前職の職場で人間不信に陥ってしまい退職してしまったという57歳の男性会社員。元上司の尽力で転職できたものの、そこでもやる気は回復できず、できれば退職・早期リタイアをしたいが、上司への義理も感じているとのこと。ファイナンシャル・プランナーの深野康彦さんがアドバイスします。

◆望ましい退職時期やフルリタイアが可能かどうか教えてください
皆さんから寄せられた家計の悩みにお答えする、その名も「マネープランクリニック」。今回の相談者は、前職の職場で人間不信に陥ってしまい退職してしまったという57歳の男性会社員。

元上司の尽力で転職できたが、そこでもやる気は回復できず、できれば退職・早期リタイアをしたいが、上司への義理も感じているとのこと。ファイナンシャル・プランナーの深野康彦さんがアドバイスします。

◇相談者
ヒゲダルマさん(仮名)
男性/会社員/57歳
東京都/持ち家・一戸建て

◇家族構成
妻(55歳/パート)

◇相談内容
学卒で入社した中堅企業に57歳まで勤め、去年退社しました。会社が不祥事を起こし、その結果業績が急降下。銀行から立て直しの人が来た結果、会社のポリシーや社風まで変わってしまい、やりがいを失ったうえ、遂には人間不信に陥り退社に至りました。

退社直前の年収は1000万円強でした。その後元上司に尽力いただき、半年前から今の会社で働き始めましたが、やる気を取り戻せず、早期完全リタイアを考え始めております。

尽力してくれた元上司の手前上、何とか60歳までは今の会社で頑張ろうとは思いますが、60歳まで勤めれば、その後は完全リタイアしても大丈夫なのか、極端な話、今すぐリタイアしても大丈夫なのか、診断をお願いします。

なお、今後生活のダウンサイジングをはかり、早期に月額25万円(年間300万円程度)で生活できるよう見直していきたいと思います。

◇家計収支データ
ヒゲダルマさんの家計収支データは図表のとおりです。
相談者「ヒゲダルマ」さんの家計収支データ

◇家計収支データ補足
(1)住宅について
自宅の住宅ローンはすでに繰上返済で完済。自宅の他、数年前に建てた別荘を保有。固定資産税などの管理費は以下。

・自宅=固定資産税/年12万1800円
・別荘=固定資産税/年7万6500円、管理費/年15万1200円(水道料金込み)、別荘地区の住民税/年5500円

住宅のリフォームは10年以内に水回りを中心に300万円ほど、別荘は板壁の再塗装に100万円ほどの予算を考えている。

(2)別荘について(相談者コメント)
当初、贅沢かとも思いましたが、もともと子どもに恵まれなかったため思い切って建てました。

リタイア後は、ここでくつろぐ時間を増やしたいゆえ、すぐには売却したくありませんが、クルマの運転があやしくなる70歳までには売却を予定しています。

評判の良い別荘地にあり、直近の査定では2000万円ほどと査定されました。少なくとも1500万円程度での売却が可能と考えております。

(3)車両費について
クルマは1台(現金購入)、3~5年後に買い替え予定。200万円程度の中古車を考えております。

<維持費内訳>
自動車税:年4万5000円、車検:2年12万円、任意保険:年2万3000円、ガソリン代:月1万5000円、高速代:月1万円

(4)加入保険について
夫/共済健康保険=月2400円
妻/がん保険=月5000円
共済の災害保険=年4万9000円

(5)年金について
●本人:65歳から受給した場合:17万7000円/月
上記は前職在籍時点に「ねんきん定期便」に記載された額。その後、5カ月間無職だったこと、現在の給与が前職より下がったことから、年金額は上記よりも少なくなると予測。

●妻:63歳から受給した場合:4万8000円/月(厚生年金の特別支給分)
65歳から受給した場合:11万円/月(厚生年金+国民年金)

(6)ボーナスの使いみちについて(昨年例)
家電品等の買い替えに50万円、旅行10万円、貯蓄40万円

(7)退職金について
退職一時金制度がありますが、対象は5年以上の勤務者。他に60歳まで勤務すれば、持株会+企業確定拠出年金(64歳時におりる)合計で230万円となる。前職での退職金1750万円。定期預金に含まれている。

(8)妻のパート勤務について
少なくとも65歳まで、健康であればそれ以上まで続ける可能性あり。

◇FP深野康彦の2つのアドバイス
アドバイス1:すぐに退職、即リタイアでも資金的に問題なし
アドバイス2:「義理」よりも「自分」を優先させる

◆アドバイス1:すぐに退職、即リタイアでも資金的に問題なし
現在の勤務先を即退職、リタイアをした場合のキャッシュフローを見ていきましょう。

設定として、ヒゲダルマさんは退職後、働くことはしない、つまりフルリタイアとし、奥様は65歳までパートを継続。また、リタイア後の生活費ですが、想定されているとおり年間300万円、月額25万円とします。

生活費からパート収入を差し引くと16万7000円、年間で約200万円の赤字です。ヒゲダルマさんが65歳を迎えるまでの8年間で1600万円。これを貯蓄から差し引くと、手持資金は4000万円(利息分考慮せず)ほど。

さらに、大きな支出とクルマの買い替え費用に200万円、自宅と別荘のリフォーム費用に400万円が今後想定されるとのことですから、手元に3400万円が残ります。

65歳からは公的年金の支給となります。言われているとおり、休職期間や定年まで勤務しないとなると、「ねんきん定期便」に表記されている金額より下がるでしょう。

また、奥様もこの時点で2年間、厚生年金の特別支給分4万8000円を受け取ります。したがって、税、社会保険料を差し引いた手取り額で18万円前後でしょうか。

これにパート収入を加えた26万円ほどが月額の世帯収入。結果、少なくともこの2年間は、普段の生活費に対して貯蓄=老後資金を取り崩すことはないということになります。

先の設定では67歳以降、奥様もパートを辞め、世帯収入は年金だけとなります。受給額は手取額で23万円とすると、毎月2万円の赤字。30年間で720万円。それでもまだこの時点(ヒゲダルマさん97歳)で2700万円近くが残ることになります。

もちろん、生活費以外にまとまった支出が発生する可能性は当然あります。住宅の修繕・リフォーム費用、病気・介護費用、もう1回クルマを買い替えるかもしれません。それでもそれらが一般的なコストなら、予備費として1000万円もあればとりあえず対応できるのでは。

さらにいえば、別荘をいずれ売却するとのこと。想定より価格が下がったり、あるいは売却コストが増え、手にするのは1000万円になったとしても資金的には十分過ぎるほどの余裕となるでしょう。

つまり、結論としては、今すぐ退職して、そのままフルリタイアされても資金的にはほぼ心配は要らないと考えていいでしょう。安心してください。

さらにいえば、ボーナスから捻出していた年間の旅行費用10万円は先の試算には考慮していませんが、20万~30万円を支出したとしても資金的には何ら問題ありません。

◆アドバイス2:「義理」よりも「自分」を優先させる
これまでの試算は、ヒゲダルマさんがもっとも早く退職するケースです。ご相談文では、定年まで勤務することも選択肢にはあるようですが、そうなれば言うまでもなく、資金的余裕はさらに大きくなります。

退職時期を決めるのは最終的にはご自身です。ただ、深い事情、これまでの経緯はわかりませんが、もし早く辞めたいが義理で辞められないというのであれば、個人的な意見ですが、義理よりも自分を優先すべきだと考えます。

「やる気がない」ことを続けることで悩み、それがストレスになって身体を壊してしまっては、それこそ働く意味がありません。試算の設定で退職後フルリタイアとしたのは、ヒゲダルマさんに今必要なのは何より「休息」だと感じたからです。

ともあれ、奥様と十分話し合い、自分はどうしたいのかを考えてみてください。その決断が、結果的には長い老後を充実させるための大きなポイントになるのだと思います。

試算したようにお金の面に心配はいりませんが、ゆっくり休まれたあと、生活のリズムを整えるためにアルバイトやパートなどを行い、社会と関わっていかれるのも一考の余地があると思います。

◆相談者「ヒゲダルマ」さんより寄せられた感想
丁寧な診断、アドバイスをいただけましたことに、まずはお礼申し上げます。早期リタイアに対して、資金面で不安を感じ、先に進むことができない状態でしたが、安心しました。

実際のリタイア時期は、義理だけでなく、妻との話し合い、それから自分の精神面や身体面ともう一度向き合った上で決めたいと思います。

教えてくれたのは……深野 康彦さん

マネープランクリニックでもおなじみのベテランFPの1人。さまざまなメディアを通じて、家計管理の方法や投資の啓蒙などお金周り全般に関する情報を発信しています。All About貯蓄・投資信託ガイドとしても活躍中。

取材・文:清水京武

文=あるじゃん 編集部