九州大学(九大)が「オープンサイエンス プラットフォーム型卓越大学院」を始める準備を進めている。この大学院の狙いは、日本の製造業などの既存企業が競争力を復活させるために必要となる新しい価値観を持った製品・技術などの開発につながる人材育成を図ることである。

2020年4月時点の日本では、2020年3月中旬から新型コロナウイルス対策として、小学校から大学・大学院までほとんどの教育機関が事実上の休校措置を取らざるを得ない状況となっており、九州大学も4月に予定していた新たな卓越大学院の創設の公表を延ばさざるを得なくなった。そのため、現在は水面下で中身の拡充に努めており、5月の大型連休以降に公表する準備を進めている模様で、公表に併せて「オープンサイエンス プラットフォーム型卓越大学院」の正式名称も明らかにされる段取りになっているようだ。

日本は、モノづくり大国として製造業が1990年代、国内産業を盛り上げてきたが、2000年以降はソフトウェアの重要度が増し、優れたハードウェアとしての技術・性能を持ちながらもユーザーの真にほしいモノに必ずしも合わない製品・技術を市場に出して、市場シェアを握れないというジレンマに陥ってきた。

こうした市場の変化の裏で、日本の企業群は、イノベーションを起こすために必要な基礎研究の効率の悪さという難問に直面した結果、多くの企業が自社保有の基礎研究部門を縮小し、その代替として有力な研究大学に対して、基礎研究に基づく"実用化研究"を目指した産学連携に力を入れて対応してきた。しかし、元々、基盤研究が得意な有力な研究大学の大学院は、実用化研究にはやや不慣れで、成果をなかなか上げにくかった。

こうした課題を打開するために、九大は高度な研究成果を基盤にしながら、ユーザー志向を考えた"共感力"による価値の創造を目指すオープンサイエンス プラットフォーム型卓越大学院を開校することを決定した。

この卓越大学院では、業種を超えた企業群に参加を求め、その参加企業の研究者・技術者と九大の研究者・学生は、お互いに情報共有し、アイデア・情報を持ち寄って問題解決する場をつくる。この場合、ポイントになるのは「エビデンス型のデータサイエンスを基盤に、視点をバックキャスト方式で進めるオープンイノベーションの研究開発手法」という点である。そのため参加する企業は、九大と秘密保持契約を結ぶ必要がある。

実は九大は2019年度の1年間で10社ほどの企業とすでに、このオープンイノベーションの研究開発手法を予備的に実施しており、「その手法の価値を認めて、この企業群各社は同大学院への参加を表明している」という。

なお、現時点では、5月上旬に、この「オープンサイエンス プラットフォーム型卓越大学院」について同大から正式に発表が行われる見通しだが、日本での新型コロナウイルスの感染拡大対策の進展度合によっては、動きが変わる可能性もある。