ついに最終回を迎えてしまった『鬼滅の刃』。テレビアニメ化で盛り上がり、原作漫画はシリーズ累計発行部数2,500万部を突破し、最終回でファンの熱量も現在ピークに。アニメ『劇場版「鬼滅の刃」 無限列車編』(10月16日公開)の公開を楽しみに待ちたいが、その前に、舞台『鬼滅の刃』レビューを試みた。新型コロナウイルス感染予防のためたくさんの演劇が中止や延期になっているなかで、配信(dアニメストア×新体感ライブCONNECT ※配信は6月30日まで)を見て演劇を応援しようと思う企画だったが、最終回記念も込みでお届けします。

舞台版は原作漫画の1~4巻くらいまでを描いている。大正時代、主人公の少年・竈門炭治郎(小林亮太)の家族が鬼に殺された。深い哀しみのなか、たったひとり残った妹・禰豆子(高石あかり)は鬼になってしまい、彼女を救うため炭治郎は鬼と闘い続ける。炭治郎が鱗滝左近次(高木トモユキ)に弟子入りして鬼殺隊に入るまでが1幕。2幕目は大正ロマンあふれる浅草で鬼ながら鬼の欲望(人を食う)を抑制して生きている医師・珠世(舞羽美海)と出会い、禰豆子を助ける希望を見出すところまで、休憩をのぞいて2時間30分ほど。舞台だと1幕と2幕の間に休憩が入るが、配信ではノンストップ。それでも疲れを感じないで一気に見ることができた。

  • 舞台『鬼滅の刃』

    舞台『鬼滅の刃』

■映像だけでなく、アナログの見せ場も

はじまりは、炭治郎が雪山を下りていく場面。「人生には空模様があるからな」というセリフを噛み締めながら深い雪を踏みしめていく炭治郎の姿が描かれる。原作もアニメも血まみれの禰豆子を背負って必死の形相の炭治郎からはじまりインパクトがあるけれど、舞台は時系列順になっていて、地道な生活者の姿から描かれる。そして事件が起こり、漫画やアニメの冒頭の場面へ――。

斬っても斬っても次々現れる鬼との最初のアクションは、禰豆子が目覚め、炭治郎を襲う場面。このとき炭治郎は後ろにすっと下がる動きが多い。小林亮太はすごくなめらかに後ろに下がる。後ろに下がることは意外と大変な気がするが足腰が鍛えられているんだなあと思う。反対に禰豆子の高石あかりは激しく攻撃的だ。手足が長くて豪快に動く。18歳の若さで動いて叫んで力強い。

そこに割って入ってくる冨岡義勇(本田礼生)。彼は炭治郎とも禰豆子とも違い静かな一撃に力がある。「笑止千万」「笑止千万」と歌い上げるところ(セリフと歌詞合わせて6回言った)が盛り上がった。

ここで注目したいのは、禰豆子が不利になる炭治郎をかばって義勇に立ちふさがるところ。2人がぶつかり合うストップモーションを肉体でしっかり表現して見せた。この舞台、映像を多用して、めくるめく背景の変化や、原作漫画やアニメでは絵による自由な表現力で描かれる鬼の様々な魔力を表現し、その高い技術にも目を奪われるのだが(映像:大鹿奈穂)、それだけに頼っていない。要所要所、アナログの人間の力で見せているのである。そのひとつが、このストップモーション。これが印象的に決まったあと、テーマ曲がかかって、出演者が全員出てきて映像におけるタイトルバックになる。

■構成の妙に、演劇好きも納得

その後、炭治郎は鱗滝左近次に弟子入りして訓練を積んでいく。箱や丸太みたいなものが次々出てきてそれを避けていく炭治郎。不思議な雰囲気の漂う(この作品、炭治郎以外はみんな不思議な雰囲気がするけども)、錆兎(星璃)と真菰(其原有沙)にも助けられ、炭治郎は長い長い期間、訓練を続ける。前述のアスレチック場面をはじめとして、「死ぬほど鍛える。結局それ以外にできることはないと思うよ」というセリフがリアルに響く大変そうな訓練場面は、「俺は刀を振り続けた」と歌で半年の大変さが説明される。「より強く より速いほうが勝つ」ということで炭治郎の動きが強く速くなっていく。

アクションでは、黒子が俳優の飛ぶ動きを補助することで躍動感がアップする。アナログの力といえば、水の映像が出たときに、布も使って立体感を出すところも良かった。とにかく裏方が頑張っている。背景を変えるために複数の板を素早く動かし、照明も素早く変化しているところなんかも演劇好きには堪らない(美術:松生紘子、照明:吉枝康幸)。2幕に出てくる、朱紗丸(西分綾香)による手毬攻撃もアナログテクが使われ、矢琶羽(星乃勇太)の不可視の矢印(ベクトル)も映像と黒子が操る赤い布とのコラボになっていた。

極めつけは、元十二鬼月・響凱(高木トモユキ二役)の鼓屋敷場面。回転する部屋は映像だけど、そこでも黒子が大活躍する。

ここまでで2時間くらい。本番では休憩がはさまっていたにしても、俳優たちは休む間もなく動き回っている。アクションしながらセリフを言ったり歌ったり、相当なカロリーを消費しているはず。とりわけ小林亮太はほぼ出ずっぱり。当然水分補給はしてるだろうけど酸素吸入器も使っているんじゃなかろうかと心配になってしまう。そんな過酷な場面にもかかわらず、嘴平伊之助(佐藤祐吾)を見て「なんだこの男は イノシシの皮をかぶって日輪刀をもってる」という説明セリフや、我妻善逸(植田圭輔)の歌う「眠ると強くなる男 我妻善逸」という説明歌など、ふと冷静になる瞬間もあるという面白さ。原作が主人公のモノローグが多くて、心情や状況をそこで説明しているところを演劇ではセリフや歌やいろいろ工夫してメリハリをつけているように感じる(脚本・演出:末満健一)。よくできた構成。

■主演・小林亮太の闘いを見守る

炭治郎には様々な負荷がかかりまくり、2時間超えたところで、おお来たか! とばかりに見てる方の感情もマックスに跳ね上がる。まさにクライマックス。

「おれはずっと我慢してきた」
「己を鼓舞しろ」
「がんばれ炭治郎」
「俺はやれるやれる」
「成し遂げる男だ」

と自分で自分を応援。そう、炭治郎はこの2時間、ずっと孤独なのである。助けてくれる人もいるけれど、家族を亡くし、禰豆子のためにたったひとりで闘ってここまで来た。とにかく自分を信じてやりきるしかないのである。

そんなキャラクターと同じく、演じる小林亮太も2時間ずっと頑張ってきた。ここで最後に力を振り絞らされる。よく言うところの、雑巾を絞って最後の一滴まで絞って、なお絞るみたいなことを小林亮太はやるのである。

2時間前、登場してきたときは、声がとても繊細で、優しい少年そのものだった炭治郎。「禰豆子」と呼ぶときの慈愛に満ち溢れた声が染みる。闘うとき全身に力を入れたら声が変わってしまいそうにもかかわらず、極力優しい声を保っていた炭治郎が、ここに来て、繊細さを残しつつ、たくましく成長した、闘う男の声ものぞかせる。最初の頃に(禰豆子との闘いであったとはいえ)後ろに下がり気味だった炭治郎はここではぐいぐい前に前に出て剣を振るう。注目作の舞台版の主演に大抜擢された小林亮太は現在21歳。年齢的にはもう少年ではないとはいえ、少年を客観視しながら演じるにはいい時期のような気がする。舞台版『パタリロ』のビョルン&アンドレセン役や『僕のヒーローアカデミア The”Ultra”Stage』の爆豪勝己役など近年目覚ましい成長を感じる。3、4月の舞台公演が中止になってしまったことが残念だが、7月の『PLUS ULTRA ver.』に期待する。

炭治郎が雪の中をひとりで歩くところからはじまって、彼の精神の成長が技の成長と合わせてじょじょにじょじょに上昇していて大爆発する流れを2時間30分ノンストップで体感できただけで映像配信を見てよかったと思えた。「死ぬほど鍛える 結局それ以外にできることはないと思うよ」のセリフに尽きる舞台である。盛りだくさんで満足感たっぷり!