国内の観光地を訪れた際、「日本人よりも外国人の方が多いのでは?」と感じたことはないだろうか。東日本大震災のあった2011年以降、外国人旅行者の数は年々増加し、2019年には過去最多となる3,188万人が来日。特に、ここ数年は障がいのある外国人観光客を目にすることも増えている。というのも実は、日本は海外から「バリアフリー大国」として評価されており、障がいのある人にとっても、観光しやすい国として知られているのだ。

「日本のバリアフリーはかなり進んでいるので、海外から来た人たちは感動することが多い」

そう語るのは、障がいのある訪日外国人のために、日本の観光情報を発信するウェブサイト『ACCESSIBLE JAPAN(アクセシブル ジャパン)』の運営者であるグリズデイル・バリージョシュアさん。そこで今回は、グリズデイルさんに、日本が本当に誇るべき場所として、どんな人でも利用しやすいアクセシブルな名所について伺った。

日本人は自分の国にもっと自信を持っていい

グリズデイル・バリージョシュアさん/1981年、カナダ・トロント生まれ。脳性麻痺により3歳から電動車いすを使用。高校時代の選択授業で日本に興味を持ち、19歳のときに初来日。2007年に日本へ移住し、2016年に日本国籍を取得。現在は、特別養護老人ホームや幼稚園などを運営するアゼリーグループの社員としてWEB関連の仕事を担当しながら、『ACCESSIBLE JAPAN』の運営や講演活動などを行っている。

――― 他の国と比べても日本のバリアフリー化は進んでいる、というのは本当ですか。

グリズデイル・バリージョシュアさん(以下、グリズデイル):よく、「海外のほうが進んでいるでしょ?」と言われるけど、まったくそんなことはない。カナダはずっと前から『トロントのすべての地下鉄の駅をバリアフリーにします』と言っているけど、いまだに半数くらいしかバリアフリーになってないし、公共交通機関で行けないところばかりなので、車を運転できない私は一人で自由に移動できないんですよ。

でも日本は、電車やバスがたくさんあるし、1日当たりの利用者が平均3000人以上の駅はバリアフリー化しなければならないという法律(バリアフリー法)があるので、障がいがある人も一人で移動できる。しかも、駅員さんや運転手さんが安全に乗り降りできるように助けてくれて、ハード面もソフト面もバリアフリーが進んでいると思います。

それから、日本のような多目的トイレは世界的に見てもめずらしいですね。多くの国は、男子トイレや女子トイレの一番奥の個室が若干広くなっている程度なので、家族でも性別が違うと一緒に入りづらくて大変なんですけど、日本の多目的トイレは独立しているので、他人の目を気にせずに使える。多目的トイレの中には、人工肛門や人工膀胱を造設している人(オストメイト)に対応したトイレや手すりなどもあって、設備的にも素晴らしいと思います。

とにかく、日本のバリアフリーはすごく細かいところまで配慮されているんです。私が「一人でも出かけられる」という自由と自信を感じられたのは日本のおかげ。障がいのある人の多くが日本のバリアフリーに感動しているので、皆さんはもっと自分の国のおもてなしに自信を持っていいと思います。

グリズデイルさんが運営する『ACCESSIBLE JAPAN』では、ホテルやツアーなどの観光案内だけでなく、電車や新幹線の乗り方、困ったときに使える日本語フレーズ、点字の読み方、薬の所持の仕方など、アクセビリティーに関する様々な情報を発信。現在は英語のみ対応

――― 『ACCESSIBLE JAPAN』を開設したきっかけは?

グリズデイル:私のように障がいのある人の多くは、初めての場所に行くとき、事前にインターネットなどを使って、車いすで入店できるか、トイレはどうなっているか、などを念入りにリサーチします。地元の店に行くときでもそんな感じなので、旅行となれば、ホテルや観光スポット、移動手段など、たくさんのことを調べないといけないんですけど、英語だといくら検索しても情報が出てこないんですよね。私の愛する日本を紹介することで日本に貢献できるのではないかと思い、2015年1月に『ACCESSIBLE JAPAN』を始めました。

――― サイトで観光スポットを紹介する際、どういったことに留意していますか?

グリズデイル:最初の頃は、電動車いすユーザーとして率直な感想を書いていましたが、私が「行けなかった」と書いてしまうと行けるはずの人まで行くのをやめてしまうことになってしまうので、評価をせず、さまざまな人に参考にしてもらえるよう、できるだけ多くの写真を使って現実をそのまま説明するようにしています。例えば、車いすだと全体の30%くらいしか見ることができない日本庭園なら、以前は紹介するべきか悩みましたが、現在は「30%でもいい」という人のために「車いすの場合は30%程度を見られる」と説明をつけて紹介しています。また、休憩場所やお手洗いの情報は大切なので「トイレは駅で済ませておいた方がいい」といった情報も載せるようにしています。ちなみに、初期に主観で紹介してしまった場所に関しては、再訪して記事を書き直しているのでご安心を(笑)。

グリズデイルさんが選んだ『アクセシブルな名所』5選

――― グリズデイルさんにとって、バリアを感じない場所とはどんなところですが?

グリズデイル:施設や設備などの“ハード面”と、サービスやマニュアルなどの“ソフト面”のどちらも大切だと思うのですが、世界遺産や山奥の観光地のような場所は、どうしてもハード面を変えられません。でも、「できないんだから仕方がない」と片付けてしまうのではなく、ソフト面でカバーするとグッと行きやすくなることもありますね。

――― なるほど。では、これまで訪れた中から、「これは海外に誇れる!」と感じたアクセシブルな日本の名所を教えてください。

1:浅草寺

グリズデイル:一般的な神社仏閣は未舗装の場合が多いのですが、『浅草寺』は雷門をくぐり、仲見世を通り抜けて本堂にたどり着くまでまったく段差がないので、車いすユーザーや視覚に障がいのある方でもスムーズに進むことができます。また、本堂のすぐ横に設置されたエレベーターを使えば、階段を使わずに本堂内を参拝することができます。

本堂の西側にあるエレベーター棟。看板がなければ見過ごしてしまうほど、本堂に溶け込んでいる。写真提供:グリズデイルさん

この、本堂に溶け込むようなエレベーター棟のデザインも誇るべき点。エレベーターの存在に違和感があると、景観が乱れるだけでなく、利用者としてなんだか申し訳ない気持ちになってしまうので、そういった心的な部分にも配慮が行き届いていると感じました。仲見世は車いすで入れない店が多いですが、親切に対応してくれるスタッフが多く、心のバリアフリーを感じます。

2:明治神宮©︎Shutterstock

グリズデイル:『明治神宮』は、ここ数年で劇的にバリアフリー化が進んでいて、行くたびに「また良くなってるなぁ」と感じるスポットですね。以前は、長い参道に玉砂利が敷かれていたので参拝するのも一苦労だったんですけど、最近は参道の両端が石板舗装されて、車いすユーザーでも拝殿までたどり着きやすくなっています。もともと外国人に人気のスポットですが、最近は障がいのある外国人参拝者を見かけることが増えましたよ。このあいだ行ったときは10人くらいいたかな。

拝殿に設けられた車いす用スロープ。以前は拝殿の裏手にあり使い勝手がよくなかったが、現在はこの通り!写真提供:グリズデイルさん 3:新宿御苑©︎Shutterstock

グリズデイル:『新宿御苑』もベストスポット。スロープをつけられない古い建物や未舗装の園路が多く、バリアフリーが進んでいないように見える部分もあるのですが、UDマップ(ユニバーサルデザイン情報マップ)を公開するなどして、どうしたら障がいのある人や体の弱い人が楽しめるかを一生懸命考えてくれている印象です。

昨年、新宿御苑でユニバーサルガイドアプリ『Smart Town Walker』のモニターツアーが実施されたんですけど、現在地付近の見どころやバリアフリー情報を知ることができてとても便利でした。実用化されたら、誰でも安心して園内を散策できるようになると思います。

GPS機能を使い、現在地付近の情報を音声、映像、テキストで紹介する『Smart Town Walker』。イヤホンは耳を塞がない骨伝導タイプを使用する。写真提供:グリズデイルさん
4:鳥取砂丘©︎Shutterstock

グリズデイル:ずっと、車いすだから『鳥取砂丘』には行けないと思っていたのですが、無料の砂丘用サンドバギーがあって感動! 普段見ることのできない景色を堪能できました。ただ、サンドバギーで砂丘をのぼるにはサポートが必要なので、1人では乗れないかな(笑)。

ビーチチェアに大きなタイヤをつけたような形のサンドバギー。この日はあいにくの天気だったが、土砂降りでも楽しめたそう。写真提供:グリズデイルさん 5:軍艦島©︎Shutterstock

グリズデイル:最後に紹介するのは、私がもっとも感動した世界遺産の『軍艦島』。島自体をバリアフリー化することはほぼ不可能ですが、長崎県はバリアフリー団体の人的サポートが充実しているので、車いすユーザーでも快適に見学することができます。軍艦島に行ってみたいけどサポートがないと難しいという人は、ぜひ一度バリアフリー団体について調べてみてください。

軍艦島は日本の近代化を支えた産業遺産。車いすユーザーが一人で動くことは難しいが、人的サポートによって観光が楽しめる。写真提供:グリズデイルさん

日本での素晴らしい経験が「最高のお土産」になる

――― 今後、日本がさらなるバリアフリー化を図る上で、ソフト面のバリアをなくすことが大きな課題になってきそうですが、実際のところ、心のバリアを感じることはありますか?

グリズデイル:助けたい、自分も何かしたいと思っている人は少なくないと思います。ただ、どうサポートしていいかわからないとか、英語がわからないとかで、なかなか声をかけられないという感じが伝わってきますね。

本当は、難しく感じる必要はないし、完璧じゃなくていいんですよ。英語なんて喋れなくても大丈夫。このあいだ、100円ショップの前で友達を待っていたら、80代くらいのおじいさんが「オッケー?ユー、オッケー?」って話しかけてきたんです。私が店に入りたいのに入れなくて困っているんじゃないかと心配してくれたみたいで、なんだかすごく嬉しかった。すごく簡単な言葉だけど「オーケー?」と言うだけでも手伝いたいという気持ちは世界中の人に伝わるんですよね。

たとえうまく助けてもらえなくても、助けようとしてくれた人がいたということは最高のお土産になります。私の母も、むかし日本で親切にしてもらったことをよく覚えていて、いまだに「日本は素晴らしい国だね」と言い続けていますから(笑)。日本の土産話を家族や友人に話せば、ファンはどんどん増える。口コミは最高の宣伝になりますね。

――― それでも声をかける勇気が出ない人に、ぜひアドバイスを。

グリズデイル:相手とスマイルで目を合わせてみてください。実は、私もシャイなのでなかなか自分から「手を貸してください」とは言えないんですけど、目が合ったときにスマイルをしてもらえるだけで、「あの、すみません」と言い出しやすくなります。ただし、ニヤニヤしながら凝視していると「怖い!」と思われる可能性があるので気をつけてくださいね(笑)。

日本は世界屈指のバリアフリー先進国だ。しかし、本当のもてなしにはハード面だけではなくソフト面の充実も欠かすことができない。私たち一人一人がほんの少しだけ勇気と自信を持てば、来日した人々に最高の思い出を贈ることもできるだろう。

text by Uiko Kurihara(Parasapo Lab)
photo by Tomohiko Tagawa