ミウラを作った80歳超の天才エンジニアが開発する本物のスポーツカーに試乗!

”ダラーラ”(より正確に言えばダッラーラ)と聞いて皆さんは何を思い浮かべただろうか。スーパーカー世代ならランボルギーニミウラを作った天才エンジニアのジャンパオロ・ダラーラだろうし、レースマニアなら世界一のレーシングコンストラクターかもしれない。
 
ジャンパオロが設立したダラーラ・アウトモビリ社。今、ダラーラ製の車体を抜きにして世界のレース、なかでもフォーミュラーカテゴリーは成り立たない。FIA F2やF3、インディ、フォーミュラE、日本のスーパーフォーミュラといったメジャーレースは事実上ダラーラ製マシンのワンメイクとなっているし、F1やLMP2などにももちろん関わっている。間違いなく世界一のレーシングカーメーカーだ。
 
1936年、エミリア=ロマーニャ州パルマ県ヴァラーノ・デ・メレガーリ生まれ。ミラノ工科大学で航空工学を学んだジャンパオロは風洞実験ができる人材ということでフェラーリへ入社。自動車産業でのキャリアをスタートさせたというあたりが、いかにも天才だ(凡人はフェラーリでキャリアを終えたがる)。マセラティ、ランボルギーニと渡り歩いたのち移った先のデ・トマゾがウィリアムズと組んだことで念願のレーシングカー造りに携わった。1972年に自身の名を冠したコンストラクターを故郷に設立、現在に至る。


1982年 ダラーラ382 フォーミュラ3
 
面白い点はレーシングカーを造りたくてイタリアの名門を渡り歩いた(レースカー設計をエサに勧誘された)けれども叶わず、その代わりに造ったロードカーが先に有名になってしまったことだった。ミウラ然り、デ・トマゾ パンテーラ然り。このあたりの経験もまた今回の本題であるダラーラ・ストラダーレ開発に関わっていると言っていい。
 
実をいうとダラーラが開発に関与したロードカー&レースカーは枚挙にいとまがない。ぱっと思いつくだけでもBMW M1やフェラーリF50GT&333SP、ランチアLC1&LC2、ブガッティ・ヴェイロン&シロン、マセラティMC12、KTMクロスボウ、トヨタGTワン、ホンダRA199などが挙がるし、最近ではランボルギーニ・ウラカンのワンメイク用レースカー、スーパートロフェオもダラーラ開発だった。そのほかダラーラ関与を公表できない秘匿プロジェクトも多い。
 
歴史的にみてロードカーとレーシングカーの両方の分野において、これほどまで名車を輩出した独立系エンジニアはほかにいないと思う。比肩するとすれば古のポルシェ親子かダラーラも尊敬するコーリン・チャプマンだろう。エンジニアでなければエンツォ・フェラーリ……。いずれにしてもジャンパオロの飛び抜けた資質が理解できよう。


 
前置きがずいぶんと長くなってしまった。そんなジャンパオロがどうして今、”ふたたび”ロードカーを造ったのか。実は筆者はこのプロジェクトが正式に発表される前に本人から直接その理由を聞かされていた。以下、少し長くなるが重要な証言なのでインタビュー内容を抄録しておく。

「今モデナは再び自動車開発の最先端になった。フェラーリが独立をしてその傾向はさらに強まっている。それでも昔ほど刺激的ではない。自分がミウラを作った頃は何にでも挑戦できた。ミウラには反省すべき点もあったがそれ以上に挑戦的な点も沢山あった。何もかもが複雑になった今もう一度ミウラのようなロードカープロジェクトを独力で取り組むのは不可能に近い。とはいえ常に新しいことには挑戦していきたい。もう一度、自分の名前を冠したロードカーを作ってみたいんだ。ミウラのようなスーパーカーは無理でも、もっと繊細でシンプルで誰もが乗ってみたくなるような運転の楽しいスポーツカーなら、培ってきたレースカー製造の技術を活用して作ることはできる。そう、80歳を越える私でも操れるようなスポーツカーなら……」(2014年10月、京都にてジャンパオロ・ダラーラ語る)
 
2016年の11月16日。ジャンパオロの80回目にあたる誕生日のその日にロードカープロジェクトは正式に披露された。念願のロードカーの名はシンプルに「ダラーラ・ストラダーレ」(ストラダーレとはイタリア語で道の意)と予め決められていた。席上ジャンパオロはつめかけた報道陣にこう約束している。「今日からちょうど一年後に最初のカスタマーカーを納車する」。
 
2017年11月16日、「ダラーラ・ストラダーレ」がワールドプレミアされたのはジャンパオロ故郷の地だった。発表は本社ではなくあらたに「ストラダーレ」用として新たに建設されたファクトリー脇の特設会場。新工場はジャンパオロの生家の並びにあり、70年代初頭に独立して初めてファクトリーを構えた記念すべき場所に隣接していた。ジャンパオロのストラダーレに懸けた想いの丈が伺えよう。一年前の約束通りカスタマーカーも同時に本社デリバリーされ、発表後には全員で市内のパレードランを楽しんでいる(初期の限定モデルオーナーを数名招いていた)。車重855㎏、最高出力400馬力!

世界600台の限定車「ストラダーレ」の概要はいたってシンプルだ。ダラーラお得意のプリプレグ式オートクレーブ成形のCFRP(炭素繊維強化樹脂)モノコックに前後アルミニムフレームというスーパーカーの世界では常識的な成り立ちである。フロントアルミニウムフレームとモノコックボディを接合する部分にはプリプレグのプレスモールディング成形を使った。外装パネルももちろんカーボン製。


 
ミドに横置きされたエンジンは軽量かつ強固で耐久性にも優れたフォード製2.3リッター直4エンジンブロックをベースに、ダラーラのエンジニアリング部門が独自の設計部品を織り込みツインターボ化したもの。トランスミッションは3ペダル6速マニュアルもしくはパドル式2ペダル6速ロボタイズドを選択する(左ハンドルのみ)。エンジンやシャシーのマネージメントシステムは長年ダラーラ社と協力関係にある独ボッシュ社との共同開発とした。


 
最高速が280km/h、0→100km/h加速は3.25秒である。最高出力400ps&最大トルク500Nmというエンジンスペックとともに最新スーパースポーツとしては数字的にモノ足りないと思われるかもしれない。けれども乾燥重量わずかに855キロという車体には十二分なエンジンスペックで、パワーウェイトレシオは実に2.14。ダラーラとしては馬力をむやみに上げて加速性能や最高速を競うのではなくシャシーや空力を練り上げることでロードカーとして異次元のパフォーマンスを実現したかったという。それが正にジャンパオロの描いたスポーツカー像なのだ。

基本的にはドアレスのオープン2シーター・バルケッタスタイルがベースとなる。ドアレスとなった理由としては車両軽量化や開発コスト削減が挙げられる。
 
巨大なカーボン製リアウィング(オプション)を装備した状態がサーキットで最も速い仕様だ。ワイパー付きウィンドウシールドを加えたロードスタースタイルやT型タルガトップのクーペスタイル、ガルウィングウィンドウドア付きフルキャノピークーペスタイルを選ぶことができる。フルキャノピーのクーペスタイルを選んでおけば、他のどの仕様への変更も専用工具で自ら行なうことができるという。日常利用を考えればエアコン付きとなるフルキャノピー仕様を選ぶことになるだろう。


 
正規輸入元であるアトランティック・カーズが用意した試乗車は、マットカーボンボディをまとったスパルタンなクーペ仕様だった。カーボンビジブル仕様はオプションで、黒のみならずカラーを選ぶことも可能だ。




今回、アトランティックカーズでは6色から選ぶことが出来た。


 
ルーフのないバルケッタ仕様などであればドアがなくとも比較的乗り降りしやすかった。けれどもクーペ仕様のガルウィングウィンドウからの出入りは多少難儀する。シートの股の部分にステップが用意されており、それを目がけてまずは右アシを入れ、ボディショルダーにいったん腰を降ろしてから左アシをミラーに当たらないよう持ち上げつつ身体を海老のように丸めて室内に落としこむ、といった要領だ。出る時はできるだけハンドルに荷重をかけない方が良い。ボディショルダーには常に何かしら身体の一部が触れてしまうので、保護シートを貼っておくのがベターだ。
 
乗り込んでしまうと跳ね上がったガルウィングドアに手が届かない。ベルトを締める前に降ろしておきたい。ちなみにキャノピーのガルウィングウィンドウを内側(ドライバー)から閉めようとするとしっかりハマらないことがある。改善ポイントだろう。


 
インテリアは見るからに必要最小限の装備内容で、シンプルさが際立つ。ダッシュボードやシートはCFRPバスタブの形状をそのまま活用しステッチ入りレザーを張っている。シートパッドもまた必要最小限というべきで、長距離利用には向かない。モノコック一体型のためシートは固定で、それゆえペダルボックスを移動してドラポジを調整する。
 
ロードカーとしては極端に小さなハンドルを握りしめた。すでに心拍数が上がっている。乗りこみに苦労したからもあるけれど、カーボン&アルカンタラのハンドルにはレーシングカーのようにボタンが沢山並んでいたからでもあった。ボタンの機能はウィンカーやライト、車高の選択(レースモード)などである。
 
どこかで見たことのあるような形状のハンドブレーキをおろし、パドルで1速を選んでまずは300PSのノーマルモードで走り出す。軽く踏み込んだだけで早くも車体の軽さを実感できた。車体を左右に軽く振ってみれば、まるで前輪を両の腕で抱え込んだかのようなダイレクトな動きをみせる。早くもフォーミュラ風味満載。路面の近さに車両バランスの良さが相まって、いきなりマシンと一体となれる。

加速も素晴らしい。速いうえに安定感もすこぶるつき。安心できる速さだ。それならば、とスポーツモード400PSを選んで右足を踏み込んでみる。分厚いトルクによって右足の裏が押し返されるような感覚に見舞われた。確かで力強いレスポンスが心地いい。幅広い回転域で自由自在に引き出せる500Nmの恩恵だ。サウンドは典型的なターボカーのそれだった。


 
交差点を曲がるだけで楽しいと思える車である。日を改めて違う個体(こちらには合法4点式シートベルトが備わっていた)を借り出し、ワインディングロードに向かってみた。
 
1つ2つとコーナーをクリアすればたちまち確信にいたる。初心者からエキスパートまで誰もが楽しめるスポーツカーだ、と。ハンドルを動かすたびに、アクセルやブレーキを踏むたびに、なんともいえぬ感動に包まれる。それは機械を操るという根源的な楽しさの現れだ。ちなみに筆者はサーキットでもプロトタイプを試乗した経験がある。いくら自分では速く走っているつもりでもマシンは余裕しゃくしゃくで、まるで路面と一体となったよう。フォーミュラーカーを初めて駆ったときのことを思い出す。
 
実はこのストラダーレ、ロードカーの流儀でサーキットを速く走らせようとしてはいけないのだ。800キロ以上というロードカーにはありえないダウンフォース(リアウィング付き)の発生を上手に使ってコーナーを速く駆け抜けるというレーシングテクニック(もしくはくそ度胸)とたくましい腕力が必要なのだ。ちなみにダラーラでは、そのテクニックの特殊性ゆえ、本社にカスタマーを招き、スクーデリアフェラーリと同じ仕様の超高性能ドライビングシミュレーターも使ってストラダーレを速く走らせる”コツ”を伝授するというプログラムまで用意する。


 
驚くべきことにライドコンフォートと表現できるレベルに収まった乗り心地を実現した。もちろん、ロードカーのなかでは最もスパルタンな部類で硬い板の上に乗る感覚はある。段差を越えるたびに盛大なきしみ音も発する。けれども耐えられないというものではなく、乗り心地の悪いと言われるスポーツセダンやミドシップカーよりは長く乗っていられそうだ。
 
ポルシェやフェラーリの役モノで飽き足らなくなったハードドライビング派に乗ってもらいたい。ライバルを強いて挙げれば英国のBACモノやラディカル、アルティマ、それにロータス3イレブンか。いずれにせよ”サーキットが恋しくなるマシン”であることには違いない。世界一のレーシングカーコンストラクターが造ったマシンだけのことはある。