カルシウム不足でイライラするという説もありますが、それは本当でしょうか? 牛乳でカルシウムを補えばイライラ解消はできるのか、カルシウム不足が招く不調は何なのか。栄養学的観点から解説します。

◆最近イライラが止まらない! 怒りっぽいのはカルシウム不足が原因?
「カルシウム不足でイライラする」「カルシウムが足りないから怒りっぽい」というのは本当でしょうか? 確かにカルシウムには、心拍を規則正しく保つ、筋肉の収縮などに必要であるといった大事なはたらきがあり、神経伝達に関与していることは間違いありません。

そのため、カルシウム不足が原因で、イライラなどの不調が起こるという考えが生まれたのかもしれません。

しかし実際には、皆さんご存知の通り、カルシウムは骨などの成分でもあり、直接代謝に利用しないカルシウムが体内にはしっかり存在しています。もし代謝に使うカルシウムが不足してしまった場合は、骨から補充されるのです。

そのため、牛乳や小魚などからカルシウムを意識的に摂っていない状態でも、血液中のカルシウム量は常にほぼ一定に保たれています。カルシウムの摂取不足でイライラするとか怒りっぽくなるということは、栄養学的には考えにくいといっていいでしょう。

◆カルシウム不足の実態・関連する症状・病気
それではなぜこのようなウワサが、まことしやかに一般化してしまったのでしょうか。これは、そもそも上記のような誤解があることに加え、カルシウム摂取量が不足している人が非常に多く、多くの人に「カルシウム足りてないんじゃないの?」という指摘が当てはまるからではないかと思います。

例えば、「平成30年国民健康・栄養調査報告(PDF)」でカルシウム摂取量をみると、20歳以上の男性504mg、女性500mgです。これに対して「日本人の食事摂取基準(2020年版)(PDF)」では、18~29歳の男性は650mg、30歳以上の男性は600mg、15~74歳の女性で550mg、74歳以上の女性で500mgが推定平均必要量と定められています。

つまり、年代によって差はあるものの、多くの人が50~150mgのカルシウム不足の状態にあることが分かります。

カルシウムは先述の通り、不足したからといってすぐに欠乏症などの症状が出るわけではありません。

しかし「骨や歯から血液に補充する」ために骨のカルシウムは少なくなっていきますから、「骨粗しょう症」のリスクが上がったり、歯がもろくなったりというような将来的な問題は起こりやすくなります。イライラや怒りっぽさとの問題とは関係なく、やはりカルシウムはしっかりと摂りたいところです。

◆不足分のカルシウムを補うには
それでは、不足している50~150mgのカルシウムを補うにはどうすればよいでしょうか? 最も手軽で簡単なのは、牛乳を飲むことです。正確には牛乳100gあたり220mgというのが「日本食品標準成分表(2015年版)」の数字ですが、ざっくり1cc=1mgと換算すれば問題ありません。小さめのコップ1杯(150ml)程度を飲めば、150mg程度の追加は可能になります。

牛乳が苦手でも、乳製品が食べられるのであれば同じような効果は得られます。乳製品が苦手な場合には、小魚、海藻、大豆および大豆製品、緑黄色野菜などの食品に多く含まれていますから、意識的に摂取するように心がけましょう。

◆ダイエット・減量で骨塩量が減少する
血液中のカルシウム不足が起こると、代謝に問題がないように骨からカルシウムを溶け出させてまで血液濃度を保とうとするのは前述の通り。

これほどまでに大切なカルシウムですが、実は不用意なダイエットによって、代謝に負担がかかり骨塩量が低下してしまうことをご存知でしょうか? 私の先輩の修士論文である「骨粗鬆症のリスクとしてのアルデヒド脱水素酵素遺伝子A対立遺伝子の減量指導受講者と大腿骨頚部骨折患者への影響」に、その話が詳細に載せられています。

この研究では、日本人の中高年女性が半年間の減量コースに通って食事療法をしながら減量したにもかかわらず、骨密度が低下してしまったというショッキングな結果が報告されています。栄養士がバックアップして食事のケアを行っていた減量コースだったので、研究室一同も結果を見たときには「どうして?」と動揺を隠せませんでした。

もちろんその後はこの結果を受けて、栄養士たちがカルシウム摂取についてもしっかり指導を行い、骨密度を低下させずにダイエットを成功させられるようになりました。

ここで問題となるのは、「栄養士がバックアップして食事のケアを行っていた」にもかかわらず、骨密度が減少してしまうことがあったということです。専門家のアドバイスもなく、カルシウムの摂取量にも栄養バランスにも配慮のないダイエットした場合どうなってしまうのかは、簡単に想像ができると思います。ダイエット法を選ぶ際には、十分に気をつけて下さい。

なお、骨粗しょう症は特に閉経後の中高年の女性に罹患率の多い病気ですが、実際に骨にカルシウムを溜めこむことができるのは思春期までです。20~30代はMaxの状態をキープできますが、40代辺りから少しずつ骨密度が低下していき、悪くすると骨粗しょう症や骨折ということにつながっていきます。

カルシウムは年代を問わず「骨を強くするために摂る」、特に思春期は「Max値を上げるためにかなり積極的に摂る」ことをオススメします。

このように体にとって大切なカルシウム。とはいえ、安易にサプリメントに頼るのは考えもの。サプリメントは手軽なだけに、過剰摂取による身体への悪影響が懸念されます。上手に「食品から」摂るように心がけましょう。

■参考・骨粗しょう症財団・健康長寿ネット・農林水産省・厚生労働省・厚生労働省(「統合医療」情報発信サイト)

◇平井 千里プロフィール
メタボ研究を行いエビデンスに則ったダイエットを教える管理栄養士。小田原短期大学 食物栄養学科 准教授。女子栄養大学大学院(博士課程)修了。前職の病院での栄養科責任者、栄養相談業務の経験を活かし、現在は教壇に立つ傍ら、実践に即した栄養の基礎を発信している。

文=平井 千里(管理栄養士)