米国航空宇宙局(NASA)は2020年3月17日、近い将来の小型科学衛星計画「エクスプローラーズ計画」で実施することを目指した、4つのミッションの候補を選定したと発表した。

候補となったのは、超新星爆発を観測するミッションや、恒星フレアが系外惑星に与える影響を観測するミッションなどで、2021年にこのなかから2つを選定し、2025年の打ち上げを目指す。

  • エクスプローラーズ計画

    (C) NASA

エクスプローラーズ計画とは

エクスプローラーズ計画(Explorers Program)は、NASAが行う宇宙科学計画のひとつで、地球物理学や太陽物理学、天体物理学などを目的とした、中型・小型の規模のミッションを、シリーズ化して行っている。

その歴史は古く、1958年に米国初の人工衛星として打ち上げられ、地球を取り巻く放射線帯「ヴァン・アレン帯」を発見した「エクスプローラー1」に始まり、これまでに90機以上の衛星が同計画のもとで打ち上げられ、多くの成果を残している。そのなかには、世界最初のX線天文衛星「ウフル(Uhuru)」や、2006年のノーベル物理学賞の受賞に貢献した宇宙背景放射探査機「COBE」なども含まれる。

今回NASAは、近い将来のエクスプローラーズ計画で実施することを目指した、4つのミッションの提案を選定した。エクスプローラーズ計画には、規模や目的、規定などから大きく4つのクラスがあり、今回は小型天体物理学探査ミッション(SMEX)から「ESCAPE」と「COSI」、またミッション・オヴ・オポチュニティ(MO)から「Gravitational-wave Ultraviolet Counterpart Imager Mission」と「LEAP」の、計4つの提案が選出された。

恒星のフレアの影響を調査するESCAPE

「ESCAPE(Extreme-ultraviolet Stellar Characterization for Atmospheric Physics and Evolution)」は、コロラド大学ボルダー校が提案しているミッションで、正式名称のExtreme-ultraviolet Stellar Characterization for Atmospheric Physics and Evolutionとは「大気の物理的・進化のための極端紫外線による恒星の特徴づけ」という意味がある。

ESCAPEは地球に比較的近い場所にある恒星を対象に、その恒星の表面が大爆発を起こす現象「フレア」を、極端紫外線を使って観測する。

こうしたフレアは、その恒星のまわりを回る系外惑星の大気をはぎとり、生命が住みにくい、あるいは住めない環境にしていると考えられており、ESCAPEの観測によってその影響の度合いなどを解き明かすことを目的としている。

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    恒星フレアによって系外惑星の大気が消失する様子の想像図 (C) NASA's Goddard Space Flight Center

超新星爆発で生成されたガンマ線測定に挑むCOSI

「COSI(Compton Spectrometer and Imager)」はカリフォルニア大学バークレー校が提案しているミッションで、正式名称のCompton Spectrometer and Imagerには「コンプトン散乱の原理を使った分光計・カメラ」という意味がある。

COSIは私たちの住む銀河系(天の川銀河)をスキャンし、星が一生の最期に起こす大爆発現象である超新星爆発によって生成された放射線元素からのガンマ線を測定し、星の死と元素生成の過程を明らかにすることを目的としている。

また、偏光測定を行い、遠くの宇宙で起こる高エネルギーの宇宙の爆発現象が、ガンマ線をどのように発生させているのかも調べる。

2種類の紫外線帯で宇宙を観測

重力波・紫外線の「イメージャー・ミッション(Gravitational-wave Ultraviolet Counterpart Imager Mission)」は、NASAゴダード宇宙飛行センターが提案しているミッションで、2機の独立した小型衛星から構成され、それぞれ異なる紫外線帯で宇宙を観測することができるようになっている。

そして地上の重力波望遠鏡と連携し、中性子星同士が合体したり、中性子星がブラックホールと合体したりして発生した重力波が捉えられると、同衛星はその重力波源に目を向け、そうした衝突イベントに伴って発生しうる高温のガスから出る紫外線を検出する。

また、重力波イベントがないときには、紫外線の宇宙地図を作成し、爆発している星などの明るい天体がどこにあるかをマッピングすることも目的としている。

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    中性子星同士が合体する様子の想像図 (C) NSF/LIGO/Sonoma State University/A. Simonnet

日米国際共同プロジェクトのLEAP

LEAP(A LargE Area burst Polarimeter)はニュー・ハンプシャー大学が提案しているミッションで、米国と日本の国際共同プロジェクトとして検討されている。

正式名称のA LargE Area burst Polarimeterとは「大きな面積のバースト偏光計」を意味する。

LEAPは単独の衛星ではなく、国際宇宙ステーションに設置する装置で、「極超新星」と呼ばれる、大きな質量をもつ恒星が死ぬときに起こす、通常の超新星より10倍以上のエネルギーを出す爆発現象や、中性子星が合体するときに発生すると考えられているガンマ線バーストを観測することを目的としている。

ガンマ線バーストの性質についてはさまざまな理論があり、LEAPの観測でその謎の一端を解き明かすことが期待されている。

また、NASAは2021年に「IXPE」というX線偏光観測衛星の打ち上げを予定しており、LEAPはIXPEのミッションや観測のあとを継ぐことが考えられている。

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    ガンマ線バーストの想像図 (C) NASA, ESA and M. Kornmesser

2021年の最終審査で2つを正式ミッションとして選定

この選ばれた4つの候補のうち、SMEXクラスのミッションにはそれぞれ200万ドル、MOクラスにはそれぞれ50万ドルがNASAから提供され、9か月かけてさらなる検討を実施。それを踏まえ、2021年に最終審査を行い、このなかから2つを正式なミッションとして選定。2025年の打ち上げを目指して開発が始まることになる。

開発費は、打ち上げ費用を除き、SMEXミッションが1億4500万ドル、MOは7500万ドルが上限となっている。

NASAの科学ミッション局の副局長を務める、Thomas Zurbuchen氏は「太陽系の外にある恒星や惑星から、宇宙最大の爆発現象の謎に至るまで、これらの小規模なミッションがもたらす大規模な科学的成果に期待しています」と語る。

また、NASAの天体物理学局の局長を務めるPaul Hertz氏は「これらのミッションはいずれも、現在非常にホットな天体物理学の分野において、研究を次のステップへと推し進める役割を果たすことになるでしょう」と語った。

参考文献

NASA Selects Proposals to Study Stars, Galaxies, Cosmic Collisions | NASA
IXPE: Home
Explorers Program