トヨタ自動車はスバルへの出資比率を20%に引き上げ、同社を持分法適用会社とした。これでスバルはトヨタの関連会社となったわけだが、今後の同社の身の振り方が気になる。“スバリスト”と呼ばれるコアなファンを抱えるスバルは、これからも個性的なブランドであり続けられるのだろうか。

  • スバル「レヴォーグ」のプロトタイプ

    トヨタの関連会社になってもスバルらしさは残るのだろうか(画像はスバルが2020年後半の発売を予定する新型「レヴォーグ」のプロトタイプ)

2019年9月に両社は、資本業務提携の拡大を発表していた。トヨタはこのほど、スバルの株式を追加取得し、同社への出資比率を従来の16.8%から20%へと引き上げた。

これによりスバルは、自動車メーカーとしてはダイハツ工業(トヨタが100%を出資する完全子会社)、日野自動車(トヨタが50.1%を出資する子会社)に続く3社目の関連会社としてトヨタグループに入ったことになる。つまり、スバルはトヨタの関連会社として、「持分法」というやり方でトヨタの連結決算に加わることになったのだ。

トヨタとスバルの資本業務提携拡大、スバルのトヨタグループ入りの意味は何だろうか。スバルはブランドの個性を維持できるのだろうか。今回の連携強化は両社にとってどのようなメリットをもたらすのか。改めて考えてみた。

トヨタの危機感とスバルの宿命

トヨタは「100年に一度の自動車大転換期」に危機感を持ち、「仲間づくりを広げることでこの大変革期を生き抜く」(豊田章男トヨタ社長)方針を強めている。提携先は自動車メーカーにとどまらず、IT企業やAI関連企業とも積極的に手を組んでいる。

トヨタの向かうところは「モビリティカンパニー」への転身だ。そこには、「CASE」や「MaaS」(※)といった次世代の技術・移動システムに対し、懐を深くして対応していきたいという思いがある。

※編集部注:「CASE」は「Connected」(コネクティッドカー)、「Autonomous」(自動運転)、「Shared & Service」(カーシェアリングなど)、「Electric Drive」(クルマの電動化)という4つの言葉の頭文字をとってダイムラーが使い始めた造語。「MaaS」は「モビリティ・アズ・ア・サービス」の頭文字をとった略語

  • トヨタの豊田章男社長

    CASEの進展などを踏まえ、ことあるごとに「危機感」を口にするトヨタの豊田社長

日本の乗用車メーカー勢力図で“トヨタ一強”の度合いが強まる中、仏ルノー・日産自動車・三菱自動車工業の外資提携組とホンダを除く中堅メーカーは、トヨタとの資本業務提携でこの大転換期を生き抜く方向を示してきている。スバルのほか、マツダとスズキがトヨタとの資本提携に踏み込んだのだ。

ただし、トヨタの出資比率はマツダが5.1%、スズキが4.94%であり、ともに約5%にとどまる。これに対し、スバルへの出資比率は20%だ。スバルの業績は、トヨタの決算に直接、影響を与えることになる。つまり、販売台数でいえば、トヨタの世界販売にスバル分も加わることになるのだ。

これによりトヨタは、世界販売で一気に独フォルクスワーゲン(VW)を抜き、世界首位を奪還できる。トヨタの2019年世界販売は、ダイハツ・日野を含めて1,074万台でVWの1,097万台に次ぐ2位だったが、スバル分を足すと1,178万台になる。ただ、トヨタがスバルを持分法適用会社とするのは、単なる台数のボリュームアップを狙った動きではないはずだ。

トヨタにとって魅力的なのはやはり、中島飛行機を源流とするスバルが持つ独自の技術だろう。スバルは航空機開発の流れをくむ水平対向エンジンとAWD(全輪駆動)技術を特徴とする自動車メーカーだ。また、世界ラリー選手権(WRC)などのモータースポーツで培ったスポーツ性能や「アイサイト」で知られる安全技術でも独自性を持つ。スバル車には“スバリスト”と呼ばれる根強いファンもいる。

  • 船積みされたスバル車

    海外のスバリスト向けに船積みされたスバル車

他社との提携を巡って紆余曲折を経てきたのが、スバルという会社だ。同社は1968年から1999年まで日産と資本業務提携を結んでいたが、1990年代末に日産が業績不振に陥り、ルノーとの提携に踏み切ったことで、スバルは日産と離れてGMとの提携に切り替えた。今度はGMが経営破綻し、トヨタと提携を結んだという経緯がある。中島飛行機をルーツに持ち、技術力には定評のあるスバルだが、ニッチな自動車メーカーとしては、どこかと提携し、グループとして生き抜かざるを得ないという宿命を背負っているのだ。

スバルとトヨタが提携したことにより生まれたのが、2012年に両社が発売した共同開発のスポーツクーペ「86/BRZ」だ。このクルマは水平対向エンジンと縦置きプラットフォームを活用している。このほかにも、スバルの米国工場「SIA」でトヨタ「カムリ」を生産するなど、両社による事業協力は進んでいった。

だが、その後のトヨタとスバルの提携事業は停滞していた。この間、スバルは国内工場の完成検査不正問題で対応に追われ、その立て直しに苦心していたという事情もある。

そんな中、2019年6月にトヨタとスバルは、スバルのAWD技術とトヨタの電動化技術を活用した電気自動車(EV)専用プラットフォームとEV車両を共同開発すると発表。具体的には、両社が中・大型乗用車EV専用プラットフォームを開発し、CセグメントからDセグメントのセダンとSUVを作るという話だ。

EVの共同開発を発表してから3カ月の2019年9月、両社は資本提携拡大を発表し、トヨタがスバルへの出資比率を20%に引き上げるとともに、スバルもトヨタに0.4%を出資し、株式を持ち合うと明らかにしたのだった。

この流れを見ると、スバルでは社長が前任の吉永泰之氏から現在の中村知美氏に移行し、完成車検査不正問題への対応も一段落したことで、トヨタとの連携を改めて強化しようとしているようだ。スバルはトヨタグループに入り、電動化や自動運転、コネクティッドといったCASE分野での協力関係を強固なものとしていく方向を選んだということになる。

スバルの中村知美社長とトヨタの豊田章男社長は、ともに慶応大学卒の同窓でもあり、両社の協調・協力関係はスムーズなものになっているとの見方もある。ただ、中村社長は「明確なトヨタグループ入りといっても、あくまでスバルブランドの独自性は貫く。協調と競争はしっかりやって、スバルの方向性で進んでいく」とし、スバルブランドの独自性をサステイナブルにするための提携強化である点を強調している。

  • スバルの中村社長

    スバルの中村社長はブランドの独自性を貫くと強調する

先日の技術説明会で中村社長は、2030年までに世界販売の40%以上を「電動車」(ハイブリッド車やEVなど)にすると発表した。この目標を達成するためには、2020年代前半の市場投入を予定するトヨタとの共同開発EVに加え、トヨタのシステムを活用したハイブリッド車を含む電動車のラインアップ拡充が欠かせない。

トヨタとの提携第1弾だった水平対向エンジンのFR(後輪駆動)スポーツクーペ「86/BRZ」の次期型車も、近く発表となるはずだ。トヨタは86、スバルはBRZの後継車として、このクルマを取り扱っていくことになるだろう。また、スバルのコンパクトスポーツ「WRX STI」も、トヨタとの連携で後継開発が進むことになりそうだ。

  • トヨタ「86」

    スバルとの共同開発により生まれたスポーツカーのトヨタ「86」。次期型の登場も決定済みだ

富士重工だった時代、スバルのトップは同社の目指す方向について「アウディのような自動車メーカーに」と語っていた。アウディは現在、VWグループのブランドとして存在感を高めている。今後のスバルは、トヨタグループの中でブランドとしての存在感を示していけるだろうか。そのあたりに注目したい。

著者情報:佃義夫(ツクダ・ヨシオ)

1970年に日刊自動車新聞社入社、編集局に配属となる。編集局長、取締役、常務、専務、主筆(編集・出版総括)を歴任し、同社代表取締役社長に就任。2014年6月の退任後は佃モビリティ総研代表として執筆や講演活動などを行う。『NEXT MOBILITY』主筆、東京オートサロン実行委員なども務める。主な著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)、「この激動期、トヨタだけがなぜ大増益なのか」(すばる舎)など。