中国がロケットの打ち上げに失敗

中国は2020年4月9日、主力ロケット「長征三号乙」の打ち上げに失敗した。ロケットにはインドネシアの通信衛星「ヌサンタラ・ドゥア」が搭載されていたが、ロケットともに失われた。

長征三号乙は、静止衛星や測位衛星、商業衛星などの打ち上げで活躍する大型ロケット。また中国は先月、長征三号乙の後継機となる新型ロケットの打ち上げにも失敗しており、今後の同国の宇宙計画に大きな影響が及ぶ可能性がある。

  • 長征三号乙

    通信衛星「ヌサンタラ・ドゥア」を載せた「長征三号乙」ロケット (C) Pasifik Satelit Nusantara (PSN)

打ち上げ失敗の概要

ヌサンタラ・ドゥアを載せた長征三号乙は、日本時間4月9日20時46分(現地時間19時46分)、四川省にある西昌衛星発射センターから離昇した。

しかしその後、中国国営メディアは「打ち上げは失敗した」と報道した。詳細は不明だが、ロケットの3段目機体に問題が起きたという。

ロケットは軌道に乗ることなく、太平洋上空で大気圏に再突入した。グアムでは、再突入したロケットが、流れ星のように空を横切る様子が目撃されている。なお、グアム島への破片の落下などは確認されていない。

ヌサンタラ・ドゥア(Nusantara Dua)は「パラパN1(Palapa-N1)」とも呼ばれ、インドネシアの通信会社インドサット・オーレドゥとパシフィック・サテリット・ヌサンタラの合弁企業PSNS(Palapa Satelit Nusa Sejahtera)が運用するはずだった衛星。製造は中国国有の宇宙企業、中国空間技術研究院(CAST)が担当した。

打ち上げ時の質量は約5550kgで、ハイスループット衛星(HTS)と呼ばれる、Ka帯を使用して多数のマルチビームと中継器を装備し大容量衛星通信を実現する技術を装備し、ブロードバンドインターネットアクセスと高品質の放送サービスを提供するために使用される予定だった。

インドサット・オーレドゥは2009年から「パラパD(Palapa-D)」という通信衛星を運用しており、今回打ち上げられたヌサンタラ・ドゥアは、老朽化したパラパDを代替することが予定されていた。

なお、パラパDも長征三号乙で打ち上げられたが、その際にも3段目機体に異常が発生し、予定していた軌道に投入することができなかった。その後、衛星側が搭載しているスラスターで軌道を上げ、当初予定していた静止軌道に到達することはできたものの、衛星の寿命は短くなってしまっている。

PSNによると、今回の打ち上げには保険がかかっているため、打ち上げ失敗による損失などは保護されるという。また、インドネシアの現地メディアによると、今回の失敗によって即座にテレビやラジオの放送が中断することはないとしている。

ただ、パラパDは、前述の打ち上げ時のトラブルにより、寿命が今年7月に迫っていることから、今年後半以降には通信・放送サービスに影響が出る可能性があるという。そのためPSNは、代替衛星の確保を検討するとともに、新しい衛星の構築に取り組んでいくとしている。

  • 長征三号乙

    打ち上げに失敗したヌサンタラ・ドゥア(パラパN1)の想像図 (C) Pasifik Satelit Nusantara (PSN)

打ち上げ失敗が中国の宇宙開発に与える影響

長征三号乙は中国が運用する主力ロケットのひとつで、主に静止衛星や測位衛星などの打ち上げに使われている。

基本的な設計は、中国が1960年代に開発した大陸間弾道ミサイル「東風5」、およびそれを発展させて開発された衛星打ち上げ用ロケット「長征二号」をもとにしており、2段式ロケットの長征二号を改良するとともに、新たに液体酸素を液体水素を推進剤とする3段目機体を搭載することで、静止衛星の打ち上げ能力を獲得した。

初期型の「長征三号」は1984年に打ち上げられ、1994年からは改良型の「長征三号甲」がデビュー。そして1996年には、ブースターを4基装備して打ち上げ能力を大きく向上させた長征三号乙が登場した。

さらにその後も、長征三号乙のブースターに改良を加えるなどし、静止トランスファー軌道への打ち上げ能力が最大約5500kgにまで向上。これは世界でも比較的高い性能であり、また2016年に超大型ロケット「長征五号」が登場するまでは、中国最大のロケットでもあった。

また、2008年にはブースターを2基にし、長征三号甲と乙のちょうど中間の性能をもった「長征三号丙」もデビューしたほか、2015年には4段目を搭載し、衛星を静止軌道に直接投入したり、複数の衛星をそれぞれ異なる軌道に投入したりできる機体も登場している。

こうした性能や能力を背景に、中国の通信衛星や測位衛星「北斗」の打ち上げで活躍しているほか、今回のように他国の衛星の打ち上げにも多用される、まさに稼ぎ頭でもある。これまでに124機が打ち上げられており、失敗は7機。また、近年は失敗がほとんどなく、世界でも信頼性の高いロケットのひとつでもあった。

今回の失敗の原因とされる3段目機体は、長征三号甲や丙など他の機体にも使用されているため、今回の打ち上げ失敗による影響は広範囲におよぶことになりそうである。

また、長征三号は設計が古くなりつつあることから、新型ロケット「長征七号甲」が開発されたが、2020年3月17日に初の打ち上げを行うも失敗に終わっている。

中国にとっては1か月足らずで2回の打ち上げ失敗となり、それも主力ロケットと、その後継機が相次いで失敗したことで、中国の宇宙開発は、短期的にも長期的にも、そしていくつもの点で、大きな困難に直面することになった。

参考:中国、新型ロケット「長征七号甲」が打上げ失敗 - 今後の宇宙計画に影響も

参考文献

BERITA PERS - Satelit Nusantara Dua Mengalami Anomali ketika Mengangkasa - Pasifik Satelit Nusantara
BERITA PERS - PSN dan Pintar Komitmen Lanjutkan Bangun Kapasitas Satelit di Indonesia - Pasifik Satelit Nusantara
Long March 3B fails during Indonesian satellite launch - NASASpaceFlight.com
LM-3B - CGWIC
DFH-4 BUS - CGWIC

鳥嶋真也(とりしましんや)

著者プロフィール

宇宙開発評論家、宇宙開発史家。宇宙作家クラブ会員。

宇宙開発や天文学における最新ニュースから歴史まで、宇宙にまつわる様々な物事を対象に、取材や研究、記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。

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Twitter: @Kosmograd_Info