物質の最小単位である素粒子のニュートリノと、対になる「反粒子」の反ニュートリノの性質が異なる可能性が高まったとする実験結果を、高エネルギー加速器研究機構などの国際研究グループが発表した。今後の実験で確定すれば、物質の起源や宇宙の進化の解明につながると期待される。英科学誌「ネイチャー」電子版で日本時間16日に発表した。

実験は高エネ研や東京大学宇宙線研究所など12カ国の大学や研究機関で構成する「T2K実験国際共同研究グループ」が実施した。茨城県東海村の実験施設「J-PARC」から295キロ離れた岐阜県飛騨市神岡町の観測施設「スーパーカミオカンデ」に向け、ニュートリノの一種であるミューニュートリノと反ミューニュートリノを発射。それぞれが電子ニュートリノ、反電子ニュートリノに変化する確率に違いがあり、性質が異なるのかを調べた。

  • alt

    実験の概要(T2K実験国際共同研究グループ提供)

2009〜18年の実験の結果、スーパーカミオカンデで電子ニュートリノを90個、反電子ニュートリノを15個観測した。これは電子ニュートリノが生じる確率が最大になり、反電子ニュートリノが生じる確率が最小になる場合の予想に近かった。結果の信頼度は99.7パーセントという。

  • alt

    電子ニュートリノ(左)と反電子ニュートリノを観測したスーパーカミオカンデのデータ(T2K実験国際共同研究グループ提供)

グループは17年、ニュートリノと反ニュートリノの性質が異なることを95パーセントの信頼度で示した。今回はさらに踏み込み、変化の仕方を基に、性質がどのように違うのかを高い信頼性で示す世界初の成果となった。ただ、いずれも発見とするには不十分で、さらにデータを蓄積し信頼度を高める必要がある。今後はJ-PARCの装置を改良し、精度を高めて実験を続ける。また研究者らは、スーパーカミオカンデより性能を大幅に高めた後継施設「ハイパーカミオカンデ」を使った実験を27年に始める計画だ。

素粒子には、身の回りにある物質を構成する粒子と、一部の性質が反対の反粒子がある。138億年前の宇宙誕生時には粒子と反粒子が同数あったが、両者の性質が違うために反粒子がほぼ消滅し、現在は粒子ばかりが存在する。この現象は「CP対称性の破れ」と呼ばれ、小林誠、益川敏英両氏が仕組みの理論を提唱し、実験で証明されて08年にノーベル物理学賞を受賞した。ただ、CP対称性の破れはまだ一部の素粒子でわずかに見つかったに過ぎず、現在の宇宙にある物質の量を説明しきれていない。

一方、ニュートリノとその反粒子の反ニュートリノではCP対称性が大きく破れている、つまり性質が大きく異なっているとの仮説がある。解明すれば、宇宙に物質があふれている理由を突き止める大きなヒントになるかもしれない。そこでニュートリノでの破れの発見を目指し、この実験が続いている。実験名のT2Kは「東海 to 神岡」を意味する。

グループの中平(なかだいら)武・高エネ研素粒子原子核研究所准教授(高エネルギー物理学)は「ニュートリノのCP対称性の破れを発見し、さらにどのように破れているかが分かれば、理論と照らし合わせ、宇宙の誕生についての議論が深められる。今回の成果はその重要なステップとなった」と述べた。

関連記事

「仁科記念賞に松田祐司、小林隆、中家剛氏」

「T2Kで反ニュートリノ実験が始動」