研ぎ澄まされた3分間での戦い│ポルシェ962Cでル・マンに挑んだ記憶

24時間は 86400秒。しかし、”ル・マン24時間”という場ではそれ以上の何かを感じることができる。忘れることのない、歴史的な瞬間が起こるのだ。小さなエピソードから大きなサクセスストーリーまで、十人十色、喜びや悲しみの感情が24時間の中で交錯する。ル・マン 24時間が開催される時は、いつの時代もレースに魅了された観客一人一人の情熱がひとつとなり、会場を包み込む。そんな瞬間を間近で見て、感じてきた関係者が語るル・マンでの武勇伝をご紹介。

□ ハンス ヨアヒム・ シュトゥック ドイツ出身レーシングドライバー

1985年 ”3分と 14.8 秒” 
「私にとってル・マンでの特別な瞬間は、”3分と 14.8 秒” で表現できます。ポルシェ 962C を駆り、完璧なライントレースで獲得したポールポジションのラップタイムです。ユノディエールの高速ストレートは後にシケインが設置されたので、この記録はまさに半永久的といえます。962は、私が経験した中で最高のレーシングマシンでした。その驚異的な出力とグラウンドエフェクト、そしてコーナリングでかかる遠心力は相当なものでしたし、当時はパワーステアリングも存在していなかったので、ドライバーには強靭な肉体と同時にそれに挑む勇気が求められました。

スタート直後、ダンロップブリッジをくぐってエセスの左右コーナーに進入していくのですが、テルトルルージュではさすがにトラクションの限界を感じました。コーナーでのスピードダウンを最小限に抑えるよう努力しないと、続くユノディエールでトップスピードが伸びません。うまくクリアできれば、ミュルサンヌのナローカーブでブレーキングするまでの約50秒間、360km/h で一気に駆け抜けることができるのです。ファステストラップを叩き出した 3 分間の集中力は、まさにナイフのエッジのように研ぎ澄まされていました。ル・マンでの特別な瞬間です」