ノートパソコン、タブレット、電話、スマートウォッチのことは忘れ、キーボードとマウスとは別れを告げ、瞬きや音声コマンド、手のジェスチャーを解釈する、大胆な新しい種類のウェアラブル機器の時代がやってこようとしています。小さなカメラが指先と体の動きを追跡し、SF小説「Ready Player One(レディ・プレイヤー・ワン)」に描かれているように、画像やテキストを動かすことができたり、映画「The Matrix(マトリックス)」に描かれているVR(仮想現実)以上の体験ができるようになる世界が訪れようとしています。

AR/VRの進化と革新

AR(拡張現実)/VRの誇大広告時代は終わりました。過去1年間、我々SID(The Society for Information Display、国際情報ディスプレイ学会)は真剣に取り組むメーカー各社がこれらのデバイスを価値あるものにするための便利なアプリケーションの開発を進めてきているのを見てきました。

その点において私たちは現在、可能性という氷山の一角にいると言えるでしょう。こうした動きを背景に、ARおよびVRヘッドセットは、今後10年間で大きく成長することが期待されています。

これまでもサイズ、重量、パフォーマンスの面で大きな進歩を遂げてきました。今後はマイクロディスプレイ、光学エンジン、および触覚フィードバックグローブがけん引の技術や製品として注目を集めることになるでしょう。CESや他のグローバルな展示会で発表された革新的なヘッドセットたちは、「超スマート」なアイウェアへの関心を呼び起こしました。これらのウェアラブルコンピュータは、目を見張るような機能を提供し、着用者がスマートフォン、ヘルス・トラッキング・オプション、その他の多くの機能と対話することを可能にします。また、こうした新しいデバイスは、増え続けるコンポーネントのエコシステムによってサポートされています。

明日の技術を先導するGoogle

Googleは、22世紀を携帯電話やその他のポータブルデバイスに持ち込むために真剣に取り組んでいます。彼らの次世代「アシスタント」は、ポータブルデバイスにAIの力をもたらします。口頭でのリクエストをリアルタイムで理解し、処理できるアシスタントを想像してください。回答をこれまでよりも最大10倍速く提供できる音声対応アシスタントは、人々の生活や仕事、さらには車の運転に合わせて完全にカスタマイズされた形で活用できるようになるでしょう。

顔認識の進化により、デバイスがあなたを瞬時に見分け、挨拶をしたり、あなたが求めている固有の情報を提供するようになります。音楽のオン・オフ、音量を下げるために、手の動きを認識することもできるようになります。

GPS対応の地図は非常にスマートになり、画面上の点を見て歩くのではなく、行き先を示す矢印の付いたストリートビューの写真が表示されます。

新しいウェアラブルの波に飛び込む大企業

マイクロディスプレイ技術の進歩は、大きな驚きをもって受け入れられるでしょう。グローバル規模の大手テクノロジー企業各社が、テクノロジーとパフォーマンスの両方を同時に改善するために大きな投資をしてきた一方、新技術を持った新たな参入者も現れ続けています。VRヘッドセットにおけるテクノロジーの進化やコンポーネントの最適化により、VRがパーソナルコンピューティングの最前線で活用されることは確実といえるでしょう。2019年、VRヘッドセットは1000万ユニット以上が出荷されたことが、この動きが現実のものであることを後押ししています。

マイクロディスプレイ技術は、ますます増加するさまざまなニアアイディスプレイや、その他の「ウェアラブル」に対する需要を一気に高めると信じられています。マイクロディスプレイの世界市場は、2024年までに5000万台に達すると予測されています(AR/VRシステムやスマートグラスのほか、HMD、HUDなど高解像度が必要とされるほぼすべてのアプリケーションを含んだ数です)。

  • SID

    AV/VRマイクロディスプレイの出荷台数推移予測 (出典:Sri Peruvemba)

広範な受け入れを推進する改善

我々の周辺を見渡すと、ウェアラブルセンサーとユーザーインタフェースが大きな技術的進歩を遂げています。同じことは、眼の近くに存在するディスプレイ、光学機器、バッテリーにも当てはまります。すべてがパフォーマンスとサイズの最適化に向けて進化を続けています。

とはいえ、消費者にこうした技術が広く普及する前に、まだまだいくつかの改善が必要であるのも間違いありません。それは製品の小型化であったり、バッテリー寿命であったり、電力効率の向上であったりするほか、さまざまな環境で駆動する「堅牢性」も求められています。

また、こうした技術が広く受け入れられるようになるためには、より低い生産コストの実現が求められることになりますが、幸いにもGoogle、Apple、Microsoft、Facebookなどの業界を代表する企業たちが技術革新に大きな投資を続けてきてくれていることもあり、コスト削減が進んできています。

彼らのような大企業のほかにもeMagin、Kopin、ソニー、Olightek、Himaxといった企業も取り組みを加速させていますほか、中国ではmicroOLEDに関心を寄せる動きが増えてきました。こうしたこれらの大企業や一部のホットな企業たちの活動により、ビジネスとエンターテイメントの次世代コンピューティングプラットフォームとしてのAR/VRの活用を促進するコストパフォーマンスのスイートスポットを見つけることができるようになります。

{#ID3}「トップガン」=最も優れた軍事アプリ

AR HMD用の高性能microOLEDは、今日の軍事パイロットにとって「必須」デバイスとして捉えられるようになってきました。実際、現在のいくつかのハイエンドHMDは軍事用です。良い例は、Collins Aerospaceの40万ドルほどする複合現実(Mixed Reality:MR)用ヘルメットです。ロッキード・マーティンのF-35航空機を操縦するパイロット向けに設計されたこのMRヘルメットは、先見の明があるといえるでしょう。

ロックウェル・コリンズ、エルビット、ロッキード・マーティンなど、この急成長している業界の主要メーカーたちは、今まで以上のパフォーマンスを実現するために絶えず互いにしのぎを削っています。軍事用途では、シースルーAR HUDの輝度とコントラストが非常に重視され、昼光のような強い周囲光の中でも活用することが求められるためです。

  • microOLED

    2Kx2K MicroOLED (提供:eMagin)

マイクロディスプレイは人間の新たなインタフェースになるのか?

これまで3つのマイクロディスプレイテクノロジーの説明をしてきました。それらの概要を以下に示します。

  • microOLEDディスプレイ:超薄型で高輝度と高コントラストを備えたmicroOLEDは、VR、軍事、産業、医療、スマートグラスのアプリケーションに影響を与えます。
  • LCoSディスプレイ:安価で生産でき、超高輝度とデザインの親しみやすさを実現します。ただし、ARに必要な速度が不足しています。
  • microLEDディスプレイ:まだ初期段階であるmicroLEDですが、LCoSとは異なり黒や白を実現するための個別のバックライトを必要としません。とはいえ、マイクロディスプレイ用のmicroLEDはまだ遠い未来の技術と言えるでしょう。

マイクロディスプレイによって、AR/VR、HUD、HMD、その他のウェアラブルのインタフェース技術が変わることが期待されています。人間は、最終的にキーボード、マウス、そして「技術の箱」であるスマートフォンでさえも携帯する必要がなくなり、必要なことはすべて、音声、目の動き、手を振るだけで実現できるようになる未来が間近に迫っています。

著者プロフィール

Sri Peruvemba
SIDの取締役メンバーであり、マーケティング部門議長を務めている。