福岡工業大学の盧存偉(ろ・ぞんい)教授らは20日、3次元(3D)画像解析と人工知能(AI)を組み合わせ、地震で発生する津波を早期に発見するシステムの開発にめどがついたと発表した。実用化すれば、津波到達の20~30分前に「何時何分に」「何メートル何センチの」津波が「どこに到達するのか」をリアルタイムで予測することができるという。

盧教授らは高さ約70メートルの同大研究棟屋上に超高感度カメラ2台を50~100メートル離して設置し、玄界灘の沖合5~20キロメートルの海面高を24時間365日監視する実証実験に2015年から取り組んでいる。左右のカメラが撮影した画像を合成し、波に関する膨大な3D画像を蓄積した。

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    福岡工業大学研究棟の屋上に設置した超高感度カメラで海面を常時監視している(福岡工業大学提供)

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    左右2台のカメラが撮影した玄界灘の海面。赤線の四角が検出した波(福岡工業大学提供)

次いでAIが3D画像のビッグデータを読み取り、海面高(Hs)と各波の高さ(Hv)を解析。波のパターンを学習し、一般の波か、台風がもたらす高波かを自動的に判定できるようにした。こうした既知のパターンと異なる海面の盛り上がりを検出したときにAIが「津波が押し寄せている」と認識する仕組みだ。

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    ある波(A)の海面高(Hs)と波の高さ(Hv)を示す模式図(福岡工業大学提供)

津波の発見後、到達時刻と波の高さ、到達場所を自動で計算する。現在、日中は可視光で20キロメートル先、夜間には赤外光で10キロメートル先までの津波到達を予測する態勢を整えている。

これまでの実証試験で得た観測結果を気象庁の観測データと照合したところ、潮位の平均誤差はおよそ20センチ以内にとどまっているという。観測ネットワークを構築し、マイクロ波レーダーによる波高分析などと組み合わせれば、津波の検出距離は50キロメートル先まで伸ばせるとみている。

従来、ブイ式津波計による観測や事前のシミュレーションで津波を予測する試みはあるが、陸地に押し寄せる津波の正確な実像を把握することは難しい。今回の技術は沿岸の高所にカメラを設置すればよく、海の環境に与える影響が低いことが利点だ。日本の沿岸ばかりか、世界中に応用が見込める。

ただ、研究プロジェクトが始まった5年前からこれまで、玄界灘で津波を伴う地震が起きていないため、システムが本当に機能するかどうかは未知数。盧教授は「潮位の変化はうまく計算できているので、異常が見つかれば津波と分かるはずだ」と話している。

2011年3月に起きた東日本大震災では、1万5000人を超える犠牲者のうち、9割以上が津波によるものだった。今後想定される南海トラフ地震でも大津波が起きる恐れがある。今回のシステムが実用化し、大津波を早期発見できれば防災に大きく貢献する。

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