村上春樹の友人・山中伸弥教授からのメッセージ「一生のお願いなのですが…」
作家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるTOKYO FMの緊急特別番組「村上RADIO ステイホームスペシャル ~明るいあしたを迎えるための音楽」が、5月22日(金)に放送されました。

「村上RADIO」シリーズの「緊急特別版」となる本番組は、「新型コロナウイルスをめぐる厳しい状況やつらい気持ちを、音楽の力で少しでも吹き飛ばせたら……」という村上さんの思いに応えて立ち上がった企画。約2時間にわたり、村上さんが選曲した楽曲やリスナーから寄せられたメッセージを紹介しました。本記事では、番組リスナーから寄せられた「いま、村上春樹さんと語りたいこと」「村上春樹さんと考えたいこと」に関するメッセージを紹介します。



<リスナーからのメッセージ>30代・女性
「アフターコロナ」「ポストコロナ」という言葉を目にします。「世界の仕組みは変わってしまって、元には戻らない」とか「この変化の波に乗れない人は新しい時代を生きていけない」といった語られ方も見かけて、とても不安です。村上さんは「アフターコロナ」についてどう思われますか?

<村上さんのコメント>
うーん、今を生きるだけで大変なのに、「アフターコロナ」「ポストコロナ」と言われても、急にはよくわかんないですよね。でも僕がちょっと思ったのは、この「自粛期間」のせいで、僕らの生活にとって「なくてはならないもの」が何か、「なくても別に困らないもの」が何か……そういうことが少しずつ見えてきたんじゃないかな、という気がします。そういう意味では、ある種壮大な「社会的実験」みたいなものが、世界規模でおこなわれたんじゃないでしょうか。そしてその実験の成果は、これからじわじわと社会全体に広がっていくだろうという気がします。

良くも悪くも。これまでの生活をもう一度あらためて見直すというのは、たぶん良いことですよね。逆に怖いのは、いろんな意味で人々が閉塞的になってしまうことですよね。自分さえ良けりゃそれでいい……みたいな感じで。大きなところでいえば、それからグローバリズムが後退して、自分の国や地域だけで縮こまって、閉じこもってしまうとか。そういうのはちょっと怖いかもしれませんね。

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<リスナーからのメッセージ>40代・女性
今回の新型コロナウイルスの流行で、図らずも自分の理想としていた生活を送っています。不可能だと思っていた家族のテレワークが実現し、子どもとじっくり話す時間ができ、嫌でたまらなかった集まりは中止になりました。いつかこの状況はなくなるのだろうと考えると、寂しい気持ちになります。新しい生活に向かうのだと思えるようになるには、どんなことを思っていけば良いでしょうか。

<村上さんのコメント>
あなたの場合はきっと、今送られているようなシンプルな生活が、もともとの性格に合っていたんでしょうね。その感覚は、僕にもよくわかります。だから今の「コロナ環境下」の生活の良いところを残すようにして、「コロナ後」の新しい生活を築いていかれると良いと思いますよ。うまくいくといいですね。

僕の場合「コロナ環境下」でも、正直なところ、普段の生活とそれほど変わりないんです。これまで1人で家でずっと仕事をしてきたわけですからね。ただ、TOKYO FMのスタジオで番組の収録ができないのは、ちょっと淋しいです。みんな、わりに和気あいあいとやっておりましたので。

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<リスナーからのメッセージ>50代・女性
これまで春樹さんはオウムの事件の後や阪神淡路大震災の後、それに関連した作品を発表なさってきましたね。私たちの生命観や価値観を変えてしまう出来事の後に、春樹さんの作品を読んで救われた気持ちになりました。今度もまた新型コロナウイルスに翻弄される私たちのために何か書いてください。

<村上さんのコメント>
何か大きな事件が起こったとき、小説家にはいくつかの取り組み方があると思うんです。「その事件を直接の題材として物語を書く」というのも、もちろん大事な作業になると思います。僕は「オウム真理教」事件のときには、「アンダーグラウンド」という本を書きました。その事件に関連した数多くの人々の実際の肉声を集めたもので、フィクションじゃありませんが、そこには間違いなく集団的な「物語性」みたいなものがあります。

でも僕としては基本的に、「今ここで起こっていること」をそのまま書くのではなく、違う形の物語に置き換えていくことのほうに、むしろ興味を惹かれます。そういった「移動作業」というか「転換作業」にこそ、小説というものの特性が発揮されるんじゃないかと思います。

今回の「コロナ状況」がどういう形でこれからの僕の作品に反映されるか、それは僕自身にもわかりません。どうなるか、結果が出てくるまでには時間がかかるかもしれません。でも、何らかの影響を受けないということはまずあり得ないでしょうね。こういう空気を吸って吐いている限り――。

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最後になりますが、大阪の山中伸弥さんからメールをいただきました。山中先生、コロナウイルスのことでは、ずいぶんがんばっておられますね。こんなメールです。

<春樹さん。一生のお願いなんですが、僕にもラジオネームをいただけませんか? 山中>

しかし、先生、ラジオネームごときを「一生のお願い」にしちゃっていいものですかね? ノーベル賞とは違いますから。でもまあ、そこまで言われると、僕としてもむげに断るわけにはいきません。わかりました。特別にラジオネームを差し上げます。なにしろ相手が山中先生ですから、超デラックス、超豪華なラジオネームにしましょうね。はい、山中伸弥さんのラジオネームは……

「AB型の伊勢エビ」

です。ちょっと脱力感はありますが、なにしろ伊勢エビですから、デラックスですよね。これからの人生、このラジオネームと共に生きていってください。健闘を祈ります。

<番組概要>
番組名:村上RADIO ステイホームスペシャル ~明るいあしたを迎えるための音楽
放送日時:2020年5月22日(金)22:00~22:55(PART1)、23:00~23:55(PART2)
放送局:TOKYO FM/JFN全国38局フルネット
パーソナリティ:村上春樹
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/murakamiradio/