コロナ偽情報をまき散らす動画で注目集めた博士、陰謀論者が絶賛する理由

ジュディ・ミコヴィッツ博士は、反ワクチン派の間ではよく知られた科学者だ。パンデミックは仕組まれたものだったと告発する偽情報満載のドキュメント動画『Plandemic』で注目を集めた。

新型コロナウイルスによる死者は水増しされている、マスクのせいでウイルスの感染が広がるなど、ミコヴィッツ博士の主張が虚偽であることは周知の事実にもかかわらず、右派陰謀論者や有名インフルエンサーの後押しもあり、26分間の動画はソーシャルメディアで爆発的に拡散された。FacebookとYouTubeは自社の嘘情報禁止ポリシーに違反しているとして動画を削除したが、主張のほとんどが完全に否定されているにもかかわらず、現在も様々なソーシャルメディアで広くシェアされ続けている。

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ミコヴィッツ博士は2009年に発表した、慢性疲労症候群をマウスのレトロウイルスと関連づけた研究が否定され、サイエンス誌から撤回された後、ネバダ州のウィットモア・ピーターソン神経免疫病研究所の研究主任のポストを解任された(2011年11月、ラボから自分のノートを盗もうとしたとして逮捕されたが、最終的には不起訴になった)。最近、ミコヴィッツ博士は自らの失脚を、ワクチンの安全性に疑問を投げかけようとしたところを医学会に口を封じられたという筋書きに言い換え、反ワクチン派の間ではある種の内部告発者として、ちょっとした有名人になっていた。

だが『Plandemic』人気のおかげで、ミコヴィッツ博士の主張はメインストリームでも注目を集めるようになった。4月以降、彼女のTwitterのフォロワーは10万人以上増え、2020年に出版した著書『Plague of Corruption(原題)』はAmazonのベストセラーリストを一気に駆け上り、現在7位にランクインしている(一時はファン待望の『トワイライト』シリーズ最新作を凌ぐほどだった)。実際、スタンフォード・インターネット・オブザーバトリーの研究員、レネー・ディレスタ氏のスレッドによれば、ミコヴィッツ博士の『Plandemic』出演は『Plague of Corruption』の宣伝のためだったという証拠がある。出版元である独立系出版社Skyhorse Publishingはこれまでにも数々の陰謀論を展開する本を出版してきた。またAmazonの代理人はローリングストーン誌に対し、『Plague of Corruption』は「弊社のコンテンツ規定には違反していません」と回答した。

反ワクチン派ブロガー、ケント・ヘッケンライブリー氏との共著(反ワクチン主義の広告塔、ロバート・F・ケネディ・ジュニア氏の序文付き)『Plague of Corruption』は、一見した限りでは、ベストセラー入りしそうには思えない。科学的な専門用語が満載で、一般的な読者にはほとんど理解不能。医学会内部の因縁や諍いが無数に紹介されていて、一冊の本というよりは、解雇されて腹の虫が治らない親戚が、1万ワードにも及ぶ元雇用主の悪口をFacebookに投稿したかのようだ。しかしミコヴィッツ博士は読者をよく心得ており、自分を拒んだ体制への恨みつらみを抱えた不名誉な科学者ではなく、巨大組織に立ち向かう勇気ある内部告発者として描いた。


許されない言い訳

『Plague of Corruption』は本質的には、自画自賛の聖人伝だ。ミコヴィッツ博士は全編を通して自身をガリレオやマーティン・ルーサー・キング・ジュニア、トマス・ジェファーソンに例えている(後者に関しては、途中『ハミルトン』の歌詞を引用している)。誰かに言われた「非常に聡明」という発言を引用した箇所もある。『Plague of Corruption』には悪役がわんさと登場するが、中でもミコヴィッツ博士のお気に入りはアンソニー・ファウチ博士だ(『Plandemic』にも登場している)。「公衆衛生の重要な真実が語られない理由を問いかけてみれば、犯罪現場から彼らの痕跡がきっと見つかるだろう」と述べ、その例としてファウチ博士を挙げている。

特に言語道断極まりないのが、ミコヴィッツ博士の研究を闇に葬ろうと、2013年に他界したウイルス学者クアン・テ・ジャン氏を殺害するようファウチ博士が命令した、と仄めかす箇所だ。「噂によれば(ジャン氏は)遺書を残していたが、国立衛生研究所警察に没収されてしまった。故ビンス・フォスター氏(訳注:クリントン政権の大統領次席法律顧問、死因は自殺と断定されたが他殺説を唱える陰謀論もある)のブリーフケースから見つかった破れたメモとよく似ているではないか」と彼女は述べ、さらに極右陰謀論者らしい響きを漂わせている。

ミコヴィッツ博士は自らを、信用のない科学者ではなく、果敢にも不都合な質問をしたために罰せられた者であるかのように描いている。「私はキャリアを通して、新しい考えを受け入れ、既知、あるいは既知だと思われている事柄とどう適合するか確認してきた」と彼女は書いている。ミコヴィッツ博士や彼女のキャリアと関係のない文脈でこのような発言を否定するのは、どんな分別のある人間でも難しく、そこがまさに狡猾な点だ。古くからの謎を追究し、新しい考えに寛容であることは、結局のところアメリカ合衆国の中核をなす信条だ。だからこそ陰謀論はあっという間に広まり、それを止めるのは難しい。確立された真実に真っ向から歯向かう者を非難するのは簡単だが、ただ単に「疑問を呈した」、あるいは生来の好奇心を示した者を責めるのはずっと困難だからだ。

もちろん『Plandemic』の人気でわかったように、世界的パンデミック下で「疑問を呈している」と言う言い訳は通用しない。その疑問が政治的意図や自分勝手な目的と切っても切れない場合は尚更だ(ミコヴィッツ博士の場合は間違いなく両方だろう)。怯える大衆が誤情報に呑まれ、政府への不信感を煽られる中、悪い考えは一層受け入れられやすくなっている。その過程で重要な役割を果たしたのは、(『Plague of Corruption』の売上急増をみすみす許した企業も含む)ソーシャルメディアだ。