半導体市場動向分析・コンサルティング企業である米Semiconductor Intelligenceは、半導体各社の2020年第2四半期のガイダンス(業績目標)および市場調査会社各社の2020年半導体市場成長率予測を元にした市場分析結果を発表した。

2020年第2四半期の半導体企業各社の業績は?

新型コロナウイルスの感染拡大が世界的に続いているため、世界経済の見通しは混乱したままである。これにともない半導体市場の見通しも非常に不透明となっている。2020年第1四半期の各社の売上高に対する前四半期比成長率(現地通貨基準)は、STMicroelectronicsの同19%減からキオクシア(旧 東芝メモリ)の同9.9%増に至るまでさまざまな結果だった(表1参照)。

2020年第2四半期の売上高に関する各社のガイダンスもプラス成長からマイナス成長まで大きな広がりがあるが、おおむね第1四半期より悪化するとのガイダンスが多い。Qualcomm、Texas Instruments、STMicroelectronics、NXP Semiconductorsなどは2020年第2四半期ガイダンスとして、前四半期比10%~25%減程度の落ち込みを予想している。これらの企業の上限のガイダンスは同7%~0.3%減の範囲であり、中間値は同10.5%減となっている。

NVIDIAとInfineon Technologiesは楽観的な2桁成長のガイダンスを出しているが、これは誤解を招きかねない。NVIDIAは、買収を完了したMellanoxの売り上げを2020年第2四半期より加えることとなる。Mellanox買収の影響を除外すると、同社の第2四半期のガイダンスの中間値は、18.5%ではなく約4%となる。同様にInfineonも2020年第2四半期の売り上げに買収したCypress Semiconductorのものが含まれることとなる。Cypress分を除くと、Infineonのガイダンスの中間点は同5.7%増ではなく同13%減となる。

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    表1 大手半導体企業各社の2020年第1四半期売上高(現地通貨)の前四半期比増減率および2020年第2四半期売上高成長率のガイダンス(最悪の場合、中間の場合、最良の場合) (出所:Semiconductor Intelligence, 2020年5月)

半導体メモリメーカーの第2四半期業績はどうなる?

半導体メモリ企業各社(Samsung Electronics、SK Hynix、Micron Technology、キオクシア)ともに、2020年第1四半期の売上高が2019年第4四半期と比較してプラスに成長した。

5月末までの同社会計四半期に対するMicronのガイダンスの中間点は同2.1%増である。Samsung、SK Hynix、キオクシアは2020年第2四半期の売上高に関するガイダンスを公表していない。いずれもPCとサーバーからの強い需要を期待しているが、スマートフォンからの需要は期待できないようだ。

多くの人々が在宅勤務したりオンライン授業を受けたりしているのでPCの需要は強いと予想される。通信と情報のためのインターネットへの依存度の増加により、データセンター用サーバーの継続的な成長が期待できるだろう。

多くの専門家は2020年にスマートフォンの需要が低迷すると予想しているが、ビデオコミュニケーションの使用が増加することで売り上げが伸びる可能性も考えられる。企業がPCによるビデオ会議で遠隔地の従業員間のコミュニケーションを強化しているのと同じように、スマートフォンのビデオ通話を介して、直接会うことのできない家族や友人とコミュニケーションすることが増えているためだ。このビデオ通話の使用が増加することで、多くの人がスマートフォンをアップグレードすることが考えられるという。

半導体を大量消費する中国の電子機器生産の現状は?

2020年第1四半期の電子機器生産額の減少は、主に供給の問題が原因だった。中国の電子機器の生産は、中国が新型コロナウイルスを封じ込めようとして国の大部分をロックアウト(都市封鎖)したため、1月と2月に大幅に減少した。その結果、2020年1月と2月の中国の電子機器製造額は、前年比13.8%減となった。PCの生産台数は同29%減となり、スマートフォンの生産台数も同41%減となった。その後、中国の生産額は回復し、全体として3月は同9.9%増、4月は同11.8%増となった。そのうちPCの生産台数は4月で同29%増となったが、スマートフォンの生産台数はまだ以前の水準に戻っておらず、同26%減と落ち込んだままであった。

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    図1 中国における電子産業生産額(現地通貨基準)の前年同月比増減率(青線)およびPCと携帯電話の生産数量の前年同月比増減率 (出所:Semiconductor Intelligence, 2020年5月)

2020年の半導体市場はどうなる?

2020年の半導体市場規模に関するここ最近(4~5月)の市場調査会社各社の予測はまちまちで、もっとも高い予測は米Cowan LRA Modelの前年比7.6%増である。Cowanは過去の傾向に基づいており、新型コロナウイルス禍の現状を考慮していないようだ。また、英Omdia(旧IHS Markit)は新型コロナが早めに収束するとみて同2.5%増を予測しているが、米Gartnerは同0.9%減とマイナス予想としている。また、米McKinseyも同5%~15%(中間値は10%)減、米IBSも同11.7%減としており、米IC Insightsと米IDCもそれぞれ同約4%減と予測。Semiconductor Intelligenceも同6%減としている。

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    図2 各市場調査会社の2020年半導体市場売上高の前年比増減率予測 (出所:Semiconductor Intelligence、2020年5月)

半導体メモリ市場は、不透明な2020年の半導体市場において見通しが明るい分野である。中でもGartnerは、半導体市場全体が同0.9%減としているにも関わらず、メモリ市場のみは同14%増と予測しており、もしメモリ分野をのぞけば、市場は6%減となると予測している。Omdiaも似たような見方を示しており、半導体市場全体で同2.5%増の成長を予測しているが、メモリをのぞくと同5%減となるとの見方を示している。

半導体市場のいつ回復するのか?

実は半導体市場はV字回復の先例がある(図3参照)。2008年から2009年にかけての大不況の際、半導体市場も大幅な落ち込みに見舞われ、2008年第4四半期に前四半期比24%減、2009年第1四半期にも同16%の落ち込みとなった。需要の潜在的な深刻な低下がその背景にあったが、最終的にはエレクトロニクス市場は景気後退の大きな影響を受けることなく持ち直した。PCの出荷台数は2009年、前年比5%増となった。また、携帯電話の出荷台数は同3%減となったものの、当時、勃興期を迎えていたスマートフォン市場は急成長を果たし、そうした動きもあり半導体市場も急回復し、2009年第2四半期と2009年第3四半期はそれぞれ前四半期比20%ほどの増加を達成。2009年第4四半期までに、市場は不況前と同等のレベルに戻ることに成功した。

今回の新型コロナウイルスによる市場の低迷について、Semiconductor Intelligenceは、V字ではなくU字型の回復を予測している。2020年第2四半期の急激な落ち込みに続いて、2020年第3四半期および第4四半期の市場も比較的停滞が続き、2021年上半期から成長が回復するという予想である。その結果、2021年の半導体市場は前年比10〜15%増という成長が予想としている。

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    図3 2008年から2009年にかけての世界同時不況の際の半導体市場の前年同四半期比増減率 (WSTSの実績データを基にSemiconductor Intelligence作成)