新型コロナウイルス向けDNAワクチンの開発が開始

大阪大学発の創薬型バイオベンチャーであるアンジェス、大阪大学ならびにタカラバイオの3者は3月5日、新型コロナウイルスに対するDNAワクチンの共同開発を開始したことを発表した。

DNAワクチンは、DNAプラスミド法と呼ばれる大腸菌などの細菌などに存在する環状のDNA(プラスミド)を利用することで、危険な病原体を使用せずに、短時間で大量に製造することが可能であるため、新型コロナウイルスのような新興感染症への対応手法として注目されるようになっている。

アンジェス 代表取締役社長の山田英氏は、「新型コロナウイルスの問題が喫緊の課題として取り上げられているが、オールジャパン体制での早期実用化を目指す」と宣言。今回のタカラバイオに限らず、ほかの製薬企業などにも声をかけているとしており、今回の発表は第一歩目の取り組みだと説明する。

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    今回は3者でのスタートだが、より多くの企業や研究機関などの参加も促し、オールジャパンで新型コロナウイルスに対抗していきたいという

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    アンジェス 代表取締役社長の山田英氏

DNAワクチンとは何か?

DNAワクチンとは、対象とするウイルスなどの病原体のたんぱく質をコードするプラスミドを体内に摂取することで、病原体たんぱく質を体内で生産し、病原体に対する免疫を付与することを可能とするもの。新型コロナウイルス(COVID-19)は、ウイルス表面に発現するスパイク(S)たんぱく質がヒトの細胞への感染時の足掛かりになるとされており、このスパイク配列をプラスミドに挿入したものをDNAワクチンとして投与すると、体内でスパイク状たんぱく質が発現。ワクチンの接種者の免疫が、スパイクたんぱく質を抗原として認識し、スパイクたんぱく質に対する液性免疫や細胞性免疫が誘導されることで、感染しにくくなったり、重症化を抑えることが可能になるという。

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    DNAワクチンの概要

大阪大学大学院 医学系研究科 臨床遺伝子治療学の森下竜一 教授によれば、「プラスミドDNA製品の製造プロセス自体はすでに確立されており、そうした知見が今回も使えると思っている。また、新型コロナウイルスに変異が生じていると言われているが、遺伝子情報さえ手に入れば、すぐに対応することができる。すでにDNAワクチンのデザインは完了しており、4週間以内には検証試験ができる」と、すでに効果検証のための準備が整いつつあるとする。

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    大阪大学大学院 医学系研究科 臨床遺伝子治療学の森下竜一 教授

DNAワクチンの効果はどれくらい?

まだ治験や臨床試験の段階に到達していないが、森下教授によれば筋肉注射で2週間に1回、合計2回の投与で感染を予防できるとするほか、抗体値の上昇が低い場合や、より感染を防ぐ効果を高くする必要がある(米国の例では警察官や消防士、医療関係者、空港関係者、軍関係などといった社会インフラの従事者など)場合は3回、4回と打つ回数を増やすことで抗体値の上昇を図ることができるようになるという。

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    DNAワクチンの開発プロセス

また、すでに罹患してしまった患者に対する緊急対策用としてより短時間で市場に供給を可能とする抗血清製剤の開発も進めているという。今回の場合、日本が技術的に優位性を有している馬を使って生産させる手法を利用することで短期間で精製できるようになるという。

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    通常のワクチンに加え、血清製剤の開発も並行して進めるという

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    血清製剤の概要

使えるようになるまでどれくらいの期間が必要か

森下教授によれば、上述のとおりDNAワクチンのデザインそのものは完了し、すでに製造の初期段階にあるという。その後、血清製剤については12週程度で、DNAワクチンの供給も6カ月程度でできるとの見方を示しているが、その後に臨床試験を経る必要がある。「DNAワクチンの安全性はほかのウイルスで有効性が示されているので、早期に試してもらえるようになると思っている。臨床試験の中でも最短のものを選んで進めていきたい」(森下教授)とのことで、厚生労働省や政府などとも協力してオールジャパンで短期間での実用化を目指したいとしている。

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    DNAプラスミド法とほかの方法によるワクチン製造法の比較

なお、実態の製造はプラスミド製造の実績を有するタカラバイオが担当するとしており、タカラバイオとしても現時点では生産量に限りがあるものの、すでに追加設備を搬入できる建屋自体の建設は終わっており、状況を見て生産量の増強も可能だとしている。