「老後には公的年金以外に夫婦で2000万円が必要」という金融庁が発表した資料は、日本中に大きな老後不安をもたらしました。

公的年金だけに頼らず、自分で老後資金をつくる必要があることや、実際に定年後も働く人が増えているといった現状をふまえ、今年度の税制改正では確定拠出年金制度の拡充が図られたことをご存じでしょうか。

確定拠出年金制度のなかでも個人で加入する「個人型確定拠出年金(以下、iDeCo)」は年々加入者が増えています。今回はiDeCoについての変更点について解説していきます。

イデコってどんな制度?

iDeCoの愛称で知られる個人型確定拠出年金は老後資金をつくるための私的年金の制度です。「年金」と名のつく国民年金や厚生年金とは違い、自分で拠出する金額や投資先を決めて、積み立てて運用していきます。

このiDeCoは何といっても税制面での優遇があることが特徴です。まずは税制面での3つのメリットをおさらいしましょう。

①積み立て時の税制メリット

運用時に掛金として積み立てた金額全額が「小規模企業共済等掛金控除」の対象となり、所得税と住民税が安くなります。

②運用中の税制メリット

通常であれば、投資の運用益に対しては、20.315%の所得税がかかります。iDeCoの運用で得た分については、どれだけ利益が出ても全額非課税に。

③受取時の税制メリット

60歳以降、積み立てた資金を受け取る際は、一時金(一括)か年金で受け取れますが、一括で受け取る場合は退職所得控除、年金で受け取る場合は公的年金等控除が適用されるため、一定額までは非課税になります。

とくに①の積み立て時の節税メリットが大きく、将来のお金を積み立てながら、所得税と住民税の負担を軽減させることができるところが特徴です。

確定拠出年金制度拡充の見込み、どう変わる?

加入できる期間の延長

2020年度の税制改正では、確定拠出年金制度の拡充が図られました。確定拠出年金制度には、企業型と個人型(iDeCo)の2種類がありますが、今回の改正により、現行では原則60歳までとなっている加入可能な年齢制限を、企業型では70歳未満、iDeCoは65歳未満まで延長することになりました。

この延長のおかげで、現在40歳以上で「自分は今から始めても遅いし、どうしよう・・・」とためらっていた人もスタートしやすくなるでしょう。ただし、気を付けたいポイントとして、65歳未満まで延長されるのは、 下記の場合に限られています。

自営業者

国民年金の加入が満期の40年に達していないといった理由で60歳以降も任意加入している場合

会社員

60歳以降も厚生年金に継続加入している場合

確定拠出年金制度はそもそも公的年金に上乗せして加入する制度のため、ベースとなる公的年金に加入していない人は上乗せ部分の加入もできない、と理解しましょう。

年金受け取り開始年齢も拡大される

積み立てた年金の受け取り時期についても、現行では60~70歳ですが、70歳以上でも受け取れるよう延長され、60歳~75歳まで拡大します。

加入対象を拡大

さらに、企業型がある会社の従業員もiDeCoに加入しやすく改正されます。企業型に加入中の人が、iDeCoに加入する場合、企業型の掛金の上限を3万5000円に引き下げる(元々の上限は5万5000円/月)必要があるといった理由で、企業型とiDeCoの併用をする人が少ないのが現状でした。

そこで、会社員がiDeCoに加入する場合でも、企業型の掛金の上限額を下げない方向で制度が見直される予定。企業型の掛金を上限の5.5万円で維持しつつ、企業型とiDeCoが併用できるようになります

長寿化が進むなかで、各自がiDeCoなどの制度を活用しながら、老後資金を蓄える必要性は高まっています。今回解説した税制改正の内容は今後内容の詳細が固まることになるので、引き続き情報をウォッチングしておくとよいかもしれません。

  • 回遊舎

株式会社回遊舎

"金融"を専門とする編集・制作プロダクション。 お金に関する記事を企画・取材から執筆、制作まで一手に引き受ける。マネー誌以外にも、育児雑誌や女性誌健康関連記事などのライフスタイル分野も幅広く手掛ける。近著に「貯められない人のための手取り『10分の1』貯金術、」「J-REIT金メダル投資術」(株式会社秀和システム 著者酒井富士子)、「NISA120%活用術」(日本経済出版社)、「めちゃくちゃ売れてるマネー誌ZAiが作った世界で一番わかりやすいニッポンの論点10」(株式会社ダイヤモンド社)、「子育てで破産しないためのお金の本」(株式会社廣済堂出版)など。