次世代の時間標準の有力候補である「光格子時計」の可搬型のものを開発し、一般相対性理論を基に高低差を計測して性能を確認したと、理化学研究所開拓研究本部香取量子計測研究室の高本将男専任研究員、東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻の香取秀俊教授などの研究グループが7日発表した。社会での幅広い利用の可能性を示す成果として注目される。実験には東京スカイツリー(東京都墨田区)を利用した。

グループはこれまで実験室に据え置かれていた光学装置や制御装置などを小型化して集約し、新たに可搬型の光格子時計を開発。これを東京スカイツリーの地上階と展望台の2カ所に置き、それぞれが示す時間の進み方の違いを計測した。その結果、展望台では1日あたり4.26ナノ秒(ナノは10億分の1)、地上よりも時間が速く進んでいた。この差を基に、両者の高低差が452.603メートル、不確かさ39ミリであることが求められた。一方、確認のためにレーザーで高低差を測ると452.596メートル、不確かさ13ミリとなり高精度で一致した。可搬型光格子時計が、従来の実験室のものと同程度の性能を発揮することが示された。

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    東京スカイツリーを利用した可搬型光格子時計の実験の概要(香取秀俊東京大学教授提供)

光格子時計は、ストロンチウムなどの原子が特定の周波数を持つ光を吸収することを利用して時間を計測するもの。誤差は100億年に1秒で、1秒の長さの現行の国際標準であるセシウム原子時計の約100倍の高精度を持つ。香取教授(量子エレクトロニクス)が2001年に提唱し、14年に開発した。

一般相対性理論によると、標高が低く重力が大きい場所は、高い場所より時間がゆっくり進む。光格子時計はごくわずかな時間変化を計れるため、高低差の計測に応用できる。高精度の測位、火山活動による地殻変動の監視といった防災など、幅広い応用が期待されている。16年には約15キロ離れた2地点の15.16メートルの高低差を、実験室の時計で求めることに成功している。

香取教授は「これまで宇宙規模のことのように考えられていた一般相対性理論の効果が、光格子時計によって地上の実社会で役立つ計測対象になる。利用しやすい可搬型を開発したことは大きなステップになった」と述べている。

研究は理化学研究所と東京大学、国土交通省国土地理院、大阪工業大学で構成するグループが島津製作所と共同で実施。日本学術振興会の科研費特別推進研究、科学技術振興機構の未来社会創造事業「クラウド光格子時計による時空間情報基盤の構築」の一部支援を受けた。成果は英国の光学専門誌「ネイチャー・フォトニクス」に日本時間4月7日に掲載された。

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