音楽業界の救世主となるか? コロナによって勢いを増すライブ配信事業

「完全にパンク状態です——会社を立ち上げて以来、ここまで注目を浴びた経験はありません」とかつては敬遠されていたライブ配信が勢いを増すなか、あるライブ配信事業会社の創設者は語る。

時間はかかったものの、新型コロナウイルスのパンデミックという苦境下でコンサートのライブ配信サービスはいま、ようやく真価を発揮する時を迎えているのかもしれない。大型音楽フェスや何百ものツアーとコンサートが新型コロナウイルスの感染拡大を受けて中止になるなか、アーティストと彼らを支えるチームは前に進むための新しい方法をあの手この手で模索している。なぜなら、収入源が必要な人や金銭的に中止が難しい人に何もせずにじっとしている、という選択肢は存在しないからだ。そうしたいま、ライブ配信サービスという新興事業が注目を浴びている。

この数週間にわたり、いくつかのコンサートとライブイベント主催者は、大勢の観客の前でのパフォーマンスではなく、ライブ配信という手段を選んでいる。ジャクソン・ブラウン、ブラック・クロウズのクリスとリッチ・ロビンソン、レオン・ブリッジズなどのアーティストを迎え、今年で4回目となるチャリティコンサートLove Rocks NYCの主催者もライブ配信を選び、現地での参加者をメディア、アーティストのスタッフ・家族・友人に限定した。イギリスのシンガーソングライターのヤングブラッドはラッパーのマシン・ガン・ケリーと女優のベラ・ソーンをフィーチャーしたライブを23日にYouTubeで配信した。ロサンゼルスとニューヨーク・シティですべてのバーやナイトクラブといった飲食店の営業停止が打ち出されるなか、今後はミュージシャンたちがライブ配信というフォーマットに殺到するかもしれない。

「(新型コロナを)乗り越えられる唯一の解決策が私たちですから、当然ながら、私たちの事業への関心はかなり高いですね。ほんとうに、とんでもなくクレイジーな状況です」——サミー・ルービン氏、Big Room TV共同創設者

カメラクルーがいなくても会場から配信できることを謳うライブ配信事業者のBig Room TVは、ライブ配信への関心はすでに高まっていたものの、今回のパンデミックによってより多くの人がライブ配信のポテンシャルに注目するようになった、と指摘する。同社の共同創設者のひとりであるサミー・ルービン氏は、失われた収入源の穴埋めとして、無観客の会場でイベントを実施するクライアントのニーズに適応するため、従来のビジネスモデルをまったく新しいものに変更しなければならなかったと語る。Big Room TVはいま、なんとかイベントを開催したいと願うクライアントからの電話対応に追われている。移動制限によってクライアントとの直接交渉もままならないなか、同社は解決策を見つけようと必死だ。「(新型コロナを)乗り越えられる唯一の解決策が私たちですから、当然ながら、私たちの事業への関心はかなり高いですね。ほんとうに、とんでもなくクレイジーな状況です」。

会場ベースのBig Room TVのビジネスは、決して順風満帆ではなかった。同社最大のパートナーであるニューヨークのジャズクラブ、ブルーノートが中国向けのライブ配信を実施するようになってから——中国で新型コロナウイルスの感染拡大がピークを迎え、北京と上海の2店舗が閉鎖されてしまったのだ——すでに数週間が経つ。しかし、ウイルスの感染スピードと経済への打撃、さらには15日にニューヨーク市長ビル・デブラシオが発表したバー、ナイトクラブ、レストランなどの営業禁止令により、ニューヨークのブルーノートのイベントとライブ配信も中止に追い込まれてしまった。


ブルーノートよりも新しいパートナーである米南部テキサス州オースティンのEmpire Control Room & Garageが毎年開催し、今年で10回目となるMusic Tech Mashupも新型コロナウイルスの感染拡大を受けて中止になった。それでも、Big Room TVのグロースディレクターを務めるジェシー・オルセン氏は、ライブ配信の需要は高いと語る。「(ライブ配信)はすでにトレンドでした」とオルセン氏は言う。「それが今回のコロナによってさらに加速したのです」。

音楽をライブ配信しているバーチャル・リアリティ(VR)プラットフォーム、Wave XRの創設者・CEOのアダム・アリーゴ氏も同じような現象に気付いている。「いまはほんとうに大変です。電話がずっと鳴り止まないのですから」とアリーゴ氏は言う。ライブ配信とVRを融合し、ビデオゲームのような没入型コンサートをオンラインで提供しているWave XRは、自らを「ライブ体験会社」だと考えている。同社は独自のアバターを通じてユーザー同士が交流できるサービスを提供しており、エレクトロ・バイオリニストのリンジー・スターリングやギャランティスといったEDMユニットの配信イベントを手がけた。従来は受身的な配信という選択肢にはコンサートに参加するという社会的な側面が欠けているため、こうした差別化はファン体験に欠かせないとアリーゴ氏は語る。

「音楽業界が失った収入を取り戻し、復興できるよう、少しでもプラスの影響を与えられることを期待していますが、それ以上に孤立感が増す状況下において人と人をつなぐ手段を提供したいと思っています……一夜にして可能なことではありません——明日になると誰もがバーチャルコンサートを実施できるというわけではないのですが」——アダム・アリーゴ氏、Wave XR創設者・CEO

さらにアリーゴ氏は、新しいデジタルライブイベントの立ち上げをサポートするため、大手コンサートプロモーターと協議中だと語る。アリーゴ氏いはく、これはアーティストがそろってライブ配信という解決策をとるまでの移行的措置なのだ。「もちろん、いままでにないくらい関心度は高まっていますが、現時点ではアーティストとファンを支援できる規模のサービスに集中しています」と同氏は述べた。「音楽業界が失った収入を取り戻し、復興できるよう、少しでもプラスの影響を与えられることを期待していますが、それ以上に孤立感が増す状況下において人と人をつなぐ手段を提供したいと思っています……一夜にして可能なことではありません——明日になると誰もがバーチャルコンサートを実施できるというわけではないのですが」。

ライブ配信事業者のなかには、ツアーの代替手段を模索するアーティストの数にただただ驚く者もいる。こうした高需要に応えるため、できるだけのことをしたいというのが本音だ。コンサートを有料でライブ配信するStageitの創設者・CEOのエヴァン・ローウェンスタイン氏は、大手コンサート会場でのライブというよりは地下室でのライブに近い、と自社のサービスについて語る。Stageitのアーティストのほとんどは、自宅からコンサートを配信しているのだ。Stageitのサービスが実際に観客の前で行う音楽イベントの代替手段になるとは考えもしなかったとローウェンスタイン氏は言うが、ライブ配信がアーティストにとっての選択肢である以上は、万人のためのサービスでありたいと語る。

「できるだけ多くの人を助けたいと思っています。しかし、私たちは大きな運営会社でもなければ、大型のコンサート会場でもありません」とローウェンスタイン氏は言う。「ビールとトイレの臭いがする地下のクラブのような存在ではありますが、アーティストがファンとつながるためには力になります」。

アーティストファーストを掲げた結果、ローウェンスタイン氏は公演ごとのアーティストの取り分を80%に引き上げたと言う。小規模な公演の取り分は、それまでは63%だったのだ(新型コロナが収束してからもこの措置が継続されるかは不明)。Stageitの公演数はこの数日間で急上昇し、いまも1時間ごとにその数は増加している。3月6日の時点で20〜25だった公演数は、9日には200以上になり、15日にはわずか1日で10万ドル(およそ1100万円)を稼ぐ結果となった。参考までに言っておくが、同社のひと月の最高収入は2014年に記録した27万4000ドル(およそ3000万円)だ。さらにローウェンスタイン氏は、近日中にお抱えアーティストをStageitでライブさせたいと複数の大手ブッキングエージェンシーから連絡があったことを明かした。

Stageitは、配信コンテンツの提供に向けて映画・テレビドラマでお馴染みの『スクール・オブ・ロック』とのパートナーシップ契約に向けて準備を進める一方、インディゴ・ガールズや歌手でギタリストのダン・ナバロらが参加予定のShut In and Singという音楽フェスの配信を決めた。


「完全にパンク状態です——会社を立ち上げて以来、ここまで注目を浴びた経験はありません」とローウェンスタイン氏は語る。「注目されることはありましたが、今回はまったく異次元です」。

Stageitがアーティストに支払える金額は無尽蔵ではない。だからこそ、同社はブランドに対して一部の費用負担を呼びかけている。ここ数年におけるStageitの通常の月の公演数は75〜125ほどだ。「私ではなく、アーティストたちのおかげです」とローウェンスタイン氏は言う。「事態は収束していませんから、勝利を称えてウィニングランをするような気分にはとてもなれません」。

TwitchやYouNowといったライブ配信プラットーフォームですでに生計を立ててきたアーティストは、新型コロナウイルスの打撃を受けていない少数派と言えるだろう。ポップシンガーのメーガン・レニウスがTwitchとパートナーシップを結んでから3年近くが経つが、ライブ配信はいまでもレニウスにとってミュージシャンとしての主な収入源である。メジャーアーティストがツアーで稼ぐような大金とは言えないものの、レニウスの収入は安定している。ツアー収入に頼るアーティストと異なり、新型コロナのインパクトを受けていないのだ。「オンラインミュージシャンにとっては良い時期です」とレニウスは言う。「ほんとうにそうです。自分の居場所に留まり、あれこれと心配せずに済むのは、とても幸せなことです」。

一部のアーティストにとっても、はやくもライブ配信は中止になったツアーの救済手段となりつつある。イギリスのポップシンガーのエマ・マクガンは、過去5年にわたってオリジナル曲のライブ配信で生計を立て、TwitchやYouNowなどでファンを増やしてきた。

マクガンは、4月から21日間の初の北米ツアーをスタートする予定だった。それが3月上旬に突如延期となったのだ。当初はツアーのおまけとして企画していたバーチャルコンテンツのライブ配信がイベントの主役に変わった。延期になった全北米公演の振替公演として、マクガンはロンドンからコンサートをライブ配信する予定だ。20ポンド(およそ2700円)の「バーチャルツアーパス」の購入者には、全オンラインコンサートへのアクセスだけでなく、グッズ割引などの特典がつく。

「ある程度の収入を見込んでいたと思うわ。だから、中止は経済的な打撃になると思ったの」とマクガンは言う。「でも、予定しているライブ配信によって間違いなく穴埋めができると思う。ほんとうに100%救われた気分」。

有料ライブ配信は、好景気のライブ音楽業界から見下され続けてきたものの、いまでは業界が前に進むための最善策として真剣に検討され始めている。ライブ配信をめぐるミュージシャンのためのハウツー本『Twitch for Musicians: A Step-by-Step Guide to Producing a Livestream, Growing Audience, and Making Money as a Musician on Twitch』(2019年/Tablo Pty Ltd)の著者で技術コンサルタントのカレン・アレンは、いままで受身的な2次元の配信というものは退屈だと思われてきたが、アーティストとファンの交流を促す地域コミュニティに根ざした配信プラットフォームが新たに注目されるようになっている、と米ローリングストーン誌に語った。

「人々は、いかなるオンラインコンテンツに対して金銭を払うことにためらってきました」とアレンは続ける。「コーチェラのライブ配信は最高ですが、そこにお金を払う人はいません。特別だからこそ、コンテンツはオンラインでは無料で提供されるべきだと人々は期待しているのです」。だが、コンサートやライブなどのイベント活動がほぼゼロになってしまった現在、家で静かにじっとしているよりは、どんな選択肢もアーティストとファンにとっては有効だとアレンは指摘する。配信に対して懐疑的だった人々は、そろそろ見解を変えるべきタイミングなのかもしれない。