2020年夏予定の火星探査機の打ち上げが延期に

欧州宇宙機関(ESA)とロシア国営宇宙企業ロスコスモスは2020年3月12日、今夏に予定していた火星探査ミッション「エクソマーズ2020」の打ち上げを延期すると発表した。開発の遅れと新型コロナウイルスの影響が理由だという。

新しい打ち上げ日は、地球と火星との位置関係上、約2年2か月後の2022年8月から10月の間になる。着陸は2023年4月から7月の間となる。

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    火星着陸機カザチョーク(左奥)と探査車ロザリンド・フランクリン(右)の想像図 (C) ESA/ATG medialab

開発の遅延と新型コロナの影響で打ち上げ延期に

エクソマーズ2020は、欧州とロシアが共同で実施する火星探査ミッションで、ロスコスモスが開発を担当する火星着陸機「カザチョーク(Kazachok)」と、ESAが開発し火星探査車「ロザリンド・フランクリン(Rosalind Franklin)」から構成される。

カザチョークはロザリンド・フランクリンを搭載した状態で、火星の北半球にあるオキシア平原(Oxia Planum)に着陸。その後、ロザリンド・フランクリンは地表に降り、火星を走り回りながら探査する。オキシア平原は、過去に水が流れていた可能性があると考えられており、火星に生命が存在したかどうかを調べるとともに、火星における水の歴史を深く理解することを目的としている。

カザチョークにはすでに13個の科学機器すべてが組み込まれており、これまでに推進システムの試験を実施。現在はフランスで環境試験を行っているという。また、ロザリンド・フランクリンも、9個の科学機器すべてが搭載されており、すでに熱・真空試験をクリアしているという。

ESAとロスコスモスはこれまで、打ち上げは2020年7~8月に行うとしていたが、ESAのヨーハン・ヴァーナー長官と、ロスコスモスのドミートリィ・ロゴージン社長による会議の結果、打ち上げを延期することを決めたという。

理由として、探査機のハードウェアとソフトウェアの両方に、さらなる試験を行う必要性が生じたためだとしている。カザチョークはかねてより、パラシュートに問題を抱えており、NASAジェット推進研究所(JPL)の助けを借りて修正を行い、今後数週間のうちに試験を行うことになっている。また、詳細は不明なものの、電子機器やソフトウェアにも開発の遅れやトラブルが起きているという。

さらに、欧州における新型コロナウイルスの流行により、今後の開発や打ち上げに向けた準備作業に影響が出る可能性があることも、延期を決めた理由だという。

新しい打ち上げスケジュールは、2022年8月から10月の間になる。これは天体力学上、地球から火星に到達できるのに最適なタイミングが、2年2か月ごとにしか訪れないためである。これにより、火星への着陸は2023年4月から7月の間となる。

なお、エクソマーズ2020はもともと2018年に打ち上げが予定されていたものの、その際も開発の遅れが理由で延期されており、今回が2回目の延期となる。

ロスコスモスのロゴージン社長は「私たちは打ち上げを延期するという難しい決断をしました。これは、エクソマーズ全体の堅牢性を最大化する必要性と、欧州における新型コロナウイルスの状況悪化が理由です。この延期により、ミッションにとってプラスの結果をもたらしてくれると信じています」と述べている。

また、ESAのヴァーナー長官は「私たちはミッションを100%成功させたいと思っています。誤りは許されません。この延期によって行われるより多くの検証活動が、安全な旅路と火星での最高の科学的成果を確実なものにしてくれるでしょう」と語った。

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    環境試験を受けるロザリンド・フランクリン (C) Airbus/ESA

2020年は火星探査の当たり年

エクソマーズは、ESAとロスコスモスが共同で進める火星探査ミッションで、2016年に打ち上げられた「エクソマーズ2016」と、今回のエクソマーズ2020の2段階からなる。

エクソマーズ2016では、火星周回探査機「トレイス・ガス・オービター(TGO)」と、火星着陸実験機「スキアパレッリ」が打ち上げられた。スキアパレッリは着陸に失敗したものの、TGOはいまなお観測を続け、火星の大気について調査・分析が続いている。

TGOはまた、NASAの火星探査機「キュリオシティ」や「インサイト」からのデータを中継しているほか、火星に到着したカザチョークとロザリンド・フランクリンからのデータの中継も担うことになっている。

なお、エクソマーズ2020は延期になったものの、今夏の火星行きのウィンドウでは、米国の「マーズ2020(愛称「パーサヴィアランス」)」、中国の「火星一号」、そして日本のH-IIAロケットでアラブ首長国連邦の「アルアマル」の、3機の火星探査機が打ち上げられる予定となっている。

参考文献

ESA - ExoMars to take off for the Red Planet in 2022
https://www.roscosmos.ru/28173/
ESA - ExoMars

鳥嶋真也(とりしましんや)

著者プロフィール

宇宙開発評論家、宇宙開発史家。宇宙作家クラブ会員。

宇宙開発や天文学における最新ニュースから歴史まで、宇宙にまつわる様々な物事を対象に、取材や研究、記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。

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Twitter: @Kosmograd_Info