創設以来、その動向が謎に包まれていた米国のロケット・ベンチャー企業「アストラ(Astra)」が、2020年2月4日に、ついにヴェールを脱いだ。

同社が目指すのは、「退屈なロケット」による「宇宙へのアクセスを毎日提供すること」だとし、そしてまもなく、そのロケットによる人工衛星の打ち上げに挑むという。

2016年の創設から約3年の間、はたして同社はどのような活動をしてきたのか。どのようなロケットを造り上げようとしているのか。そして、これからどのような展開を考えているのか。現時点でわかっていることについてまとめた。

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    2018年7月に打ち上げられた「ロケット1.0」 (C) Astra

謎だらけだったアストラ

アストラ(Astra)はカリフォルニア州を拠点とする企業で、小型・超小型衛星を打ち上げることに特化した超小型ロケット(Micro Launcher)を開発している。

創設したのは、Chris C. Kemp氏とAdam London氏の、ともに40代の人物である。Kemp氏はITスタートアップの起業を経て、米国航空宇宙局(NASA)でオープンソースのクラウド基盤構築のためのフリーソフトウェア「OpenStack」の開発に携わったり、「Google Moon」や「Google Mars」を製作したりといった実績を残したのち退職。新たにネビュラ(Nebula)というITスタートアップを立ち上げた。同社は2015年に大手ソフトウェア会社のオラクルに買収され、まとまった資金を手に入れた。

一方London氏は、マサチューセッツ工科大学で航空宇宙工学の博士号を取った筋金入りのロケット・エンジニアで、2006年に「ヴェンションズ(Ventions)」というロケット・ベンチャー企業を設立し、NASAや国防高等研究計画局(DARPA)からの委託を受けて、世界最小の再生冷却(液冷)式ロケットエンジンなどの技術開発を実施。そして12年が経ったころ、次の事業について考えていたKemp氏と出会い、意気投合。2016年10月にアストラを立ち上げた。

しかし、創設から3年以上にわたり、同社は公式Webサイトやツイッターのアカウントもないばかりか、メディアの取材を受けることもなく、ほとんど一切の情報を出さない、"ステルス・モード"にあった。

かろうじて漏れ伝わってきたのは、スペースXをはじめとするさまざまな宇宙企業から技術者を集めていたこと、超小型ロケットを開発していること、そして2018年に2回、ロケットのサブ・オービタル(準軌道)飛行試験を行った、ということくらいであった。

ところが2020年に入り、同社は突如として公式サイトの開設やメディアへの露出を開始。そして、数週間以内にも衛星の打ち上げに挑戦すると明らかにした。

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    燃焼試験を行うロケット1.0 (C) Astra

ヴェールを脱いだアストラ

アストラが明らかにしたところによると、まず創設から3か月後の2017年1月に、カリフォルニア州アラメダにロケットの開発と試験を行う拠点を設立。この場所はもともと海軍の航空基地があり、そのジェットエンジンの試験施設を改修したという。

そして、並行してロケットの設計や開発を行い、2018年7月にアラスカ州コディアックにあるPSCA(Pacific Spaceport Complex - Alaska、直訳で大西洋宇宙港施設・アラスカ)から最初の打ち上げに挑んだ。同社が開発するロケットは、その名もずばり「ロケット(Rocket)」という名前で、この最初のロケットは「ロケット1.0」と呼ばれている。ロケット1.0は1段目こそ実機と似ているものの、2段目は金属の塊でダミーだった。この打ち上げは失敗に終わったという。

同年11月には、「ロケット2.0」をコディアックから打ち上げた。この2.0は、1.0より実際の衛星打ち上げ用ロケットに近いもので、高度100kmに到達するだけの能力があったという。2.0もまた、なんらかのトラブルで、飛行は計画よりも短時間かつ低高度で終わったものの、大きな成果が得られたとしている。

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    製造中のロケット (C) Astra

2019年3月には、DARPAが実施する技術開発計画「DARPAローンチ・チャレンジ(DARPA Launch Challenge)」のファイナリストに選定された。この計画は、衛星を迅速かつどこからでも打ち上げることを目指したもので、DARPAはまず、ロケット会社に対して、打ち上げ日の数週間前に打ち上げ場所を、さらに数日前に衛星の仕様や打ち上げる軌道といった情報を伝える。そして会社側は、その限られた短い時間の中で打ち上げを行う必要がある。この条件をクリアして打ち上げに成功したチームには、賞金1200万ドルが贈られる。

選定時、DARPAは「ヴァージン・オービット、ベクター・スペース・システムズ、非公開の会社の計3社を選んだ」と発表していた。このうち非公開だった会社がアストラだったということになる。ちなみに現時点で、ヴァージン・オービットは超小型ロケットの開発を継続してはいるものの、DARPAローンチ・チャレンジからは辞退。ベクターは2019年12月に破産しており、アストラは同チャレンジに関わっている唯一の企業となっている。

さらに2019年7月には、アラメダの拠点を拡張し、本社や工場を新設。10月にはコディアックにアストラ専用の発射場の建設を終えている。

また、宇宙業界やメディアに対してはステルスを決め込んでいた同社だが、投資ファンドには積極的にアプローチしていたようで、これまでにGoogleの元CEOエリック・シュミット氏が率いるベンチャー・キャピタルInnovation Endeavorsや、Airbus Venturesなど、いくつもの投資ファンドから、合計1億ドル以上を調達しているという。

現時点で従業員数は170人にもなり、そして早ければ今後数週間以内にも、「ロケット3.0」による人工衛星の打ち上げに挑むとしている。

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    アラスカ州コディアックに造られたアストラ専用の発射場 (C) Astra