不安と迷いの中で…工藤遥が語った「モーニング娘。としての誇りとプライド」

アイドルは時代の鏡、その時代にもっとも愛されたものが頂点に立ち、頂点に立った者もまた、時代の大きなうねりに翻弄されながら物語を紡いでいく。モーニング娘。の歴史を日本の歴史と重ね合わせながら振り返る。『月刊エンタメ』の人気連載を出張公開。22回目は2017年のお話。

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2017年のニュースを改めて眺めていると、こんなにも「過渡期」という言葉がピッタリ当てはまる1年は他にあっただろうか、という気になってくる。

例えば2017年1月20日のアメリカ・トランプ大統領就任。自国第一主義を掲げる彼が超大国の代表者に選ばれたことは、1991年の冷戦終結からずっとグローバリズム拡大の流れにあった政治潮流が変化し始めたことを、これ以上ない形で全世界に知らしめた。

また日本国内でも、前年の天皇退位報道や国民的アイドルグループ・SMAP解散と重なる形で、2017年9月20日に平成の歌姫・安室奈美恵が芸能界からの引退を発表している。

しかし少なくとも2017年の段階で、慣れ親しんでいた日々が過去になっていく私たちの中では、反グローバリズムの世界が行き着く先も、次の元号も、平成のカリスマに変わる新しいスターも到底まだ見つけられていない。

あくまでも古いものと新しいものが入り混じる、変化の途中。だからこそ2017年は「過渡期」なのだ。一見迷いなくゴールを目指しているように見えても、そこには少なからず、手探りの不安や苦しさといったリアリティが存在する。

2017年のモーニング娘。についても、本当ならば「過渡期」という受け止め方が合っていたのだろうな、と今さらながらにして思う。



00年代のモーニング娘。を知る最後の世代であると同時に、再ブレイクの象徴となっていた道重さゆみが卒業を発表した2014年春以降、モーニング娘。は2016年末までの約2年で、道重を含めて3名の卒業者を送り出し、代わりに6名の新メンバーを迎え入れていた。

そしてこの2017年も、モーニング娘。はまだ上半期のうちから10期メンバー・工藤遥が年内での卒業を発表し、その直後には森戸知沙希が14期メンバーとして活動に合流しているのだ。

このメンバー変動のスピードは過去の例でいうと、高橋愛や新垣里沙といったプラチナ期の面々が卒業し、急激な世代交代が進んだ2010年~2012年頃のそれに近い。しかし実像がいまだ変化の途中にあった一方で、「モーニング娘。’17」と呼ばれていた計14名の女性たちは、この2017年ならではの大きな壁にぶつかる。2017年、それは1997年に誕生したモーニング娘。にとって、一度しかない結成20周年のアニバーサリーイヤーでもあったのだ。

テレビ・雑誌での特集企画や、結成20周年を祝うコラボカフェのオープン、結成20周年記念イベントに、誕生20周年記念コンサートツアー。「過渡期」のはずのモーニング娘。’17は節目に偶然居合わせたことで、自分たちの色が定まり切っていないにも関わらず、ステージでは常に20年分の歴史の代弁者として振る舞わなければならなかった。

平均年齢17・85歳だったモーニング娘。’17、特に加入3年以内の12~14期メンバー・7名にとって、その環境はどれだけのプレッシャーになっていたのだろうかと想像する。

「(自分たちは)新人感が否めない」(野中美希)「ときどき、“私って、モーニング娘。だっけ?”って思うことある」(羽賀朱音)「加入して、本格的にパフォーマンスを始めたのは今年なのに、20周年のお祝いをするのって……」(加賀楓)(※1)

“誕生20周年──伝統と革新”と銘打たれた雑誌の特集記事の中で、デビュー曲『モーニングコーヒー』を思わせる赤いチェックのスカートに身を包んでいた彼女たち。しかしその姿から漏れる本音には、やはりどこか迷いの心情がにじんでいた。



ただ、雑誌や映像をそのまま追っていると、2017年のモーニング娘。が過渡期と節目の狭間で隠しきれていなかったネガティブな感情は、やはり同年のある時期を境に、言葉から再び消え始めていく。その始まりはどこにあったのだろうと探していると、こんな象徴的なメッセージに辿り着いた。

13期メンバー加賀楓の証言によれば、それは2017年秋。結成20周年記念イベントのリハーサルで、卒業を約3カ月後に控えた10期メンバー工藤遥から後輩たち全員に伝えられたものだったという。

「モーニング娘。20年の歴史のなかで、ずっと過ごしてきたわけではなく、自分のことのように受け止めるのが難しいこともあるけど、誇りもプライドも持ってほしい」(※2)

そういえばと、ここで改めて工藤遥の歩みに思いを寄せてみる。『LOVEマシーン』の発売より後に誕生した工藤がモーニング娘。に加入したのは2011年、まだ11歳の頃。しかしその時点でグループはすでに彼女の人生よりも長い、結成14年の歴史を有していた。

過去を語れない少女が、それでも過去を意識しながら、モーニング娘。として生きていく日々。「歴史を自分のことのように受け止めるのが難しいこともある」というのはもしかすると、かつての工藤自身が抱え込んだ苦しさそのものだったのかもしれない。

しかし加入から6年、過去を語れぬ17歳はそれでも立派なモーニング娘。のメンバーとしてファンに愛され、次の夢に続くフィナーレを迎える。その未来を導いたものこそ、モーニング娘。としての「誇りとプライド」。歴史の重みを受け入れる勇気、変容の荒波を乗り越えるための揺るがぬ自信を、自分の中で持ち続けることだったのだ。

そして同じ悩みを抱えた彼女だからこそ伝えることができたそのヒントは、後輩たちを変え、やがてモーニング娘。そのものの意識も大きく変えていく。

「モーニング娘。に加入して、まだ自信がなかったとき、モーニング娘。にちゃんと私なれてるのかな?って思ってたときに、工藤さんは“モーニング娘。だよ”って、背中を押してくれました。その一言のおかげで本当に背中を押されたし、自信にもなりました」(森戸知沙希)(※3)

だからこそ、再び赤いチェックのスカートに身を包んだ2017年12月のモーニング娘。’17は、もう迷っていなかった。

結成20周年企画『モーニングコーヒー』(20th Anniversary Ver.)のMV撮影。工藤遥を見送った21年目のモーニング娘。は、同じ衣装を着た中澤裕子、石黒彩、飯田圭織、安倍なつみ、福田明日香の5人と、この日初めて顔を合わせている。


※1 ワニブックス『アップトゥボーイ』2017年10月号
※2 東京ニュース通信社『モーニング娘。’18密着ドキュメンタリーフォトブック「NO DAY , BUT TODAY 21年目に描いた夢たちVOL.1」』
※3 「モーニング娘。誕生20周年記念コンサートツアー2017秋~We are MORNING MUSUME。~工藤遥卒業スペシャル」2017年12月11日