銃乱射事件の教訓はどこへ、アメリカで急増する銃所有者に密着

グレッグ・オフナーさんはこれまで、銃が欲しいと思ったことは一度もなかった。38歳の彼は米ペンシルベニア州ウェインの士官学校の出身で、そこで初めて銃器の安全な使い方を教わった。成人してからはよく射撃場に通っていたが、毎回満足してレンタルした拳銃やショットガンを快く係員に返却した。

だが3月半ば、オフナーさんの気持ちに変化が見え始めた。新型コロナウイルス・パンデミックが全米に広がり、オフナーさんが住むペンシルベニア州でもバーやレストラン、店舗が閉鎖された。フィラデルフィア警察が窃盗や詐欺、薬物違反などの非暴力犯罪の逮捕の保留を発表したとき、オフナーさんは社会秩序の転換が間近に迫っているのを感じた。街が突然無法状態になるなら、自分の家は確実に安全な状態にしておきたかった。数日後、オフナーさんは近所の銃販売店へ車を走らせ、拳銃を1丁購入した(第1希望のショットガンは品切れだった)。「妻が妊娠しているんです」と、オフナーさんはローリングストーン誌に語った。「なので僕らが住んでいる地域を考えれば、必要なときにないより、必要でなくても持っていた方が良い物だと思いました」

かつてないほど、国内至るところでアメリカ人が銃を購入している。ニューヨーク・タイムズ紙の分析によると、3月中に販売された銃の数は200万丁近くに上り、1カ月間の売上数としては歴代2位を記録したた。昨年3月にFBIが処理した銃購入者の身元調査は260万件、今年2月は280万件だったのに対し、2020年3月は370万件――この20年間で最も多い。3月16日の週だけでも120万件の身元調査が行われ、FBIのデータによれば、1週間の処理件数としては1998年以来最多だ。弾薬通販サイトAmmo.comの発表によれば、コロラド州、アリゾナ州、テキサス州では2月末以降、弾薬の購入が10倍も増加したという。

社会危機が銃の売上を加速させたのは、今回のパンデミックが初めてではない。9.11同時多発テロの後、銃器の売上は増加した。ハリケーン・カトリーナを受け、ルイジアナ州で銃購入件数が急増した(ハリケーン直後、ニューオリンズ警察によって押収された武器も多かった)。サンディ・フック銃乱射事件では一気に跳ね上がった――2013年1月は、銃の月間売上数としては今でも歴代1位に挙がっている。


銃購入は精神的支え

ウイルス本来の危険は生物学的なものだが、最近銃器や弾薬を購入した多くの人々は、パンデミックの波及効果によって社会規範が崩れるのではないか、と恐れている。新たに失業者となった人々が抱える経済的窮状、政府の不十分かつ遅すぎる対応、日用品不足などが相まって、何としても自分の身は自分で守らねば、というアメリカ人の本能が呼び起こされたのだ。事実、2016年にハーバード大学とノースイースタン大学がアメリカの銃所有者を対象に行ったアンケートによると、銃器購入の主な理由は護身、自衛だった。「多くの人々にとって、(銃は)気持ちをコントロールするものなんでしょうね」とオフナーさんも言う。「大人にとっての、温かい毛布のような存在なのかもしれません」

だが相次ぐ銃乱射事件で絶えず心を痛めているアメリカで、新たに200万丁の武器が出回り、その一部は今まで銃を所有したこともない人の手に渡ると、どんな長期的影響が出るのだろうか?

3月23日、インディアナ州のエリック・ホルコム知事が自宅待機命令を発令すると、インディアナポリス在住のジョン・Kさんは銃を購入しようと決意した。オフナーさん同様、彼も銃器の扱いには慣れており、射撃場ではレンタルの銃を使っていたが、自ら所有したことは一度もなかった。新型コロナウイルスの流行以前にも射撃の練習用に拳銃の購入を考えていたが、実行に移すことはなかった。だが、連邦政府のパンデミックへの「無責任な」対応を見た40代前半のジョンは、万が一必要に迫られたときに家族――妻と10代の子供たち――を守る術が欲しいと思った。「万が一何かあった場合に備えて、準備しておいた方が良いと考えるのはおかしなことではありません」と彼は言う。「社会が崩壊するとは思いませんが、もしそうなったときに家族を守る術がなかったら、自分なら相当後悔すると思います」


使い方も法律も知らない人の手に銃が渡る恐怖

いつもの射撃場内の店で、ジョンは妻と一緒に長蛇の列に並び――「ソーシャル・ディスタンシングという点では、あまりよろしくないでしょうが」――残り少ない在庫の中から1丁の拳銃を選んだ。それから1時間足らずで、彼は人混みをかき分け、身元調査をクリアし、銃を購入した。「こんなに大勢の人が一度に店に集まって、どんな銃でも買おうとする光景は異様でしたね」とジョン。「明らかに貯金箱の小銭で銃を買っていた男性もいましたよ」

・ほぼ空になった銃販売店の陳列棚

客の多くは初めて銃を購入する人々で、火器の扱い方もよく知らないのではないか、とジョンは感じている。「不安ですね」と彼は言う。「店に入って1時間もしないうちに拳銃を手にして店を出られるなんておかしいですよ。普段からこんなことが出来る必要なんて完全にないし、根本的に危険です。安全訓練も受けず、火器を使ったこともない人が銃を買えるなんて、どうかしている」

全米で封鎖が施行される前、どこの銃器販売店にも人が押し寄せ、品切れが続出した。店主たちは特に、銃購入に関する州の法律を知らない客の対応に追われた。ニュージャージー州グラスボロにあるBobs Little Sport Shopの副社長、ウェイン・ヴァイデン氏によると、店員たちは何度も、銃を購入してもその日自宅に持ち帰ることは出来ない、と客に説明しなければならなかったという(ニュージャージー州では、銃の所有希望者はまず火器購入者識別カードに申請しなければならない。申請処理には30日以上かかることもある)。「この2週間で『識別カードって何ですか?』『拳銃許可証って?』という質問を、1年分以上聞かされました」

同様にテキサス州オースティンのCentral Texas Gun Worksでも、インターネットでの購入希望者や身元調査の手続きに関してまで、客からの質問が殺到した。「最初の頃は1時間に100件も電話がかかって来て、しまいには混み過ぎてこちらから電話をかけることも出来ない状態でした」と言うのは、オーナーのマイケル・カーギル氏。公共での拳銃の携帯も認められているテキサス州の銃の法律について客に説明することも多い。


銃は家庭内暴力をエスカレートさせる

訓練を受けていないであろう新規銃所有者が増大すれば、すでに収拾がついていない状況がさらに悪化しかねない、と革新的シンクタンクCenter for American Progressの銃規制部門副会長チェルシー・パーソンズ氏は言う。「私が特に心配なのは、今銃の購入を選択した人たち、特に今回初めて銃を購入する人たちは、不安や恐怖に駆られて決断しているという点です」 。家に銃器を常備していると、自殺や殺人の危険が増加する、という研究結果もある。法と秩序の崩壊に対する恐れや社会的孤立による認知ストレスで、殺人や自殺が増える可能性をパーソンズ氏は懸念している。

封鎖や自宅待機命令が原因で家庭内暴力が世界中で急増する中、銃規制を訴えるNPO団体Everytown for Gun Safetyのジョン・ファインブラット会長は、駆け込み購入によって銃器が虐待者の手に渡るのではないか、と危惧している。「ストレスが長期にわたるような状況では家庭内暴力が急増することがわかっています」とファインブラット氏は言う。「銃が身近にあることで、虐待者が女性の被害者を殺害する可能性が5倍に膨れ上がります。ですから政治家にはこれまで以上に、虐待者の手に銃が渡らないようにすることが求められています」

全米ライフル協会(NRA)はパンデミックを利用し、銃を持つ権利を主張している。協会は銃器販売業者を閉鎖の対象にしたニューヨーク州とカリフォルニア州を訴え、両州が銃の販売店を不要不急の業務に分類したことを嘆くプレスリリースを発表した。「自衛のために銃を使用したことがある人なら、誰一人として不要不急だとは考えないでしょう」 とNRAのウェイン・ラピエールCEOは声明の中で述べた。

協会の主張からは新規銃所有者への安全対策を考慮せず、必死に守りに入る姿勢が見て取れる。代わりにNRAはパンデミックに合わせて自衛のために銃を購入することをTwitterで推奨し、記録破りの売上数について「銃を憎む政治家はこれが気に入らないようだが、パンデミックで銃販売店を閉鎖しつつ、囚人を釈放しておいて、一体彼らは何がしたいのか」とツイートした。


怯えた人々はさらに武器を手にする

パーソンズ氏は協会のこうした対応を「全くもって無責任」だと評した。「武器の正しい収納方法を指導し、リーダーシップを発揮する良い機会でしたのに」

「彼らは安全推進には関心がないんです」と、ファインブラット会長も同意見だ。「彼らは銃の売上を伸ばすことにしか興味がありません。そのために彼らはアメリカの一般大衆を震え上がらせます。今やっているのがまさにそうですね――その度に必ず、憲法修正第2条を盾にするんです」

パンデミックに関連した銃絡みの事件はすでに起きている。ニューメキシコ州では、新型コロナウイルスから身を守るために購入したという銃で、男性が13歳のいとこを誤って射殺した。ジョージア州の男性は新型コロナウイルスをうつされるのを恐れ、医療用マスクと手袋をした2人に銃を突きつけ、逮捕された。メイン州では銃所持違反で男性1人が警察に逮捕された――パンデミック中に自分の身を守るのに銃が必要だったと言う。

漠然とした不安や失業など、パンデミックが引き金となった心理的・経済的ストレス要因は事態が終息しても改善しない傾向にあり、銃による自殺や死亡事件が急増しかねない、とファインブラット氏は言う。銃による事故や犯罪を防ぐべく、Everytownは各州の知事や地元議員と協力して、適切な銃の収納方法の普及、厳格な身元調査の実施(現行の連邦法では、72時間以内に身元調査が完了しなかった場合、購入者はそのまま銃を所有出来る)、家庭内暴力被害者が接近禁止命令をすぐに得られるようにする、などの措置を進めている。

そうは言っても、今後の行く末が個人の力の及ばない状態にある今、一部の人々にとって唯一取れる行動は、差し迫った危険に備えることだけだ。「これからもっとひどい状況になると思います」 。名字は伏せ、ジェニーとだけ名乗るニュージャージー州南部在住の女性は言う。「自分と家族を守れる状態にしておかないと」

狩猟一家に生まれたジェニーはすでに2丁のピストルと数丁の拳銃を所有しているが、コロナウイルス・パンデミックをきっかけに、今までよりもかなり多めに弾薬を購入するようになり、すでにAmmo.comとCheaperThanDirt.comで注文済みだ。「うちは世界滅亡に備えたプレッパーではありませんが、まさかの事態には備えています」と、48歳の彼女は言う。近所で車強盗があったというFacebookの投稿を目にしてからは、犯罪がエスカレートするのは時間の問題だと恐れている。過去にも自暴自棄になった人がどんな行動をするか目の当たりにして来た、と彼女は言う。そして仕事も収入も失った人々は、まさに自暴自棄の一歩手前まで来ている。

「銃を持つ人間として言わせてもらえば、私たちの狙いは――銃にかけたわけではありませんが――人を殺すことではありません」とジェニー。「ここは私の家、私の敷地です。誰かが押し入って家族を傷つけようものなら、自分たちで身を守る以外にありません。だからしっかり準備をしておかなければいけないんです」

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