さまざまな測定が可能なマルチメーター

「マルチメーター」は電子技術者にとって必須のアイテムです。マルチメーターは、電圧・電流・抵抗などの主要な電気的パラメータを測定することができ、問題解決の際に非常に有用であることが実証されています。長い時間をかけて広範な機能が搭載された結果、より強力で複雑なものになり、現在では、静電容量や周波数、温度などの測定にも使用できるようになっています。

マルチメディアモデルの価格は、搭載されている機能と、測定精度のレベルによって異なります。現在アナログとデジタルの両方がありますが、コストパフォーマンス、耐久性、高精度の観点から、デジタルマルチメーターが広く普及しています。しかし急激に変動する値の測定など、用途によっては、デジタルマルチメーターよりアナログマルチメーターが選択されることもあります。

また近年、デジタル化と高度な技術の導入により、ワイヤレスハードウェアと接続したスマートマルチメーターで、クラウドベースでのデータの管理/ストレージが可能になっています。この機能を備えた製品の一例として、FLIR Systems社の2.8インチTFTディスプレイDM285 産業用イメージングマルチメーターがあります。このマルチメーターにはBluetooth接続が組み込まれており、FLIR Toolsモバイルアプリケーション(Android、iOS両方で使用可能)によるワイヤレスデータ転送が可能です。

従来、デジタル装置の較正は、装置内部でいくつもの微調整(やすり掛けやはんだ付けをすることで高電流領域のシャント抵抗値を調整するなど)によって行われていました。しかし現在ではマルチメーターの技術的進化により、そのような調整は不要になっています。システムのマイクロプロセッサ内部の較正ソフトウェアを使用することで調整が可能です。このプロセスにより、較正に要する時間とコストを低減し、精度を向上させることができます。

優れたマルチメーターには、AC/DC電圧信号や電気抵抗を測定するために、さまざまな電圧を処理する能力が求められます。一方で、要件に最適なマルチメーターを選択するには、他にもさまざまなパラメータを検討しなければなりません。まずは、製品に何を求めるかを明確にすることが重要です。マルチメーターを選ぶ過程で考慮すべき事項を詳しく見てみましょう。

1. 分解能と精度

分解能とは、(最小の範囲設定で)マルチメーターが検知し、ディスプレイに表示される、特定の測定における最小値のことです。

精度は、マルチメーターが特定のパラメータを測定できる確実性を表し、対象とするパラメータの測定値と実測値を比較したパーセンテージとして示されます。お気づきのように、これはマルチメーターを選択するうえで非常に重要な検討事項のひとつです。

高い精度を特徴とする現行の製品シリーズとしては、Keysight Technologies社のU1240Bが挙げられます。このシリーズは、コンパクトで軽量なハンドヘルド型デジタルマルチメーターで、DC電圧精度0.09%という優れた特性を持っています。10,000カウントのデュアルLCDディスプレイを備えているため、測定値が最小読み取り値まで明瞭に表示されます。

  • キーサイト

    図1:Keysight製U1240Bハンドヘルド型デジタルマルチメーター

2.応答時間とデータロギング

マルチメーターユニットの応答性も、重要な属性です。アナログマルチメーターでは高速な測定が可能ですが、測定データを保存するように設計されていません。測定データの保存は、クイックレスポンスのマルチメーターでは中核的な要件になる機能です。多くのデジタルマルチメーターがデータロギング機能を備えており、特定のパラメータのデータを非常に高いサンプリングレートで捕捉します。取得したデータは、分析用に保存しておくことができます。

3.入力インピーダンス

マルチメーターモデルに表示される入力インピーダンスは、メーター固有の感度と選択された測定範囲に応じて大きく異なることがあります。

すべてのデジタルマルチメーターと、電子増幅器を備えた一部のアナログメーターは、回路を妨害することがほとんどない、一定の入力インピーダンスを提供しています。一般的にハイエンドのマルチメーターは、10V以下の電圧範囲で10GOhmsを超える入力インピーダンスレベルを実現しています。

4.オートレンジ機能

オートレンジはデジタルマルチメーターの動作に実質的な価値を与える機能であり、普及が進んでいます。オートレンジ機能は簡単に言えば、測定対象とするパラメータの範囲(静電容量、電圧、抵抗など)を自動的に検出する機能です。この機能により、試行錯誤的な手法でパラメータ値の範囲を推測していく、面倒な作業から解放されます。オートレンジマルチメーターは比較的高価ですが、それによって短縮される時間を考慮すれば、価格に見合った価値があると言えます。

5. True RMS

ほとんどのデジタルマルチメーターでは、AC波形の平均値を測定し、RMS(二乗平均平方根)形式で示しています。実際の波形は理想的な正弦波とは異なるため、正確なRMS値を計算するには、そのための適切なマルチメーターモデルを選ぶ必要があります。

正確なRMS読み取り値を実現しているデジタルマルチメーターは比較的高価ですが、それによって得られる精度の向上を考慮すれば、価格に見合っていると言えます。

このような製品の例としては、EXTECH Instruments社の検電器内蔵MN62-K 600V定格マルチメーターが挙げられます。このユニットは正確なRMS機能を備えているため、信号が歪みの影響を受ける、ノイズの大きな環境でも正確な測定が可能です。電圧制御された低域フィルタが組み込まれているため、このマルチメーターでは、可変周波数駆動信号を正確に読み取ることができます。

  • EXTECH

    図2:EXTECH製 MN62-Kマルチメーター

6.その他の測定

デジタルマルチメーターは、電流、電圧、抵抗などの標準的なパラメータに加えて、非常に広範な測定に対応できます。

温度、静電容量、周波数、さらにトランジスタ関連の測定も可能です。たとえばFLIR Systems社のDM62/DM66 True RMS産業用マルチメーターは、これらすべての測定機能を備えています。そのため、電気技師、保守技術者、オートメーション現場サービス技術者などの技術者が、システムのテストや障害診断に活用しています。MN62-Kと同様に、600Vでの動作が確保されています。

7.強度と安全性

マルチメーターを選ぶ場合は、堅牢性と動作の安定性が十分にテストされ、適切な安全性評価がされているかを確認することが重要です。

マルチメーターユニットは、連続使用の下でも妥当な耐用年数が得られることが求められます。同時に、安全性の観点から、十分な二重絶縁、コンポーネントの間隔、入力保護がすべて確保されていることが重要です。それにより、使用者の負傷とメーターの損傷の両方を回避できます。

最適なマルチメーターの選択に必要なもの

特定の作業に適したマルチメーターを選ぶことは、必ずしも容易ではありませんが、ユニットに搭載されている機能とユニットが必要とされている用途について正確に把握していれば、選択の難しさは軽減されます。すでに多様なモデルが発売されており、また革新的な製品が次々に開発されていることから、強力な性能と広範な機能を備えたマルチメーターが必ず見つかるはずです。

著者プロフィール

Mark Patrick(マーク・パトリック)
Mouser Electronics
テクニカル・マーケティング・マネージャ

Mouserでヨーロッパ地区向けの技術コンテンツ(ホワイトペーパー、ブログ)の作成を担当