衛星通信大手の米インテルサット(Intelsat)は2020年5月13日、米連邦破産法11条(チャプター11)に基づく会社更生手続きを、バージニア州東部地区の連邦破産裁判所に申請したと発表した。

同社は声明の中で、将来の成長を見据えた財務リストラの一環であると主張。また、すでに10億ドルの融資を取り付けており、衛星の運用や通信サービスへの影響もないとしている。

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    インテルサットが2017年に打ち上げた最新鋭通信衛星のひとつ「インテルサット37e」の想像図 (C) Intelsat

インテルサットが連邦破産法11条の申請を検討していることは、2020年2月ごろから一部のメディアで報じられていた。

同社はこの申請により、約150億ドルある債務を軽減するとともに、米国連邦通信委員会(FCC)によるCバンド周波数の早期クリアリングへの参加を実現するとしている。

FCCは現在、米国において次世代通信規格「5G」インフラを構築することを目的に、衛星通信に使われているCバンドの周波数帯域の一部を5Gに割り当てるための、クリアリング(周波数帯を空ける)計画を進めている。この計画では、2025年までにクリアリングを完了することを目指しているが、それよりも2年前倒しとなる2023年12月までに周波数帯を空ける早期クリアリング計画もあり、期限までに実施することで、インテルサットはFCCから48億7000万ドルの補償金を受けることができるとされる。

インテルサットによると、「FCCが設けた早期クリアリングの期限を満たし、48億7000万ドルの補償金を受け取る資格を得るためには、周波数帯を空ける取り組みに10億ドル以上を投じる必要がある」としている。

同社はすでに、裁判所の承認後、10億ドルの資金調達を確保したとしている。

なお、連邦破産法11条は日本の法律でいうところの民事再生法に近いものであり、会社が完全に消滅することはなく、今後事業を継続しつつ、事業計画の見直しや従業員の整理などを行い、再建が図られることになる。

インテルサットも、「日常業務、顧客やパートナーとの連携、設備投資は通常どおり継続する」とし、また「当社の事業や従業員の変更は予定しておらず、新しい衛星の打ち上げ、地上ネットワークへの投資、新しいサービスの開発、次世代ネットワークとサービス戦略をフルスピードで推進していく」とコメントしている。

また、「長期的な成功に導くための財務リストラであり、当社の流動性を高めることを目的としており、インテルサットの債務負担は大幅に軽減され、強力な事業モデルと将来の成長計画を補完するためのバランスシートが強化された状態となるだろう」と、あくまで前向きな姿勢を崩していない。

現在同社は約50機の衛星を運用しており、今夏には新型の「ギャラクシー30(Galaxy-30)」という衛星が、欧州の「アリアン5」ロケットで打ち上げられる予定となっている。

なお、同社はインテルサット・ジェネラル(Intelsat General)という子会社を通じて、商業や政府、軍隊向けに通信サービスを提供しているが、同社は連邦破産法11章の手続きには含まれていないとしている。

また同社によると、今回の措置は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な流行による景気の後退への対処という意味合いもあるという。なお、3月には宇宙インターネットの「ワンウェブ(OneWeb)」が、また4月にはオーストラリアに拠点を置く衛星通信会社「スピードキャスト(Speedcast)」も、COVID-19を直接的、あるいは間接的な原因として連邦破産法11条の適用を申請しており、COVID-19は宇宙業界にも大きな影響を与えている。

インテルサットとは

インテルサットは米バージニア州に本拠地を置く衛星通信会社で、この分野において世界最大手の企業である。

その前身は、国際機関の「国際電気通信衛星機構」で、1961年に米国のジョン・F・ケネディ大統領が、全世界をカバーする衛星通信システムの構築を目指したことから始まった。

その後、衛星通信技術の発展に伴い現実味を増し、1965年4月に同機構最初の衛星が打ち上げに成功。1966年には2号機が、そして1969年に3号機が打ち上げられたことで、当初の目的であった全世界をカバーする通信衛星システムが完成した。まさに商用衛星通信におけるパイオニアと呼べる存在である。

1969年には「アポロ11」による月面着陸の模様を全世界に生中継し、その存在と能力を発揮したのを皮切りに、その後も数多くの衛星を打ち上げるとともに衛星通信サービスを展開し続けた。

2001年には、事業会社としてのインテルサットと、事業監督機関としての国際電気通信衛星機構(ITSO)が分割。企業としてのインテルサットは2006年に、北米や中南米で衛星放送サービスや企業向け通信サービスなどを提供していたパンナムサットを買収し、世界最大規模の衛星通信会社となった。

近年も、従来に比べて通信容量を大きく増やすことができる「ハイ・スループット」機器を搭載した新世代の通信衛星の打ち上げ、運用を行っているほか、米国の航空宇宙メーカーのノースロップ・グラマンと共同で、推進剤が残り少なくなった通信衛星に、別の衛星を合体させ、その衛星に軌道・姿勢制御を肩代わりできることで運用を継続することを目指した技術開発に挑むなど、積極的な歩みを続けている。

参考文献

Intelsat Undertakes Financial Restructuring to Pave the Way for Future Innovation and Growth | Intelsat
Intelsat declares bankruptcy as means to fund C-band spectrum clearing - SpaceNews.com
Chief Commercial Officer on Intelsat's Unwavering Commitment to Customers | Intelsat
About Us | Overview | Intelsat

鳥嶋真也(とりしましんや)

著者プロフィール

鳥嶋真也(とりしま・しんや)
宇宙開発評論家、宇宙開発史家。宇宙作家クラブ会員。

宇宙開発や天文学における最新ニュースから歴史まで、宇宙にまつわる様々な物事を対象に、取材や研究、記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。

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