中島みゆき、浜田省吾のライブ音源秘話

日本の音楽の礎となったアーティストに毎月1組ずつスポットを当て、本人や当時の関係者から深く掘り下げた話を引き出していく。2020年6月の特集は、ライブ盤。第1週目となる今回は中島みゆきのライブ音源、浜田省吾のライブアルバム『ON THE ROAD 2011 "The Last Weekend"』を語っていく。



こんばんは。FM COCOLO「J-POP LEGEND FORUM」案内人、田家秀樹です。今流れているのは浜田省吾さんの「恋は魔法さ」。1995年に7月に発売になったシングル。その年の1月に起きた阪神・淡路大震災の復興のためのチャリティーソングになった曲でした。2011年のツアー「ON THE ROAD 2011 "The Last Weekend"」からお聴き頂いております。

今月2020年6月の特集はライブ盤、ライブアルバムです。2月以降に行われる予定だったツアー、ライブがことごとく中止、あるいは延期になっています。音楽史上初めて、日本列島でライブが行われない年ですね。日本のコンサート文化は大丈夫なんだろうか? こんなに辛く胸が痛い経験は生まれて初めてであります。全国の緊急事態宣言も解除され、6月1日からは通常営業というところが多いでしょうね。早くライブが再開される日が来て欲しい。そんな心からの願いを込めて今月はライブ盤の特集です。レジェンドたちが残してきたライブアルバムから聴いていこうという1ヶ月。ライブ盤ですから、一曲だけでは雰囲気が伝わらないということで、アルバムの中から毎週何曲かをお送りしようと思います。

今週はPart1、前半は中島みゆきさんのライブ、後半は浜田省吾さんのライブアルバム『ON THE ROAD 2011 "The Last Weekend"』を聴いていこうと思っております。浜田さんは、私が最も数多くライブを観てきたアーティストであります。みゆきさんは、今年中止になり幻となったラストツアー「結果オーライ」に密着し、僕は取材中で本を書くことになっておりました。そのステージで歌われた曲をライブバージョンでお聴き頂きます。まずはこの曲です。中島みゆきさんで「流星」。



中止になってしまった中島みゆきのラストツアー「結果オーライ」

・中島みゆき / 流星

この「流星」のオリジナルは1994年のアルバム『LOVE OR NOTHING』に入っております。コンサートツアーがテーマの曲で、移動日の出来事を歌ってます。今回のツアーでは、コンサートツアーといえばこの曲だということで演奏されていました。この曲を挟んでお便りコーナーが2回あったんですね。下手と上手に分かれて。その日会場にいらしたお客さんからのお便りを紹介しながら、この曲を歌っておりました。中島みゆきさんの2016年のライブアルバム『一会』から「流星」でした。

・中島みゆき / 浅い眠り

2016年のライブアルバム『一会』からお聴きいただいております。オリジナルは1992年の『EAST ASIA』ですね。ドラマ『親愛なる者へ』の主題歌で、彼女も出演してました。「結果オーライ」のステージでその時のことも話しておりました。みゆきさんのラストツアー「結果オーライ」は、1月12日の新宿文化センターから6月5日の新宿文化センターまで、計24本を行われる予定だったんですね。本来であれば、今頃はあと最後の新宿文化センターを残すのみとなっていたはずですが、2月26日の大阪・フェスティバルホールまで8本は行われました。残りの日程は最初は延期だったんですね。28,29日の大阪公演は延期、8月になりますという日程まで出ていたんですが、4月22日にコンサートツアー自体が中止という、思っても見なかった結果に終わっております。大阪や東京、名古屋などの大都市では今まで通り「夜会」など通常とちょっと違うコンサートも含めてこれから行われると思うんですが、いわゆるワンナイトスタンド、昨日はここで移動日があって次の日は隣の県みたいな旅モノとして歌っていくのは、これが最後ということで始まったわけですね。地方のファンの方たちは、コンサート会場でお会いするのは最後かもしれない。そういう選曲だったんですよ。この「浅い眠り」は、前半4曲目だったんです。1曲目は「一期一会」で、2曲目は「アザミ嬢のララバイ」、3曲目は「悪女」。デビュー当時はコンサートツアーも組めなかった、「わかれうた」とか「悪女」でやっとツアーを組めるようになったという話をしながらその2曲を歌って、その後にドラマのエピソードを織り交ぜながら「浅い眠り」を歌うという流れだったんですね。そして、この曲のあとに歌われた曲をご紹介いたします。「糸」。



一つのコンサートで終わりと始まり、再生というテーマが見事に完結していた

・中島みゆき / 糸 〜歌旅〜

中島みゆきさんのライブアルバム『中島みゆき ライブリクエスト -歌旅・縁会・一会-』、2018年に出たアルバムからお聴きいただいております。オリジナルは1992年のアルバム『EAST ASIA』の中に入ってました。今ではカラオケやカバーアルバムで一番取り上げられている曲ですね。これが本物です。このツアーは本当によかったですね。客席の隅で聴かせて頂きながら、何度涙ぐみそうになったことでしょう。言葉に込める気持ちというのが、こんなにも歌を変えるんだと。カバーする女性の方たちは、どこか上手に歌おうとか思っているのかもしれませんが、そういうのを全部超越している歌、気持ち、言葉。それがみゆきさんのライブの「糸」ですね。本当に素晴らしかったです。

みゆきさんのライブアルバムはあまりなかったんです。1987年に発売になった両国国技館での「歌暦」と、ロサンゼルスのスタジオで行なった2007年のスタジオライブ『中島みゆきライヴ! Live at Sony Pictures Studios in L.A.』という2枚しかなかった。共にコンサートツアーじゃないんですね。ツアーの音をはじめて収録したのが2008年の『歌旅』でした。なんでツアーのアルバムがなかったのかというと、ツアーは一期一会であると。一つの会場でそのツアーを記録したり、物語ることはできない。会場の空気、お客さんの雰囲気、メンバーの体調や自分のコンディションも含めて毎回違うんだから、それをCDにはできませんと。2012~2013年のツアーで、ようやくどこの会場でも同じように納得できるライブができるようになったということで、2014年に「縁会」が発売されました。今回のラストツアーが実現していたら、きっとライブでのベスト盤になったんだろうなと思います。この曲も歌われておりました、「麦の歌」。

・中島みゆき / 麦の唄

中島みゆきさんのライブアルバム『一会』から「麦の歌」です。「糸」と「麦の歌」が同じステージで行われたんですよ。それだけじゃないです。「宙船」もありました。そしてこの「麦の歌」の後の本編最後の3曲がすごい曲順だったんです。吉田拓郎さんに書いた「永遠の嘘をついてくれ」、テレビドラマ『やすらぎの郷』の主題歌「慕情」、最後が「誕生」ですよ。そしてアンコールの最後が「はじめまして」。一つのコンサートで終わりと始まり、再生というテーマが見事に完結していた、こんなセットリストは2度とないと思われるツアーでありました。8本の公演を行ったんですね。あの8本だけでもどうにか形にならないだろうかと、客席にいた1人として切に願っております。



東日本大震災から1ヶ月で開催された「ON THE ROAD 2011 "The Last Weekend"」



浜田省吾さんの「On The Road」、2011年のツアー「ON THE ROAD 2011 "The Last Weekend"」からお聴きいただいております。力が入っていますね。こうして聴いてもビンビン伝わってきますね。このライブはオープニングが「J.BOY」のClubMIXで始まりまして、これが一曲目でした。

今年、折に触れ思い出すのがこのツアーなんです。ライブができないという中で、この時のことが色々と浮かんできます。2011年4月16日から2012年6月3日まで12都市、計37本のアリーナツアーでしたね。当初は年内に終わる予定だったんですけど、仙台の延期公演があって、そこにさいたまスーパーアリーナのチャリティー公演が加えられて、2012年まで行われました。初日、静岡のエコパアリーナ。東日本大震災からまだ1ヶ月ちょっとという時ですよ。3月から4月にかけてのツアーがほとんど中止あるいは延期になっていた中で、敢然とスタートした、というほどかっこよくなかった。余震と計画停電で本当に音楽ができるのか? 客席もこんな時にコンサート会場に来てもいいのだろうか? という緊張感が、やる側にも見る側もあって、お互いが身を固くして会場にいるという感じだったんです。震災から日本列島が徐々に立ち直っていくのが、同時進行で経験できるというそんなツアーでした。その雰囲気の一端をお楽しみいただこうと思っております。それでは、「反抗期」、「悲しみは雪のように」の2曲続けてお聴きください。





2011年のツアー「ON THE ROAD 2011 "The Last Weekend"」。このツアーは当初35周年のツアーだったんですね。それが震災に見舞われてしまって、違う意味をもってしまった。そういうアニバーサリーツアーでしたから内容が集大成。全会場3時間40分、長い時は4時間というツアーでした。前半に1980年代の曲が並んでいて、中盤から後半が浜田さんの曲の中でも自然災害とか戦争とか、社会的なテーマを扱った曲が続いていた。そして本編のフィナーレに向かっていくという流れだったんです。震災の後に原発の事故があって、日本の海は大丈夫なんだろうか? 放射能で汚れたりしていないだろうか? というニュースが連日報道される中で、「僕と彼女と週末に」というツアータイトルにもなっている「The Last Weekend」、これが約12分歌われました。お客さんもその曲を食い入るように聴いている。こういう時だからこそやるべきなんじゃないかっていうスタッフと浜田さんの意向で行われたツアーだったんです。音楽というのはこんな風に人の心を揺するんだという忘れられないツアーでした。アンコールはセンターステージ。それまでの緊張が一気に吹き飛んでいくという、開放的な、爆発的なツアーでしたね。その中の曲をお聴きいただきます。



こんなに立ち去り難いライブはなかった



言い忘れましたが、いつもよりボリュームを大きくしてお聴きください(笑)。2005年のアルバム『My First Love』の先行シングル『I am a Father』。ライブアルバム『ON THE ROAD 2011 "The Last Weekend"』からお聴きいただきました。このアルバムは3枚組で全曲収められておりますが、MCは入っていません。みゆきさんもライブアルバムはあまり出していなかったんですが、浜田さんも1982年の最初の武道館ライブ『ON THE ROAD』がありましたけど、それ以降ライブアルバムは出ていなかったんです。このツアーはちゃんと音として残りました。それだけ意味のあるツアーだったことでしょう。映像は繰り返し見て、どういう時にどんな曲でどんな動作をするかまで頭に焼き付いている方もたくさんおいででしょうが、こうやって音で聴くと、また映像が浮かんでくる。映像を見るよりも音が耳に入ってくる。映像を思い浮かべながら音楽を聴くという楽しみを味わっていただけたらと思ってこういう特集にしております。さっきの「悲しみは雪のように」では、私もヘッドフォンで聴きながら曲をお送りしているわけですが、このバージョンはいいなあと思ったりしながら聴いております。そして今日の最後の曲、本編最後の「家路」にしようか、アンコールの「日はまた昇る」にしようかなど色々悩みながらこの曲にしました。Wアンコールの曲「君が人生の時…」。最後に「ありがとう」という言葉が入っております。



1979年のアルバム『君が人生の時…』のタイトル曲です。今浜田さんはホームページで、ステイホーム企画で、このツアーの映像2曲が公開されておりました。「君がいるところが My Sweet Home」と「日はまた昇る」です。今日から「日はまた昇る」が2017年の未公開バージョンに切り替わるとのことでしたが、どうなっているでしょう。このツアーの全公演を僕は取材で見ていたんですけど、この曲が終わって客出しのBGM「桜」が流れて、お客さんが会場を後にしていくんですが、こんなに立ち去り難い空間があるのかと思いながら見ておりました。コンサート会場というのは単にライブが行われるのではありません。その音楽を聴いてきた人たちの人生が凝縮されております。2020年6月、この番組からの気持ちです。お聴きいただいたのは「君が人生の時…」でした。



今年は音楽がやれないという異常事態



「J-POP LEGEND FORUM」ライブ特集Part1。中島みゆきさんと浜田省吾さんのライブアルバムをお聴きいただきました。流れているのはこの番組の後テーマ、竹内まりやさんの「静かな伝説(レジェンド)」です。

冒頭で申し上げましたが、一週目をみゆきさんと浜田さんにした理由があります。今年一番身近だった、みゆきさんのツアーが中止になってしまいました。来年あるかどうか分からないですし、あるとしても今年と同じ形にはならないでしょう。2020年の後を受けたツアーになるでしょうから、今回の8本は何らかの形で残さないと本当に幻になってしまうなと思っております。そして浜田さんの2011年のツアー、これは余震と計画停電の中で、やっぱりやるべきだということで始まったわけですね。「やる」という選択肢があった。今年は音楽がやれないわけです。音楽がやれないということが如何に異常か、2011年よりも今の方が考えられない事態が進行しているわけですね。前代未聞の年が2020年です。コンサート文化がどうなるんだろうと申し上げましたが、一度閉めてしまったライブハウスを二度開けることが、どれほどのストレスや経費を含めて大変なことなのか改めて考えてみる必要があるんでしょうし、僕らにとって音楽がどれほど必要なものかということを考えながら夏を迎えたいと思っています。大袈裟に言ってしまうと、日本のコンサートがどんな風に再開するんだろうと思いながらの5週間を聴いていただけると幸いです。


<INFORMATION>

田家秀樹
1946年、千葉県船橋市生まれ。中央大法学部政治学科卒。1969年、タウン誌のはしりとなった「新宿プレイマップ」創刊編集者を皮切りに、「セイ!ヤング」などの放送作家、若者雑誌編集長を経て音楽評論家、ノンフィクション作家、放送作家、音楽番組パーソリナリテイとして活躍中。
https://takehideki.jimdo.com
https://takehideki.exblog.jp

「J-POP LEGEND FORUM」
月 21:00-22:00
音楽評論家・田家秀樹が日本の音楽の礎となったアーティストに毎月1組ずつスポットを当て、本人や当時の関係者から深く掘り下げた話を引き出す1時間。
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