ルールに従わずひとつの「作品」としてポルシェを創る│そのレストアの方法とは?

この記事は『現代に蘇った特別な一台!│アメリカで製作されたポルシェ911R』の続きです。

伝統をロッドはいまもしっかりと守っている。1996年にオープンしたエモリー・モータースポーツはコンクールにも出場できるレストアの腕を持ちながら、イマジネーション豊かなモディファイを行うショップとして人気を博しているのだ。「 私たちのやり方を理解し、賛同してくれるファンのために"アウトロー"やスペシャルモデルを製作しています。やろうと思えばコンクール・デレガンス向けのレストアもできますが、そういう仕事にはあまり関心がありません。そもそも、その種のレストアを行う素晴らしいショップは、ほかにいくつもありますからね」
 
エモリー家は多作なことでも知られている。1980年代の初頭以来、356ベースのアウトローをすでに150台ほど製作したという。そしてその自然な流れとして、今度は初期の911を扱うことになった。

「911は356と同じくらい、様々なスタイルにモディファイできる可能性を秘めています。また、356ではときとして実際よりも新しいモデルのサスペンションを組み合わせてきましたが、911ではその必要がありません。これまで10台ほどの911を手がけてみて、そういったことをする必要性はまったく感じませんでした。本当に素晴らしいプラットフォームだと思います」
 


これは表面的なチューンナップではなく、本来の意味でのレストアである。すべてのアウトローは、いったん丸裸にさせられてボディシェルのチェックを行い、錆やダメージが潜んでいないかどうかを確認する。ここで紹介する1967年式の911Sは、オレゴン州のジメジメとした地域でこれまでの歳月の大半を過ごしてきたが、コンディションは極めて良好。もっとも、オリジナルのボディワークでそのまま使われているものはあまり多くない。フェンダー、バンパー、ボンネットはグラスファイバー製。そして時代的には少し後のものになるが、アルミ製のエンジンフードを組み合わせることでバウアが製作した911Rのボディワークに近づけている。

オリジナルをリスペクトする思いは、左右それぞれに設けた丸型2 灯式のテールライト、右リアフェンダー上のオイルフィラーキャップ、ボンネットを貫通して取り付けられた燃料キャップなどにも込められている。そうしたパーツを探し出すのは極めて困難だった。ロッドが打ち明ける。

「クルマ全体の10%くらいはスクラッチから作ることになりますが、入手可能なものについては、ファクトリーで製作されたオリジナルパーツ、もしくはできるだけ質の高いリプロダクションパーツを用います。エクステリアにしてもインテリアにしても、完璧なフィッティングを実現するためにかなり長い時間を費やしています」



ボディワークのレストアだけでも9カ月を要するが、それと並行して内部のメカニズムも適切なパーツに置き換えられる。強化されたスタビライザーやトーションバー、エレファント・レーシングのフロント・ストラットタワーバーや取り外し可能なロールバー、ポルシェの想定よりターマック寄りな仕様を持つコニ・アジャスタブル・ダンパーなどが、その一例だ。カリフォルニアのスペシャリスト、ハーヴェイ・ウィードマンがレストアしたフックスのホイールも、911Rと完璧にマッチした代物である。

「それぞれの作品には全体を貫くテーマのようなものを設定しています」 とロッドが語る。「なかには、ちょっと古めかしいアイテムが取り付けられていることもありますが、それらはすべて『ポルシェだったら、どうしただろうか?』と自問自答しながら決めたものです。ひとつひとつの答えには、長年にわたるレース活動やレストアで私たち家族が培ってきた経験が息づいています」
 


エンジンのリビルドは、社内で行わない数少ない作業のひとつだ。ロッドは、自分たちが専門としていない分野のスペシャリストについても顔が広く、911Rに搭載された901/22ユニットの代替品は、エンジン・ビルダーとして名高いディック・エルヴルードに製作を依頼した。そのスペックは一風変わったもので、排気量はオリジナルの2.0リッターではなく2.5リッターとし、ツインプラグを組み合わせて230bhpを発揮。このパワーは、クロスレシオのギアボックスとリミテッド・スリップデフを通じて後輪に伝えられる。

「1970年代初頭に作られたオリジナルのラリーカーは本当に軽くて、とびきりクールでした。車重はすべて積んだ状態でも1000㎏ほど。ノーマルの911とライトウェイトバージョンでは、まるで別の乗り物です。特に、このクルマのようにパワフルなエンジンを積んでいると、その差が際立ちます」とロッドは語る。
 
いずれにせよ、これはレプリカではなく、当時のモデルの"再解釈"といったほうが正しい。「いちばん難しいのは、クルマ全体を通じてクールなテイストに仕上げることにあります。すべての作業に優れたセンスが要求されるうえ、どんな角度から見ても実用的でなければいけません」
 
彼らが手がけているのは、紛れもなく"作品"だ。車重は現代のコンパクトカーより軽いのに、性能は最新のスーパーカーに匹敵する。そしてなにより、ここで紹介したアウトローは、本物の"R"と同じくらい911の真髄を伝えるものといえる。「ルールに従わなきゃダメ」なんていったのは、いったい誰だ?