ホンダは「シビック タイプR」をマイナーチェンジし、2020年夏頃に日本国内で発売する。いったんは販売終了状態となっていただけに、このクルマの復活を喜んでいるファンもいることだろう。ただ、そもそも気になるのは、こういった高性能なクルマを待ち望んでいる日本の顧客とは一体、どういう人たちなのかということだ。なぜ、シビック タイプRは日本で売れるのか。ホンダで聞いてきた。

  • ホンダの新型「シビック タイプR リミテッドエディション」

    ホンダは「シビック タイプR」をマイナーチェンジして2020年夏ごろに発売する。写真は「サンライトイエローⅡ」の塗装がまぶしい限定モデル「リミテッドエディション」

日本の道路で実力は発揮できる?

「タイプR」というのはホンダの中でも特別なブランドだ。これまでに「R」を名乗ったホンダ車は、「NSX R」「インテグラ タイプR」「シビック タイプR」の3モデルだけである。

シビック タイプRの現行モデルは、世界的に有名なドイツのニュルブルクリンク北コースというサーキットで、量産FF(前輪駆動)モデルで最速のラップタイムをたたき出したという逸話を持つ。高性能で速いクルマなのだ。ちなみに、最速の称号は現在、ルノー「メガーヌ R.S. トロフィーR」というクルマが保有している。シビック タイプRのライバルだ。

今回の新型シビック タイプRにホンダは、「サーキット性能の進化」などを目指した改良を施したという。「軽さと速さを研ぎ澄ませた」世界限定1,000台の「リミテッドエディション」のうち、200台は日本に割り当てる。

ただ、高速道路の制限速度が欧州に比べて低かったり、気軽に走れるサーキットが少なかったりする日本で、こういうクルマを購入しようという人がどのくらいいるのかは、少し疑問だ。オーバースペックというか、買ったとしても持て余すのではないかと想像するからだ。ところが、2017年に発売となったシビック タイプRは、計画の2倍となる年間3,000台を販売したという。この数字が多いのか少ないのかは分からないが、少なくとも、ホンダの思惑より売れたのは確かだ。

なぜ、シビック タイプRが日本で売れるのか。どういう人が買うのか。マイナーチェンジを経て発売となる新型シビック タイプRの事前説明会で、ホンダ 商品ブランド部 商品企画課の齋藤文昭さんに聞いてみた。

  • ホンダの新型「シビック タイプR リミテッドエディション」

    誰が、どんな理由で「シビック タイプR」を買っているのだろうか

ほかと比べて買うようなクルマではない

――現行のシビック タイプRは、順調に売れているそうですね。どうしてでしょうか。

齋藤さん(以下、齋):我々も驚いたというのが正直なところです。

いわゆる「スポーツカー市場」というのは、国内には10万台規模で存在します。ただ、シビック タイプRを買っていただいたお客様は、ほとんど「指名買い」でした。どこかのクルマと、何かを比べたかというと、比べていないんです。乗ってみて、いいか悪いかという判断です。

――メガーヌと比べてみて買う、とかいうわけではない?

齋:もちろん、横眼ではご覧になっていたと思いますが、全くキャラクターが違うといいますか、メガーヌは走りに特化したクルマですが、こちらは後部座席にも乗れますし、居住性も高くて安定感のあるクルマです。おそらく、指名買いになるようなクルマだろうとは考えていたのですが、実際に調査をしてみると、指名買いは7割くらいとすごく高い比率でした。

当初はびくびくしていたんです。なぜなら、450万円のクルマですから。ホンダのクルマで450万円というと、ほかに何があるかというと、「アコード」ですら、その値段ではなかったので。

――昔のイメージでシビックを見ている人にとっては、もっと安いクルマだという感覚があるでしょうね。

齋:そうです。1997年に登場した初代シビック タイプRは199万8,000円で、そのころは年間で大体3,000~4,000台を販売していていましたが、今は2倍超の値段になっているのに、年間3,000台が売れています。市場が作られてきたというのもありますが、これだけ「受け入れられた感」を感じるのは、この機種くらいかなと思います。

――どうして倍の値段なのに同じくらい売れているんでしょう?

齋:市場が成長したというのもあると思いますが、「求められているブランドである」ということも、調査で出てきています。「シビック タイプRを買う時、何を大事にしていますか?」という質問があるんですが、もちろん、このクルマなので、トップは「走行性能」「ハンドリング」「エンジンのスペック」といった回答が出てくるんです。そして、もうひとつが「ブランド」なんです。クルマの雰囲気やネーミング。そういった回答が多く寄せられました。

このクルマが復活を遂げた2017年モデルで、ホンダを築き上げてきた時代から作り上げたブランドとして、おそらく、皆さんに受け取ってもらえたんだと思います。同じような質問に対する「ブランド」という回答の件数が、ホンダ車の平均値から突出しているのが、このクルマなんです。

――齋藤さんは説明会の冒頭で、2019年(暦年、日本国内)のホンダの販売台数を概観しつつ、軽自動車「N-BOX」やSUV「ヴェゼル」、ミニバン「フリード」の好調ぶりに言及した上で、「ユーティリティーカーのイメージが相対的に強くなる一方で、ホンダとして大事にしている、忘れていない、もうひとつの提供価値があります。それが、操る喜びです」と話していました。ホンダは軽やミニバンの会社ではなくて、スポーツカーの会社なんだぞと、そういうブランドなんだぞとおっしゃりたいのでしょうか?

齋:そうではありませんが(笑)、ホンダは「2030年ビジョン」の中で、「すべての人に、『生活の可能性が拡がる喜び』を提供する」というメッセージを掲げました。これを、どう捉えるかだと思うんです。「すべての人に」ということを、こういうところ(スポーツカーの領域)でも示していきたい。それがブランド作りでもあると思います。ただ、ブランドにヒエラルキーがあるわけではありませんが、ホンダのスポーツマインドの頂点にあるのは、まさにこのクルマだとは思っています。

――なるほど。ところで、リミテッドエディションのことなのですが、日本向けに「200台もらった」というような言い方をされていましたが、このクルマは世界的に取り合いになっているんですか?

齋:そうなんですよ。シビックは世界的に売れているクルマですので、世界の規模からいうと、日本は相対的に小さなマーケットです。台数構成を考えると、200台は「よくもらえたな」と思っています。

――こういうクルマって、日本で実力を存分に発揮できるんでしょうか? 例えば、時速50キロ制限の山道を走るとか、都市部で信号につかまりながら走るといった場面では、性能の10分の1くらいしか使えないのではないかと思うんですが。

齋:シビック タイプRでいうと、このクルマをサーキットで乗るために買う人って、実は、そこまで多くないんです。半分以上とかではありません。走行の安定性やハンドリングなどを評価して買っていただく方が多いので、そういう性能を体感し、実感し、快適さを求めるというお客様には、ミートしていると思います。ただ、リミテッドエディションに関しては、一般道ではなくサーキットで乗られるクルマでしょうね。

――せっかくカッコいい黄色の車体ですので、街中でも見かけられると嬉しいのですが、所有者の自宅とサーキットを往復するクルマになってしまうんですね……。

齋:そういう意味では、ちょっともったいないですね(笑)。