フルレストアに18ヵ月以上ということも│ヨーロピアン・コレクションに潜入

この記事は『理想的なポルシェのアウトレット│ヨーロピアン・コレクティブルズのストーリー』の続きです。

ハリウッドの映画スタジオからニックに連絡が入ったこともあった。ジャガーのEタイプ、しかも右ハンドルでユニオンジャック旗のペイントを施したクルマが必要だという。当初ニックは、どうせすぐに忘れられてしまうような映画だろうと思ったものの、実はこのおかげで誕生したのが、かの映画『オースティン・パワーズ(Austin Powers)』に登場したあの"シャガー( Shaguar)"である。Eタイプのこの名車は今日では世界でも有数の価値を有している。
 
21世紀に入ってからポルシェの人気はいよいよ高まり、ヨーロピアン・コレクティブルズは取り扱いの主軸を356と911に移し始めた。クリス・キャスラーや、昨年に惜しまれて他界したジェフ・トラスクのような熱心なポルシェ・ファンの支持を得てのことである。ジェフとは、「ポルシェ356クラブ」の元代表や、カークラブ「912レジストリー」の創設者として、米国のポルシェ・シーンできわめて意欲的に活動したエンスージアストだ。この頃はちょうど英国車マーケットの失速も重なり、空冷ポルシェに集中する方向性はビジネスの観点からも理に適っていた。


 
現在、本社はニックが立ち上げた最初のショップからかなり離れた場所に位置している。1990年代にはロサンゼルスの南にあたるオレンジ・カウンティに拠点を置き、作業ベイも1台分にすぎなかったという。しかし取引の成長とともに追加スペースが必要となり、社は2回ほど移転した。現在のヨーロピアン・コレクティブルズは、太平洋から2マイルと離れていないコスタメサのバブコック・ストリートを拠点としてから12年となる。諸設備を含めた敷地面積は約2.8 ㎢におよび、数多くの従業員が日々のタスクにいそしんでいる。
 
それでも、社の専門は依然としてクラシックカーの売買であることは、特筆しておく必要があるだろう。何台ものクルマが多様なベイで作業を施される様子は、よくあるリペアショップのように見えるかもしれない。しかし、ここに並ぶのはヨーロピアン・コレクティブルズが購入してきたばかりのクルマだ。購入直後のクルマには軽いメンテナンスやリペアが必要とされるため、丁重な作業が加えられる。シートやカーペットを替えることもあれば、ギアボックスやキャブレターをリビルドすることもあるだろう。取材陣が訪れた際には、スタッフが1964 年の356Cクーペを手がけていた。10年間にわたり運転されていなかったため、燃料やブレーキのシステム、ディストリビューターやキャブレターなど、あらゆる箇所に何かしらの"まごころケア"が必要とされていた。


 
ヨーロピアン・コレクティブルズは完全レストアにも毎年数台ほど取り組んでおり、ときには18~24カ月の長期におよぶプロジェクトもあるという。356のボディワークだけでも、クルーの作業時間が350~400時間に達することもある。こうした長期プロセス(古い塗装の除去、前処理、下塗り、サンディングブロックによる研磨、研ぎ作業、塗装などを含む工程)は平均して4カ月ほどかかるという。
 
メインのショールームは25台以上のクルマを収容できる上に、道を挟んだオフィスビルの下にあるディスプレイにはさらに5 台が展示されている。また、カーポートにも8台を収容できる。作業エリアにうつると、最初のベイ2台には機械操作専用のリフトが備わっている。続いて広い組み立てエリアがあり、3台のリフトが備えられている。次のベイ2台にはボディワークを必要とするクルマが置かれ、奥のドアのむこうには下向き通風の塗装ブースが続く。
 
さらに、仕切られたユニットにはシャシー部門が置かれている。その隣のビルにはメタルワーク用に2~3台のベイが備えられ、パーツ部屋にはレストアでよく使われる部品のつまった容器が山積みに並ぶ。クリスが語る。「クローム作業と内装以外はすべて自社で行っています。内装は地元ショップに依頼していますが、メルセデス300SL、フェラーリ275、ジャガーXKE、ポルシェの911や356など、扱うクルマにあわせて複数のショップを使いわけています」


 
ヨーロピアン・コレクティブルズは、高評判のおかげでリピーター顧客が販売目録の50 %を占める。昨今の取引ではジャガー、フェラーリ、アストンマーティンなども時おり見られるものの、比率がもっとも高いのはポルシェだという。ポルシェのみの内訳では356が販売チャートのトップを飾り、2位に空冷911、3位に912と続く。空冷911や912は昨今とみに顧客の注目度が上がっており、大半の人々から見過ごされていた2000年前後の状況に比べると隔世の感がある。
 
ヨーロピアン・コレクティブルズは、クラシックモデル入門ドライバー向けの完成車からコンクール受賞レベルの作品に至るまで、まさにすべてを取り揃えている。クラシック・ポルシェのことなら、ほぼなんでもこなす優れたスタッフのおかげで、ビジネスの能率も高く、それでいて最高級のクオリティ・コントロールもお墨付きだ。とはいえ、取材陣の言葉を真に受けるかどうかはあなた次第だ。南カリフォルニアに訪れる際には、ぜひ実際に足を運び、評判の真相をその目で確かめてはいかがだろうか。