米国のロケット・ベンチャー「ヴァージン・オービット」は2020年5月26日、空中発射ロケット「ローンチャーワン」の初めてとなる発射試験を実施した。発射直後にトラブルが起き、打ち上げは失敗に終わったものの、次につながる大きな一歩を踏み出した。

  • ローンチャーワン

    母機から投下され、エンジンに点火したローンチャーワン。この直後、エンジンが停止し、打ち上げは失敗した (C) Virgin Orbit

ローンチャーワン、初の試験飛行

ローンチャーワン(LauncherOne)の試験機は、日本時間5月26日3時56分、母機となるボーイング747、愛称「コズミック・ガール」に吊るされ、カリフォルニア州のモハーヴェ航空・宇宙港から離陸した。

約1時間かけて南カリフォルニア沖の上空へ飛行したのち、飛行機の左翼からローンチャーワンが投下された。

その直後、ローンチャーワンは1段目エンジン「ニュートンスリー(NewtonThree)」に点火し、飛行を始めた。しかし、投下から約9秒後になんらかのトラブルでエンジンが停止。機体は事前に申請していた領域内に安全に墜落した。

コズミック・ガールと、搭乗していた2人のパイロットと2人のエンジニアに影響はなく、無事にモハーヴェに着陸している。また、今回は試験発射だったことから、衛星の代わりに重りを搭載しており、顧客への被害もなかった。

同社はこれまで、エンジンの地上燃焼試験や、推進剤を積んでいない状態のローンチャーワンを投下する試験などを行ってきたが、軌道投入を目指した発射試験は今回が初めてであった。

  • ローンチャーワン

    ローンチャーワンを搭載し、初の試験飛行に向けて飛び立つボーイング747 コズミック・ガール (C) Virgin Orbit

ヴァージン・オービットは試験後、声明を発表し、「打ち上げ前の準備に始まり、投下地点への飛行、複数のアンテナによるテレメトリーの受信、そして安全な投下と、多くの試験項目をクリアしました」と述べ、「とくに投下と落下、ロケットの点火シーケンス、誘導飛行の最初の部分など、飛行の中で最も困難な部分のいくつかにおいて、私たちのシステムのすべての部分は、設計したとおりに正確に動作しました」と強調している。

また、同社のCEOを務めるDan Hart氏は「もちろん望んでいた結果ではありませんが、大きな一歩を踏み出した日となりました。次のロケットの発射に向け、私たちは学び、調整し、準備を進めます」と語っている。

同社によると、次のロケットはカリフォルニアにある製造施設で統合の最終段階にあり、さらにその後のミッションの使うための6機のロケットの製造も進んでいるという。また、「試験やその後の運用を迅速に進めるべく、今回の試験飛行に先立って複数のロケットの製造を開始するというやり方をとっている」とし、「今回のトラブルを受けた改修を加えた後、すぐにでも次の試験発射に進みたい」としている。

ただ、今回のトラブルの原因はまだ不明であり、影響の度合いもわかっていないことから、どの程度の改修が必要になるのか、その結果次の発射がいつになるのかなどはまだわかっていない。

今回の試験飛行の様子

今回の試験飛行の模様を収めた映像 (C) Virgin Orbit

衛星打ち上げ用ロケットが、その最初の打ち上げで軌道投入に成功することは難しく、一般的に成功確率は50%ほどとされる。ローンチャーワンとほぼ同じの打ち上げ能力をもつ米国「ロケット・ラボ」の「エレクトロン」ロケットも、最初の打ち上げは失敗。いまをときめくスペースXも、最初に開発した「ファルコン1」ロケットが4機連続で失敗し、会社が倒産寸前にまで追い込まれた。

今回のローンチャーワンの失敗を受け、ロケット・ラボのピーター・ベックCEOやスペースXのイーロン・マスクCEOはともに、Twitterを通じて同社に労りや励ましの言葉を寄せている。

  • ローンチャーワン

    次の、そしてさらに将来の打ち上げに向けて製造が進むローンチャーワン (C) Virgin Orbit

ローンチャーワンとは?

ヴァージン・オービット(Virgin Orbit)は、米国カリフォルニア州に本拠地を置くロケット・ベンチャーで、英国ヴァージン・グループの中の一社である。

もともとは2012年、空中発射型の宇宙船を開発しているヴァージン・ギャラクティックが、その技術を応用して小型衛星を打ち上げるプロジェクトを立ち上げたことに始まり、2017年に分社化されてヴァージン・オービットが誕生した。現在の従業員数は500人ほどだという。

同社が開発しているローンチャーワン(ランチャーワンとも)は、空中発射型のロケットで、ケロシンと液体酸素を推進剤とする2段式を基本とし、オプションで3段目を追加することも可能。高度500kmの太陽同期軌道に300kgの打ち上げ能力をもち、小型・超小型衛星の打ち上げに特化している。

ローンチャーワンのような超小型ロケット(Micro Launcher)は世界的に競争が活発で、同じく米国に拠点を置くロケット・ラボのエレクトロン・ロケットがすでに運用に入っているほか、世界中で100社ほどが開発に挑んでいる。その中において、ローンチャーワンのような空中発射ロケットは、設備などが整った空港があればどこでも運用可能であるなど、高い柔軟性と機動性をもつことを特長とする。

ヴァージン・オービットは、ローンチャーワンの運用拠点として、モハーヴェ航空・宇宙港のほか、フロリダ州のケネディ宇宙センター、そして日本の大分空港などを使うことを計画している。

打ち上げ価格については、かつては「1機をまるごと専有する場合で約1200万ドル」とされたが、現在は価格が公表されておらず、正確な数字は不明である。

同社はすでに民間の衛星会社や政府機関などから、数多くの打ち上げ契約を取り付けている。その詳細は明らかになっていないが、総額で「数億ドル」になるという。

また、英国のヴァージン・グループが母体であることから、そのままでは米国の安全保障(軍事)衛星の打ち上げができないため、100%米国の子会社「ヴォックス・スペース(VOX Space)」が設立されている。

参考文献

Virgin Orbit Ignites LauncherOne Rocket During First Launch Demo, Mission Safely Terminated | Virgin Orbit
Mission Recap: Our First Launch Demo | Virgin Orbit(https://virginorbit.com/mission-recap-our-first-launch-demo/) ・Technology - A New Approach To Proven Technology | Virgin Orbit
大分県、ヴァージン・オービットとの提携により、アジア初の水平型宇宙港に - 大分県ホームページ

鳥嶋真也(とりしましんや)

著者プロフィール

宇宙開発評論家、宇宙開発史家。宇宙作家クラブ会員。

宇宙開発や天文学における最新ニュースから歴史まで、宇宙にまつわる様々な物事を対象に、取材や研究、記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。

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