航空自衛隊に2020年5月18日、自衛隊で初めての宇宙領域の専門部隊となる「宇宙作戦隊」が発足した。

スペース・デブリ(宇宙ゴミ)や不審な人工衛星などを監視し、運用中の衛星を守ることを目的としたもので、宇宙航空研究開発機構(JAXA)や米宇宙軍などと連携し、3年後の本格稼働を目指す。

  • 宇宙作戦隊

    JAXAが運用する光学観測施設とレーダー観測施設。2022年度までに改修が加えられ、宇宙作戦隊(防衛省)などと一体となった宇宙状況監視の運用体制の構築が図られる (C) JAXA

宇宙作戦隊とは?

「宇宙作戦隊」は、航空自衛隊に新設された部隊で、東京都にある航空自衛隊・府中基地に拠点を置く。自衛隊で初めてとなる宇宙領域の専門部隊で、宇宙を監視し、正確に状況を認識する「宇宙状況監視」を任務とする。

設立の背景には、近年スペース・デブリが増加し、運用中の衛星と衝突する危険性が増していること、さらにロシアや中国、インドといった国々では、衛星を攻撃するミサイルや衛星兵器の開発が進められており、その攻撃を受ける危険性があるのと同時に、衛星攻撃兵器の試験で新たなデブリが大量に発生することに対する懸念がある。

気象衛星や通信衛星、衛星測位システムなどは、人類の生活にとってなくてはならないものとなっており、同時に自衛隊の活動にとっても重要なものとなっているなど、私たちの生活は宇宙に深く依存している。万が一、デブリの衝突や攻撃によって、衛星が機能を失った場合、その影響は計り知れない。

こうした事態を防ぐため、宇宙作戦隊は日本各地に設置されたレーダーや光学望遠鏡を使い、どの軌道にどんな衛星やデブリが存在するかを監視。もしデブリと衝突しそうになったり、不審な衛星が近づいてきたりした際には警報を出す。衛星の運用者はそれを受け、衛星の軌道を動かすなどして衝突や攻撃を回避する。

隊員数は現在約20人で、今後部隊運用の検討や人材の育成などを実施。また山口県内に、高精度・遠距離探知が可能な宇宙監視用のレーダーを設置するなどし、2023年度からの本格的な宇宙状況監視の運用開始を目指している。さらに2026年度までには、宇宙監視用の衛星の打ち上げも計画する。

また、安倍首相は2019年9月、「航空宇宙自衛隊への進化も夢物語ではない」と述べるなど、宇宙分野の防衛力のさらなる強化に向けた意欲も見せている。

JAXAや米軍とも連携

宇宙作戦隊は宇宙状況監視の運用にあたって、JAXAとも連携を図る。

JAXAは現在、岡山県に光学観測施設とレーダー観測施設を保有しており、茨城県にある筑波宇宙センターにおいてデータ解析を行っている。また並行して、宇宙基本計画に基づき、2022年度までに新しい光学望遠鏡やレーダー、軌道情報の分析などを行う解析システムの整備などを行うことになっており、日本全体で宇宙状況監視の能力向上が図られるとともに、防衛省やJAXAなどが一体となった宇宙状況監視の運用体制の構築が行われる。

  • 宇宙作戦隊

    JAXAが岡山県上齋原に新たに整備するレーダー施設の想像図 (C) JAXA

また、宇宙状況監視は米国やロシアなどですでに整備が進められており、とくに米国は、世界各地にレーダーや望遠鏡を備え、さらに監視衛星を打ち上げるなどし、直径10cm以上の大きさの衛星やデブリをほぼすべてをカタログ化し、継続的な監視を行っている。

宇宙作戦隊は、こうしたグローバルな宇宙状況監視ネットワークを有する米軍とも情報共有を行うとしている。

また、2016年からは、宇宙状況監視多国間机上演習(グローバル・センチネル)と呼ばれる、多国間による宇宙状況監視に関する実践的な演習にも参加し続けている。さらに2018年10月には、米空軍宇宙コマンド主催の多国間机上演習である「シュリーバー演習」に初めて参加、宇宙空間における各国との連携強化や、将来の宇宙政策立案の資とするとしている。また米国のほか、フランス、EU及びインドなどとの間で宇宙対話などにも取り組んでいる。

宇宙作戦隊の発足にあたり、河野太郎防衛相は「宇宙は我々の目であり耳であり、あるいは通信の器官となっている。我々の衛星を悪意を持った攻撃、あるいはスペース・デブリから守るというのが非常に重要。だからこそ宇宙作戦隊を立ち上げる」と、その意義を語った。

米宇宙軍のジョン・レイモンド司令官は、発足にあたって「日本は宇宙分野において、我が米国、そして英国やフランス、ドイツとともに、強力な同盟国の仲間入りを果たしました。空・海・陸の分野での米国と日本との同盟関係は60年以上も続いており、そのパートナーシップと相互運用性が宇宙空間へも広がっていこうとしています」とのコメントを寄せている。

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    米軍がマーシャル諸島クェゼリン環礁に設置した宇宙監視用のレーダー施設「スペース・フェンス」 (C) Lockheed Martin

国際的なルール整備と宇宙軍拡の歯止めが課題

その一方で、宇宙における軍事利用に対するルールは、国際的に明確化されていないという課題がある。

衛星を直接破壊するような行為はともかく、たとえばジャミング(電波妨害)や、スプーフィング(なりすまし)と呼ばれるGPS電波に似せた電波を出して座標を狂わせるような行為が違法なのかどうかは曖昧な部分がある。

これについて河野防衛相は「(サイバー空間も含め)宇宙でなにかが起こったとき、なにが国際的なルールなのかということは、これから詰めていく必要があるだろう。しっかり議論していかなければいけない」と語った。

また、宇宙の軍事利用に、日本を含めた各国が注力する流れについては、宇宙における軍拡が加速する恐れもあり、宇宙兵器の配備や実験などを規制するルール作りも求められる。

参考文献

ニュースリリース|防衛省 [JASDF] 航空自衛隊
防衛省・自衛隊:防衛大臣記者会見|令和2年5月15日(金)10:49~11:16
第27回宇宙安全保障部会防衛省説明資料 防衛省防衛政策局戦略企画課 防衛省のSSAに係る取組について 平成30年5月14日
-宇宙を見守るSSA- JAXA|宇宙航空研究開発機構 追跡ネットワーク技術センター
防衛省・自衛隊|令和元年版防衛白書|3 宇宙・サイバー・電磁波の領域での対応

鳥嶋真也(とりしましんや)

著者プロフィール

鳥嶋真也(とりしま・しんや)
宇宙開発評論家、宇宙開発史家。宇宙作家クラブ会員。

宇宙開発や天文学における最新ニュースから歴史まで、宇宙にまつわる様々な物事を対象に、取材や研究、記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。

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