優れた女性科学者をたたえる今年の「猿橋賞」を、物質の最小単位である素粒子の一種「ニュートリノ」の研究で成果を挙げた京都大学大学院理学研究科准教授の市川温子(あつこ)さんに贈った、と主宰する「女性科学者に明るい未来をの会」(石田瑞穂会長)が23日発表した。

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    猿橋賞を受賞した市川温子さん(女性科学者に明るい未来をの会提供)

授賞理由は「加速器を用いた長基線ニュートリノ実験によるニュートリノの性質の解明」。138億年前の宇宙誕生時、素粒子には身の回りにある物質を構成する粒子と、一部の性質が反対の反粒子が同数存在した。しかし両者の性質が違うため反粒子がほぼ消滅し、現在は粒子ばかりが存在する。「CP対称性の破れ」と呼ばれるこの現象はごく一部の素粒子で証明されたものの、宇宙に現在ある物質の量を説明しきれていない。ニュートリノとその反粒子の反ニュートリノは、互いに性質が大きく異なるとの仮説があり、宇宙に物質があふれている理由を理解するための重要な手掛かりになると期待されている。

そこで、ニュートリノの性質解明を目指す「T2K実験国際共同研究グループ」が、茨城県東海村の実験施設「J-PARC」から295キロ離れた岐阜県飛騨市神岡町の観測施設「スーパーカミオカンデ」に向け、ニュートリノや反ニュートリノを発射する実験を行っている。市川さんはグループに設計段階から参画。ニュートリノの生成装置や測定装置の開発、データ解析で重要な役割を果たしてきた。昨年3月、約500人からなるグループの代表者に選ばれている。

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    実験の概要(T2K実験国際共同研究グループ提供)

市川さんは取材に対し「賞をいただいたこと自体もうれしいのですが、関係者、家族、高校時代の友人から温かいメッセージをいただいたことに感激しています。ニュートリノにおける対称性の破れがもうすぐ見えるかもしれません。これは、宇宙の成り立ちを理解するという意味で重要な一歩ですが、本当に理解するにはまだまだ道は長いです。個人で成し遂げられることではなく、多くの人と協力して研究を進めていきたいと思います」とコメントした。

市川さんは愛知県出身で、京都大学理学部卒業、同大大学院理学研究科博士後期課程修了。高エネルギー加速器研究機構助教などを経て2007年から現職を務めている。

同会は地球化学者の猿橋勝子博士の基金により創設され、同賞は今年で40回目。贈呈式は例年、5月下旬に都内で開かれるが、今回は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大の影響を受け、23日にオンライン会議システムで行われた。

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