フェラーリが生んだ歴代スーパーカーを一気に試乗│F40 LM、F50、エンツォにラ フェラーリ

この記事は『フェラーリの偉大なるスーパーカー!伝説に残るモデルを一気に試乗比較!』の続きです。

さて、いよいよF40 LMである。私は近くで見るまで、これがいかにヒストリーのある本格的なレーシングカーであるかに気づかなかった。固定式のヘッドライトや可変リアウィング、アグレッシブなスタンスには気づいていたし、ライムロックの車検ステッカーも目に入った。しかし、車内に腰を下ろして初めて、最も不釣り合いなディテールがナンバープレートであることに気づいた。
 
そう、ナンバープレートを装着しているのだ。いま思うと笑ってしまう。ライムロックのステッカーは、このLMが最後に出走したIMSAの1990年選手権のものだ。かつてのドライバーは、ハーレイ・ヘイウッド、ジャック・ラフィット、ジャン-ルイ・シュレッサー、ミシェル・フェルテなど、聞いたことのある名前ばかり。製造19台中の2台目だから正真正銘の”LM”であり、ミッドオハイオとモスポーツで表彰台フィニッシュも飾っている。出力760bhpといわれるこのレーシングカーを、これからイギリスの幹線道路と田舎道でドライブしようというのである。
 
Momo製の着脱式ステアリングの向こうには、マニエッティ・マレリのデジタルダッシュ。フェルトに覆われた右側のダッシュボードには、ボタンやスイッチがずらりと並ぶ。消火器やブレーキバイアスの調整など、必要にならないことを祈るものばかりだ。スタータースイッチをカチッと弾くと、モーターが2拍子で回り、すぐさま後方のエンジンが速いペースでアイドリングを始めた。デジタルダッシュの表示はほとんど解読不能なので、私はまず、他のモデルと同じコースを走ることにした。温まった頃にはイメージがつかめているだろう。それより問題は、何度もストールしてしまうことだ。クラッチが電灯のスイッチ並みなのである。その上、回転半径は巨大タンカーに匹敵し、ほかのF40と同様に後方の視界はひどいものだ。ようやく中庭を抜け出す頃には私は汗ばんでいた。
 


15分後、ストレートカットのギアボックスでスムーズに変速する術はないのだと私は諦めた。荒々しさを多少抑えられる程度で、スムーズに歯が噛み合ったとしてもラグビーのスクラムさながらだ。3000~4000rpmにかけてV8が少々もたつくので、LMのパフォーマンスをフルに解き放った感触を確かめられないのではと不安になってきた。だが、空っぽの直線を見つけて、2速でスロットルペダルを深く踏み込むと、4000rpmを超えたところでV8が咳払いし、5000rpm前後でブーストが高まり始めた。それも大きく素早く高まっていく。
 
吸気音が、V8の軽快なビートと覇権を争うまでになったかと思うと、突然、音と推進力が急上昇し、6000rpmあたりで(見る余裕などなかったから定かではない)、破壊的なトルクが噴出した。ハイパースペースに突入したかのように、周囲の風景が逆転し、緑色に溶け合ってポリカーボネートのサイドウィンドウを流れ、肺から空気が押し出される。右足を緩めると、再び正常な世界が戻ってきた。
 
オー・マイ・ゴッド…! これまでも飛び抜けて速い車を何台もドライブしてきたが、そのどれにも引けを取らない。衝撃的に速く、恐ろしい車だ(下着の換えが必要なほど…)。
 
私は広いスムーズな大通りを探した。今度はホイールスピンを最低限に抑えるため3速に入れ、ペダルを床まで踏みつけて、そのまま維持した。6000rpmでテイクオフ、加速力でまた世界がトンネルのように狭まる。一瞬あとにはV8が8000rpmでリミッターを打っているのに気づき、落ち着かせようと4速に押し込む。ストレートカットのギアがドアを叩きつけたような音でエンゲージした。ペダルを緩めると、私はドアミラーに目をやった。アスファルトが後ろに押し出されて波打っているのではないかと思ったのだ。 

サーキットではスリックタイヤを履くだろうし、900bhpといわれる予選仕様に加えて、ウェット走行用のソフトなチューンもあっただろう。とにもかくにも、F40 LMは途轍もないウェポンだ。それと1時間も過ごせるとは、何という幸運だろう。私は路面のスムーズなワインディングロードや曲がりやすい大きな交差点を選んで走ったが、爆発的なトルクデリバリーや度肝を抜く凶暴性にはいっこうに慣れなかった。まさにF40の中でも究極の残忍なファイターだ。本来なら公道はふさわしくないが、おかげで素晴らしい体験ができた。



F40の後継はどうあるべきか。フェラーリが出した答えは、技術的に大きく進化し、F1生まれのV12エンジンによって”F1の感動”を伝える車だった。こうして生まれたF50は、マラネロ生まれのスーパーカーの中で最も誤解されたモデルでもある。実のところ、オーナーはメディアよりF50を高く評価していたのだが、当初ジャーナリストにはフィオラノを数周することしか許されなかったのが災いした。そして、あの見た目である。後継モデルへの落胆の大きさでは、Eタイプの後継がXJ-Sだったときに勝るとも劣らない。
 
F50は走る矛盾だ。骨格は航空宇宙工学に基づくカーボン製タブ。心臓部は、ターボが禁止されて1シーズン目の1989年に使われた3.5のリッターF1エンジンから生まれた。ニューマチックバルブと1万4000rpmのレッドラインは引き継いでいないが、4.7リッターに拡大している。エンジンはタブに直接ボルトオンされて、6段トランスアクスルと共に耐荷重構造の一部を成し、それがインボードマウントのサスペンションやリアバンパー、ボディワークを支えている。まさにハードコアだ。ところがスタイリングはソフトで、F40のようなアグレッシブさがなく、滑らかでつるりとした印象。その上、コンバーチブルである。
 


私には合点がいかなかった。ようやく理解できたのは、2004年にステアリングを握ったときだ。それは『Evo』誌のグループテストで、288 GTO、F40、エンツォを押さえてて、F50はトップに選ばれた。それも全員一致で。私の最も好きなフェラーリのスーパーカーは288 GTOで変わらなかったが、F50の勝利は私にも納得できた。ターボ装着モデルに比べて生々しくダイレクトで、研ぎ澄まされた魅力的な機構とダイナミクスがドライバーに忠実に従い、満足感を味わわせてくれる。もちろんV12は8500rpmまでスリリングに吹け上がるし、ギアシフトとノンアシストのステアリングも申し分ない。
 
あれから15年が経った今、520bhpのインパクトは薄れたが、驚いたのは、あらゆるものが”ない”ことだった。インテリアには遮るものがほとんどなく、光沢のあるカーボンファイバーとグレーのアルカンターラが帯状に続く。フロアは円形の突起があるゴムマットだけで、ラジオもなく、窓は巻き上げ式だ。スリムなセンターコンソールには、空調のスイッチ2個とハンドブレーキ、カーボンのノブが付いたオープンゲートのシフトしかない。必要なものはすべて揃い、それ以外は皆無なのである。
 
V12が穏やかなアイドリングで複雑なビートを刻むと、シートも振動する。まるでエンジンにボルト付けされているようだが、実質その通りだ。スロットルペダルを軽く踏むと、バイクのエンジンのように回転が跳ね上がって即座に収まり、やはりシートがビビビ…と震えた。ギアのリンケージは4個のジョイントを経て1.8mもあるのに、どのV8モデルより感触が豊かで滑らかに入る。結局はシフトのたびに回転を合わせてしまうのだが、それは必要だからではなく、楽しいからだ。
 
エンジンも秀逸である。V8のような低回転域のトルクはないから、ドライバーが仕事をしてパワーを引き出す必要はあるけれど、その報酬が格別だ。V12は鋭く吹け上がり、スリリングなトップエンドは常軌を逸したレベルである。しかもシャシーの追従性がF40よりはるかに高く、落ち着いているので、パワーをフルに活用できる。アシストがないからステアリングの重さは常に感じるものの、充分扱いやすく、フィールも豊か。ノンアシストのブレーキも同様だ。
 
F50は、飛ばしてもゆっくり走ってもこの上なく楽しい。五感で味わえて、パフォーマンスをフルに生かせる、磨き抜かれたスーパーカーである。凶暴なまでの速さと造りの精巧さでは、総カーボン製でレース生まれのあのV12スーパーカーほどではない。マクラーレンF1は発表時に注目をほぼ独占したが、驚くなかれ、走りの質ではF50がはるかに凌駕しているのだ。


 
理論上、エンツォはF50の進化形だが、隣に並べてみるとエイリアンの宇宙船に見える。ふっくらとした菱形の中央部を、タイヤが収まる左右のポンツーンで挟んだ、実に3次元的なデザインである。バタフライドアを引き上げてみると、コクピットもエイリアン的だ。レゴで曲線を作ろうとしたかのように、不揃いのパーツが複雑に組み合わされ、ボタンやメーターやスイッチが点在する。シフトレバーはなく、カーボンファイバー製のパドルとオートマチック単板クラッチが変速を担う。ステアリングとブレーキにはアシストが付き、ASR(トラクションコントロール)も装備した。ステアリングにはモードごとに色分けされたボタンが並ぶ。これをまとめたのが”マネッティーノ”と呼ばれるトグルスイッチで、今やフェラーリの標準的な装備となった。
 
新型の6リッター”F140”V12が投入されたのもエンツォからだ。実に驚くべきエンジンで、F50のV12よりスムーズで、低音が効き、音楽的である。パワーも倍増した印象を受ける。その証拠に、スロットルペダルを初めて踏み込んだ瞬間にテールが左右に振れて、私はぎくりとした。最高出力は660bhpで、最高トルク657Nm(67kgm)は5500rpmで発生するが、ごく低回転でもそれに近いトルクを発揮するのだろう。ASRは”あると便利”ではなく、不可欠の装備なのだ。F40は追い込むとようやく噛みつくが、エンツォはV12のパワーがあまりに強大なので、太いブリヂストンでも勝ち目がないのである。
 


このV12にはまだまだ底力がありそうだが、それを確かめる前にステアリングに慣れなければ。アシスト付きで扱いやすいが、少々フィールに欠ける。変速も、ダウンシフトは見事に回転に合わせてくれるが、アップシフトはまどろっこしい。かといってリフトする手間を惜しむと強烈すぎる。F50と比べると、途方もないパフォーマンスと引き換えに多くのものを失ったと感じてしまう。
 
だが、途方もないのは確かだ。アイドリング近くの低回転域から8000rpmまでの旅は感動的ですらある。V12のキャラクターとトーンが、やわらいだかと思うと盛り上がり、またやわらぐと、これまで以上に力強く回転を上げ始め、6000rpmに達すると、アフターバーナー装置が起動したかのようだ。F50のV12も最後の2000rpmは尋常ではなかったが、エンツォは次元が違う(またしても下着の換えが必要だ)。あとはバンプに目を光らせる必要がある。乗り心地は抜群なのだが、長いノーズはこすると痛めやすい。


 
エンツォの後継モデルには300bhpのパワーアップが必要。そう決まったマラネロでの会議に出席できたら、さぞ面白かっただろう。この決定の裏には、外的要因もあったのではないだろうか。マクラーレンP1が916bhp、ポルシェ918が893bhpだったからだ。こうして、エンツォが登場して10年余りが過ぎた2013年に、フェラーリは963bhpのラ フェラーリを発表した。
 
朗報は、心臓部がエンツォのV12エンジンの進化版だったことだ。6.3リッターに拡大されて、強大な800bhpものパワーを発生する。そこに120kw(163bhp)の電気エネルギーがKERS(運動エネルギー回生システム)によって上乗せされ、9000rpmで963bhpという衝撃的な数値に至る仕組みだ。ラ フェラーリは最も軽い仕様で1480kg。エンツォから100kg強の増加だが、KERSとそのバッテリー、巨大なダブルクラッチ・ギアボックスの重量を考えれば大したものだ。
 
キーを握ってラ フェラーリに歩み寄ると、自然に鼓動が高まる。感情のカクテルは、不安2に対して興奮も2の割合だ。価値は約200万ポンド。パワー・ウエイトレシオは、あの弾丸のようなF40 LMをも上回る。少なくともスタビリティコントロールとABSがある…と自分にいい聞かせた。バタフライドアをリリースすると、スリムなカーボンファイバー製タブまでに、さらに30cmほどのアスファルトが現れた。アルカンターラのバケットシートに腰を下ろし、シートをペダルに近づけようと調整ハンドルを引くと、思いがけずペダルのほうが滑らかに近づいてきた。
 
目の前のステアリングはエンツォの進化版である。マネッティーノを備え、なんとリムが四角形だ。これは意外だった。ちょうどデジタルのインストゥルメントパネルを縁取る形だ。おそらくステアリングレシオが非常にクイックで、ロック・トゥ・ロックも小さいのだろう。V12に点火すると、そのバリトンに負けじと、フィーン、ブーンといった様々な音も加わる。深呼吸して、発進。
 
率直にいおう。ラ フェラーリのドライブは簡単だ。快適で、前方の視界も良好(バックミラーでは道路よりエンジンのほうがよく見えるが)。ステアリングは重みがちょうどよく、落ち着いたレスポンスで、位置も中央寄りだ。ギアボックスは出しゃばらず、執事のように礼儀正しい。くぼみもバンプもタイヤの下に音もなく消える。ムードを壊すのはブレーキだけで、足に伝わる感触がいくぶん不安定だ。おそらく電気エネルギーの回生装置と通常の油圧装置が制動を分担しているせいだろう。そして、スロットルペダルを軽い気持ちでふっと踏んだだけで、即座に途轍もないパワーが湧き出す。これにはショックを受けた。
 
私は何らかの前段階があると思っていたのだ。これぞKERSの成せる技である。フェラーリは電気モーター特有の瞬時の反応を利用して、スロットルレスポンスをさらに鋭くし、V12の低回転域のトルクを増強した。その効果は絶大で、トルクデリバリーの歯切れの良さは現実離れしている。時折、トラクションコントロールの手助けをうっすらと感じるものの、メカニカルグリップが大きいのも間違いない。


 
踏み続けると、巨大なV12はすぐに本領を発揮し、推進力がどんどん高まって、目も眩むような次元に達する。まるで漫画の世界だ。信じられない。ラ フェラーリに本気を出させたら、その実力は壮大で容赦がない。ギアボックスも驚異的で、9000rpmでシフトアップしても、加速の奔流が途切れることなく続く。このパフォーマンスをどこまで維持できるのか見てみたくてたまらないが、ここでやるべきことではないと自分を抑えた。ラ フェラーリは驚くべき偉業であり、圧倒的なエンジニアリングの傑作だ。残る疑問はただひとつ。次には、いったいどんなものが現れるのだろうか…。
 
試乗した8台からベストを選ぶのは、自分の子どもの中からお気に入りを選べというのと同じだ。それでもやってみることにしよう。希少性とルックスと日常的な使いやすさでは288 GTOが、特別感と意外にもパワーを生かしやすい点ではワイルドなF40が私は気に入った。レーシングカーのLMは、私が公道でドライブした中で最も爆発的にパワフルな車であり、その不条理は好きにならずにいられない。
 
エンツォは年月と共にワイルドな魅力を増している。複雑な走る彫刻であり、パワフルなV12は実に個性豊かで、決して飽きることがないだろう。ラ フェラーリはそれを新次元にまで高めた。だが私には、予想に反して新しいお気に入りができた。それはF50だ。今もあのルックスは愛せないが、あとはすべてが揃っている。極上の音色を奏で、パワーを容易に引き出せるスリリングなV12エンジン。完璧なマニュアルシフトと抜群のステアリング。チャンスさえあれば200mphを追い求めたくなるダイナミクス。あるいは、ただのんびり走って楽しむだけでいい、そんな気持ちになる車なのである。