただ、町の方と話をしていると「秋もどうなるか見えないので、ウェブ開催も考えておかないといけないよね」と話しています。ウェブという選択肢を持てたことは、益子にとっても大きいと思います。

出品者さんもウェブ販売に手応えを感じていただけたようで、自分たちもネットショップを作ろうという機運が高まっています。売る選択肢や考える機会を提供できたことは、私にとってもとてもうれしく、一つの成果だと思っています。今後、さまざまな作品が集まるウェブ陶器市もあれば、作家それぞれの販売サイトもあったりすると、お客さまにとっても選択肢が増え、喜んでいただけると思います。

私としてはもともと、益子の観光戦略をお手伝いしていますので、ウェブ陶器市を観光にどうつなげていくのか、観光できた方とウェブでどうつながっていけるのか、といった仕掛けについて、これから考えていきたいと思っています。

今回は既存のお客さま以外にも、西の方のお客さまにも来ていただけました。リアルでの開催の場合、来るのも大変ですし、有田焼など著名な陶器市も同時期に開催しています。リアルではターゲットではなかった西のお客さまにもウェブ陶器市にたくさん来ていただくことができ、新しい世界が広がりました。


次のリアル開催はさらに可能性が広がる