マスクを着けると本来の目的の一方で、ベールに守られているような安心感、そして顔が見えないことによって生じる攻撃性に心当たりはありませんか?

◆マスクを着けると安心する? 攻撃的になる?
花粉症シーズンに新型コロナウイルスの感染拡大が重なり、病院や接客業はもとより一般企業などでも出勤時のマスク着用を義務づけるケースが増えています。

花粉の侵入を防ぐ、また感染症予防とそれに伴うエチケットが、マスクを着用する本来の目的。それがいつしか、マスクに守られているような安心感のせいか何となくマスクを着けたくなる感覚になっていることに心当たりはありませんか?

同時に、普段は気にも留めないコミュニケーションが煩わしい、マスクを着けた人と話していて「いつもより不愛想だなあ?」と感じたりすることも……。この不思議な現象には理由があります。

◆マスクがもたらす「安心感」の正体
顔半分を覆う程度に過ぎないマスクが、まるでバリアに守られているかのような安心感を人にもたらすのはなぜ? 実は、下記2つの理由で人は安心感を得やすくなります。

◇1. 顔の上にあるベールに「守られている」ような安心感
横になるときにブランケットを一枚かけるだけでほっと安心できるように、顔の上に一枚ベールがあることで、人は体が守られているような安心感を覚えやすいのです。幼児が心のよりどころにする「安心毛布」にも似ています。

◇2. 顔が隠れて「匿名性が高くなる」ことによる安心感
マスクによって顔の約半分を覆われることで、匿名性が高くなります。すると、どこに行っても何をしても自分という個人が特定されない安心感が得られます。

◆長期にわたるマスク着用にデメリットはある?
マスクを使い続けていると、人はその安心感に慣れてしまいます。最近では、マスク依存なども懸念されるようになりましたが、長期間にわたってマスクを着用し続けることで、下記のような悪影響が生じやすくなります。

◇1. 衛生や健康面での過剰な不安
マスクを外して口や鼻を外部の空気にさらしてしまうと、悪い病気に感染してしまうのではないか、汚れた空気を吸ったら体に害があるのではないか……と過剰な不安に陥りやすくなります。

◇2. 匿名性が高まり、普段と違う行動をとる
マスクで匿名性が高くなると、普段のように人前に顔をさらしている時にはしない行動をとりやすくなります。たとえば、普段より不愛想になったり、他人や社会に対して攻撃的になったりする場合、顔を覆われていることによる匿名性が影響しているのかもしれません。これを心理学では「没個性化現象」と呼びます。

この没個性化現象は、SNSでよく見られます。Facebookなど実名が原則となる場では、発言が温和で協調的になりやすい傾向がある一方で、Twitterなど匿名性が担保される場では、没個性化現象によって攻撃的な発言が飛び交いやすい傾向があります。

◆マスク着用時のコミュニケーションで大切なこと
マスクを着用している時は、没個性化現象によって普段より他人に冷たくなったり、迷惑行為をしやすくなることがあるということを、まずは頭に入れておきましょう。また、自分の行動を振り返ることも大切です。

「誰も自分のことを知らないのだから、何をやってもいい」という考えは、社会で生きる人間として恥ずべきこと。「天知る、地知る、我知る、人知る」ということわざがあるように、他人が見ていなくても、天地も自分自身もその恥ずべき行為を知っています。

感染症が蔓延するシーズンは特に、マスクを着用する機会も多くなるものです。マスクをしていてもしていなくても、つまり他人が自分を知っていても知らなくても、自分自身に恥ずかしくない行動をする、という美学を大切にしていきましょう。

◇大美賀 直子プロフィール
公認心理師、精神保健福祉士、産業カウンセラー、キャリアコンサルタントの資格を持つメンタルケア・コンサルタント。ストレスマネジメントやメンタルケアに関する著書・監修多数。カウンセラー、コラムニスト、セミナー講師として活動しながら、現代人を悩ませるストレスに関する基礎知識と対処法について幅広く情報発信を行っている。

文=大美賀 直子(公認心理師)